エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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2・6年後に再会

彼の事情 (1)

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「わぁ……!」

 広春は広々としたホテルの一室に目を丸くしてキラキラと瞳を輝かせていたが、それも数分間だけだ。
 すぐに無理が祟ったようで、ソファーに寝転んだ直後深い眠りに誘われてしまった。
 清広はタオルケットを息子の身体にかけたあと、子どもの寝顔を物憂げな表情でじっと見つめる。

 (本当に、そっくり……)

 そんな彼の姿をさり気なく観察しながら息子との類似点を探していたつぐみは、熱視線に反応して顔を上げた元婚約者と視線を交わらせる羽目になった。

「俺の顔に、何かついているか」
「な、なんでもない……!」
「君は本当に、嘘が下手だな」
「きゃ……っ!?」

 彼はどこか困ったように眉を顰めたあと、再び自分を抱き上げる。
 そうして2人でやってきたのは、寝室だった。
 清広はベッドへつぐみを横たえるとその場に覆い被さり、こちらに凄む。

「新婦とは、どういう関係だ」
「目黒先生は、職場の上司だけど……」
「先生? つぐみは、教師になったのか」
「今は、保育士として働いてるよ。あの子を、育てなくちゃいけないから」
「そうか……」

 金沢家と安堂家の母達は、とても仲がいい。
 両親に聞けばつぐみの近状などいくらでもわかるはずだが、清広はどうやら自分がどこで何をしているのかを知らなかったようだ。

 (私は所詮、その程度の人間なんだ……)

 本当の口から聞きたかったのかもしれないが、つぐみはこの状況を悪いように受け取った。
 彼と目を合わせて会話するのすらもだんだんつらくなってきて、目を伏せる。

「つぐみと口論をしていた相手は?」
「彼女も、職場の同僚……」
「あのような女性とともに働くのは、ストレスが溜まるだろう。仕事は辞めて、俺と一緒に暮らさないか」

 清広から提案を受けたつぐみは、考える暇もなく首を横に振った。

「楽な方向には、逃げたくない……」

 保育園は万年人手不足だ。
 どんなに嫌なことがあったとしても、急に退職するのは同僚達だけではなく、通園している子ども達にも迷惑をかける。

 このまま山田と一緒の保育園で仕事をし続けるのは気まずいものがあるが、四六時中一緒なわけではない。
 発表会や運動会などと言ったイベントの際に仕事を押しつけられたり、悪口を言われたりする程度だ。
 いい大人なのだから、それくらいは堪えられた。

「ねぇ……。広春の父親になるって、本気なの……?」
「ああ」
「ちゃんと私に、全部説明して」

 つぐみが怒りを押し殺した声で告げる。
 すると清広は、ようやく深々と頭を下げた。

「今まで1人で子どもを産み育てさせてしまい、すまなかった」
「ごめんなさいの一言で済めば、警察はいらないんだよ」
「ああ。そうだな」
「それがわかっているなら、どうして今さら……」
「俺は今、海上自衛官として働いている。新郎は、上司だ」

 つぐみが納得できないと複雑な表情を浮かべたまま難色を示せば、彼は硬い声で自身の職業を打ち明ける。

 (その一言がずっと、欲しかったはずなのに……)

 待ち望んでいたはずの謝罪を口にされても、それをうまく受け入れられなかった。

 (何を言われても、心に響かない……)

 彼が軍服のような衣装に身を包んでいるのは清広の職業が関係していたからだと知っても、心は凍てついたままだ。

 (6年前のように清広さんが好きで好きで堪らないと思い焦がれる日など、もう二度と来ないかもしれない……)

 せっかく息子が清広に初めて顔を会わせた瞬間から懐いてくれているのに、母親である自分が彼に対する愛を抱けぬようでは意味がない。

 (好きに、ならなきゃ……。そんなふうに無理をしてまで、一緒にいる必要はあるの……?)

 つぐみが心の中で自問自答を繰り返している間、こちらが彼の話を受け入れる準備ができていると勘違いをした清広は語り出す。
 これまで歩んできた、つぐみのいない日々の話を……。

「あの日。つぐみに別れを告げたのは、俺が潜水艦乗りになると決めたからだ」

 つぐみは状況をうまく飲み込めないまま、清広の語る言葉に耳を傾けた。

「一度陸から離れると、数か月は戻って来られない。あのまま結婚したら、仕事に集中できないと思った」

 彼の主張を話半分に聞いていたせいで強いショックを受け、目の前が真っ暗になる。

 (私と仕事を天秤にかけて、清広さんは後者を選んだの……?)

 突きつけられたのは、一生知りたくなかった現実だ。
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