大好きな歌で成り上がる!~元孤児でも、歌うことは諦めません~

kurimomo

文字の大きさ
23 / 53
第二章 側仕え編

へそくりはバレないようにやりましょう

しおりを挟む
うふふふふふ。ここ最近の中で、私はトップクラスの喜びを感じている。なぜならば、歌のレッスンが公式に認めらたんたからね! 



「褒めて遣わそう」、そう言われたときは額の青筋を押さえつけるのに精いっぱいだったが、歌のレッスン時間を確保してくれたことだし、ひとまずチャラにしておこう。



それにしても、神官長の歌はすごかったな……。



時は、先程の楽器演奏の時間に少し遡る。



ーー



「ふむ。なかなかの演奏だった。褒めて遣わそう。」



「……ありがとう存じます。」



「其方には、掃除終了から昼食の時間まで、楽師としての技術向上を命じる。私を落胆させぬよう、励むように。」



「ありがとう存じます!」



ーー



……温厚な私でなければ、神官長の顔がはれ上がって大問題になるところだった。幸いにも歌の練習の許可が出たことにより喜びが怒りに勝って事なきを得た。





「それにしても、其方の歌はあまり一般的ではないな。」



「そうですね。一般的な曲とはテンポが違います。さらに、神をたたえる歌が一般的なので、歌詞もあまり一般的ではないですね。」





神官長とユットゲーが、急にそんな話を始めた。一般的ではないが褒められているのか、けなされているのかは定かではないが、そういう話は私が退室してからしてほしい。





「そうだな。まあ、一般的ではないというだけで耳障りなものではないゆえ、批判を買うことはあまりないだろう。……だが、一般的な曲が必要となることもあるかもしれない。楽譜を与えて、練習させておくとするか。」



「神官長、流石に聞いたこともない曲を自力で取得するのは難しいかと思われます。」



「そうか? 私にはあまり経験のないことだが……。」



……いやいや、流石にそれは無理でしょ! 聞いたこともない、異世界の神をたたえる曲の楽譜を見て演奏できるようになれなんて、この顔だけの男は本気でそんなことを言っているのだろうか? それに、私には経験がないですって? ナルシストなのか素で言っているのかは知らないがとてもムカつく。



すると意外なことに、寡黙な帯剣神官から助け舟が出された。





「では、神官長が演奏なさって、この者に神官長の実力を示すのはいかがでしょうか。私にとっては、神官長の歌こそ至高です。」



「ふむ。別に、この者と張り合っているわけではないが、まあよかろう。パイル、シュトラウスを私に。」





まあ、随分と自信がおありのようだ。もはや、苛立ちを通り越して早く聞いてみたいとすら思っている。私はシュトラウスを丁寧に神官長に手渡した。





「では、『光の女神に捧げる歌』を。」



神官長は静かにそういうと、ビンッと心の深いところに響くような低い音をつま弾いた。そして、深く澄み渡るような声で歌いだした。



……な、なんてこと! とても、いやとんでもなくうまい! まるで、洗練されたテノール歌手のようだ。この声を聴いたら、どんな人でもとりこになってしまうのではないかと思えるほどの美声だ。加えて、シュトラウスもとんでもなくうまい。神にささげる歌のため、テンポはゆっくりでそれ程難しくなさそうに見えるが、音の一つひとつがしっかりとつま弾かれている。



これなら、あの余裕のある態度も納得がいく。私の歌を「なかなか」「まあまあ」と評したことも納得……いえ、しないわ! 

私には再現できない、男性の美しい声色だ。だけど、私にだって積み重ねてきた時間と歌に対する思いがある。歌だけは、貴賎関係なくどんな人とも対等でいたい。誰にも負けたくない。だって、私は歌が大好きなのだから。



だけど、それと神官長の歌を称えないのは別の問題だ。神官長は歌い終わると、このくらい当然と言わんばかりに足を組んで椅子に腰かけた。2人の神官は、「流石でございます」と拍手を送っていた。





「これが『光の神に捧げる歌』だ。後で楽譜を渡すゆえ、弾けるようになること。」



「かしこまりました。神官長の御歌を拝聴出来たこと、真に光栄にございます。」



私は腕を胸の間で交差させて、跪き首を垂れてそう言った。素直に、感動した。身近にこんなすごい人がいるのだと、知ることができた。感謝を込めて、私は跪いた。









ということが、先程あったのだ。

よくよく思い返すと、昨日の執務の時間も人間の所業とは思えないことをしてたのかもしれない。私たち側仕えが作成した書類を一瞬見ては判を押していたから、適当に見ているのかと思っていいたけど、実はとんでもないスピードで書類をさばいていたのかもしれない。あの神官長は俗にいう、天才なのだろう。顔だけ男と思っていたけど、多才ゆえに性格が少しあれになってしまったのかもしれない。これからは大目に見てあげよう。歌のレッスン時間も確保してくれたことだし、神官長という主のために全力で仕事に励もう!













その日の午後。

昼食が終わり後は、18時まで執務の時間だ。端的にこの時間を表現すると、「長くてつらい」だ。だけど、不本意なことを強要されることに比べれば、遥かに健全で安全な労働だ。



すると、ユットゲー様が静かに神官長室に入ってきて、私に楽譜を手渡してきた。



「神官長から伝言だ。この3曲について、1週間で弾けるようになること、とのこと。加えて、私の歌を間近で聞いておきながらこの程度の曲も弾けない者はいらぬ、ともおっしゃっていた。では、私たちは所用があるゆえ、席を外す。しっかりと執務に励むように。」



「かしこまりました。」





ユットゲー様は私の返事を聞くと、いつもの人好きのする笑顔を浮かべながら静かに去っていった。

……落ち着くのよ、パイル。さっきの誓いを思い出すのよ。神官長は歌がうまく他にも才能にあふれている。顔だけではない、顔だけではない……。よし、なんとか自室の枕までこのフラストレーションは抑え込めそうだ。





コンコン。

部屋の扉がノックされた。うまく感情を抑え込んだ私は外行きの笑顔を浮かべて、扉を開いた。そこに立っていたのは、私のしならない灰色神官だった。まあ、側仕えになったばかりなのだから、知らない側仕えの方が多いのは当たり前だけど。





「何か御用でしょうか。」



「支払簿を持ってきました。ご確認をお願いします。」



「かしこまりました。お預かりいたします。」







支払簿。神官や巫女の神殿での生活費は、その3分の2が返還される。ちなみに、神官長や神殿長と言った役職付きでなければ、給料は出ないらしい。平の神官・巫女たちは、実家からの仕送りで生活しているとのことだ。つまり、この返還制度は平の神官・巫女たちにとって、生活のかかったある種の生命線なのだ。



私が任された仕事は、この支払簿の審査だ。神殿業務にかかわるか否か、そしてその必要性を審査するのだ。疑問があるところにはチェックをつけ、神官長に回す。神官長に回すのは、私が直接聞きに行っても、神官や巫女が孤児の私に素直に答えることはしないからだ。側仕えに聞こうにも、そもそも側仕えに知らされていない、こたえることができないということが多いのだ。



サインは、「リグルー」とかかれている。名前的には、神官かな。まだ慣れない作業だけど、わからなければアルミ―に聞いてもいいことになっているし、落ち着いて書類を確認していこう。神官や巫女にお金が返還されなければ、召し上げられた側仕えにしわ寄せがいくことも考えられる。それに、不備があれば神官長に何を言われるかわからない。真剣に、慎重に取り組んでいこう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

処理中です...