14 / 62
2・6年後に再会
彼の事情 (2)
しおりを挟む
(お母さんが言ってた……。時間が解決してくれるって、こういうことだったんだ……)
一度は間違った選択肢を選んだ男が心を入れ替え、昔のように「愛している」と囁く。
その想いを素直に受け入れられる女性は、果たして世の中にどれほど存在するのだろうか?
「今なら、問題ないとでも……?」
「そうだ」
清広ははっきりとした口調で、こちらの言葉に頷く。
それを耳にしたつぐみは、心の奥底から怒りが湧き上がって行くのを感じた。
「精神的に未熟では、なくなったからな」
彼は自分とつぐみが同じ気持ちのままこの6年間を過ごしてきたと、本気で確信しているのだろう。
だから、これほど強気になれる。
「俺に一度だけ、チャンスを貰えないか」
「一体、なんの……」
「俺の妻になってくれ」
「私、が……?」
「ああ。やり直そう。最初から」
清広は別れを切り出し、再びこちらに手を差し伸べて来た。
本来であればつぐみは、大粒の涙を流しながら了承の言葉を口にするべきだった。
しかし――。
彼は大事なことを忘れていた。
自分にはすでに、元婚約者よりも大切で守るべき存在がいるのだと……。
(こんなの、あんまりだ)
つぐみは清広が微笑みを浮かべて、このような提案をしてきたのが信じられなかった。
別れた直後に抱いた苦しみや悲しみは、もう一度やり直そうと言われただけで癒えるものではない。
(完全に、舐められているよね……)
広春が産まれてから、つぐみは他者に子どもっぽく甘えるのを辞めた。頼りがいのある大人にならなければ、息子が不安になると思ったのだ。
(泣き虫で引っ込み思案な金沢つぐみは、すでに死んじゃったのに……)
ここで伝えたい言葉をぐっと飲み込んだら、生まれ変わった意味がない。
そう考えたつぐみは、瞳の奥底に静かな怒りを宿す。
その後、苛立ちを隠せぬまま吐き捨てる。
「清広さんは、自分勝手すぎるよ」
「つぐみ……?」
清広とずっと一緒にいたい。
その願いはどれほど別れるのを嫌がっても叶えられることはなく、つぐみは広春と2人で支え合って生きるしかなかった。
そんな親子の苦労を知りもせずに、自分の気持ちだけを打ち明けて都合のよく手籠めにしようと目論む彼に苛立って仕方がない。
「あなたとは絶対に、結婚なんかしない」
自分の気持ちに嘘をつき、はっきりとした口調で吐き捨てた。
「な……」
彼が目を見張る姿から察するに、あちらはつぐみが2つ返事で了承し、このまま甘い雰囲気で情事に縺れ込むとでも思っていたのだろう。
清広は驚きを隠せぬ様子で、呆然と疑問を口にした。
「広春は俺の子では、ないのか……」
「そっくりな顔をしているんだから、あなたの子に決まってるでしょ!?」
「ならば、なぜ……!」
「忘れたの? 私達の関係は、清広さんが終わらせたんだよ。新しく始めるなんて、絶対に無理」
「つぐみ!」
清広はこちらの名を呼ぶと、「どうしてそんなことを言うんだ」と責める手首を拘束してくる。
恐らく、このままでは逃げられてしまうと、本能的に悟ったのだろう。
その行動すら、今のつぐみは苛立って仕方がなかった。
「心が手に入らないなら、身体から籠絡するつもり?」
「違う。俺をその辺の変質者と、一緒にしないでくれ」
「似たようなものでしょ!? 私の気持ちなんて、最初から聞くつもりなんかないくせに!」
「誤解だ」
完全に頭に血が上っているつぐみと、冷静に誤解を解こうと必死になっている清広。
まるで動と静のように正反対な2人は、どちらかが寄り添うのを止めてしまったら、簡単に疎遠になってしまう。
それがよくわかっているからこそ、悔しくて堪らないのだ。
(また清広さんから別れを告げられるくらいなら、私から言う……!)
つぐみは苛立ちを隠せない様子で、吐き捨てた。
「こんなふうに言い寄ってくる気があるなら、最初から連絡を断ったりしないでよ……!」
「つぐみ」
「いいから、離し……っ!」
拒絶の言葉は、最後まで声にならなかった。
清広がつぐみの唇を塞いだからだ。
(息、できない……っ。苦しい……!)
噛みつかれるような口づけを彼と交わした経験がなかったせいで、荒々しいキスに翻弄される。
「ん……っ! ん、んんぅ……!」
涙目で訴えかけ、ようやく唇が離された。
「言いたいことは、それだけか?」
清広が荒い息を吐き出しながら言葉を紡ぐ姿を回らない頭でぼんやりと見つめていると、2人の間に細い透明な糸がたらりと伸びていることに気づく。
「俺達の間には、誤解があるようだ」
それが混ざり合った唾液だと知ったつぐみが再び怒り狂う前に、微笑みを称えた彼が静かに告げた。
一度は間違った選択肢を選んだ男が心を入れ替え、昔のように「愛している」と囁く。
その想いを素直に受け入れられる女性は、果たして世の中にどれほど存在するのだろうか?
「今なら、問題ないとでも……?」
「そうだ」
清広ははっきりとした口調で、こちらの言葉に頷く。
それを耳にしたつぐみは、心の奥底から怒りが湧き上がって行くのを感じた。
「精神的に未熟では、なくなったからな」
彼は自分とつぐみが同じ気持ちのままこの6年間を過ごしてきたと、本気で確信しているのだろう。
だから、これほど強気になれる。
「俺に一度だけ、チャンスを貰えないか」
「一体、なんの……」
「俺の妻になってくれ」
「私、が……?」
「ああ。やり直そう。最初から」
清広は別れを切り出し、再びこちらに手を差し伸べて来た。
本来であればつぐみは、大粒の涙を流しながら了承の言葉を口にするべきだった。
しかし――。
彼は大事なことを忘れていた。
自分にはすでに、元婚約者よりも大切で守るべき存在がいるのだと……。
(こんなの、あんまりだ)
つぐみは清広が微笑みを浮かべて、このような提案をしてきたのが信じられなかった。
別れた直後に抱いた苦しみや悲しみは、もう一度やり直そうと言われただけで癒えるものではない。
(完全に、舐められているよね……)
広春が産まれてから、つぐみは他者に子どもっぽく甘えるのを辞めた。頼りがいのある大人にならなければ、息子が不安になると思ったのだ。
(泣き虫で引っ込み思案な金沢つぐみは、すでに死んじゃったのに……)
ここで伝えたい言葉をぐっと飲み込んだら、生まれ変わった意味がない。
そう考えたつぐみは、瞳の奥底に静かな怒りを宿す。
その後、苛立ちを隠せぬまま吐き捨てる。
「清広さんは、自分勝手すぎるよ」
「つぐみ……?」
清広とずっと一緒にいたい。
その願いはどれほど別れるのを嫌がっても叶えられることはなく、つぐみは広春と2人で支え合って生きるしかなかった。
そんな親子の苦労を知りもせずに、自分の気持ちだけを打ち明けて都合のよく手籠めにしようと目論む彼に苛立って仕方がない。
「あなたとは絶対に、結婚なんかしない」
自分の気持ちに嘘をつき、はっきりとした口調で吐き捨てた。
「な……」
彼が目を見張る姿から察するに、あちらはつぐみが2つ返事で了承し、このまま甘い雰囲気で情事に縺れ込むとでも思っていたのだろう。
清広は驚きを隠せぬ様子で、呆然と疑問を口にした。
「広春は俺の子では、ないのか……」
「そっくりな顔をしているんだから、あなたの子に決まってるでしょ!?」
「ならば、なぜ……!」
「忘れたの? 私達の関係は、清広さんが終わらせたんだよ。新しく始めるなんて、絶対に無理」
「つぐみ!」
清広はこちらの名を呼ぶと、「どうしてそんなことを言うんだ」と責める手首を拘束してくる。
恐らく、このままでは逃げられてしまうと、本能的に悟ったのだろう。
その行動すら、今のつぐみは苛立って仕方がなかった。
「心が手に入らないなら、身体から籠絡するつもり?」
「違う。俺をその辺の変質者と、一緒にしないでくれ」
「似たようなものでしょ!? 私の気持ちなんて、最初から聞くつもりなんかないくせに!」
「誤解だ」
完全に頭に血が上っているつぐみと、冷静に誤解を解こうと必死になっている清広。
まるで動と静のように正反対な2人は、どちらかが寄り添うのを止めてしまったら、簡単に疎遠になってしまう。
それがよくわかっているからこそ、悔しくて堪らないのだ。
(また清広さんから別れを告げられるくらいなら、私から言う……!)
つぐみは苛立ちを隠せない様子で、吐き捨てた。
「こんなふうに言い寄ってくる気があるなら、最初から連絡を断ったりしないでよ……!」
「つぐみ」
「いいから、離し……っ!」
拒絶の言葉は、最後まで声にならなかった。
清広がつぐみの唇を塞いだからだ。
(息、できない……っ。苦しい……!)
噛みつかれるような口づけを彼と交わした経験がなかったせいで、荒々しいキスに翻弄される。
「ん……っ! ん、んんぅ……!」
涙目で訴えかけ、ようやく唇が離された。
「言いたいことは、それだけか?」
清広が荒い息を吐き出しながら言葉を紡ぐ姿を回らない頭でぼんやりと見つめていると、2人の間に細い透明な糸がたらりと伸びていることに気づく。
「俺達の間には、誤解があるようだ」
それが混ざり合った唾液だと知ったつぐみが再び怒り狂う前に、微笑みを称えた彼が静かに告げた。
1
あなたにおすすめの小説
ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
龍の腕に咲く華
沙夜
恋愛
どうして私ばかり、いつも変な人に絡まれるんだろう。
そんな毎日から抜け出したくて貼った、たった一枚のタトゥーシール。それが、本物の獣を呼び寄せてしまった。
彼の名前は、檜山湊。極道の若頭。
恐怖から始まったのは、200万円の借金のカタとして課せられた「添い寝」という奇妙な契約。
支配的なのに、時折見せる不器用な優しさ。恐怖と安らぎの間で揺れ動く心。これはただの気まぐれか、それとも――。
一度は逃げ出したはずの豪華な鳥籠へ、なぜ私は再び戻ろうとするのか。
偽りの強さを捨てた少女が、自らの意志で愛に生きる覚悟を決めるまでの、危険で甘いラブストーリー。
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる