エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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2・6年後に再会

一夜明けて(1)

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 ベッドの上で目覚めたつぐみは、嗅ぎ慣れない匂いを感じて眉を顰めた。

 (この匂いは、どこから漂って来るのだろう……)

 それを探るべく真横に視線を移せば、真っ白なワイシャツが飛び込んでくる。
 ゆっくりと目線を上に向けたつぐみは、隣で目を閉じて眠っているのが清広だと気づき――。

 (そうだ……。昨日、清広さんと再会したんだった……)

 ようやく意識を覚醒させて、現実を再確認した。

 (昨日はこんな変な匂い、しなかったのに……)

 かなり長い間密着していたが、昨夜はフローラルな香りしかしなかったはずだ。

 (香水を、落としたのかな……?)

 体臭を気にして香水を振りかけるイメージなど、かつての清広にはまったくと言っていいほど存在しない。

 (清広さんに、聞いてみようかな……)

 どうしても己に好かれたい清広の戦略であれば、指摘したら彼のプライドを傷つけてしまう。

 (うーん。でもなぁ……)

 どうしようか迷いながら、シーツを胸元まで手繰り寄せて口元を覆う。

 (そんなことより……)

 薄布の下を覗き込み、自身がしっかりとドレスを着込んだままの状態だと認識し、ほっと胸を撫で下ろした。

 (あとは……)

 ぐるりとあたりを見渡し、息子の姿を探す。
 昨夜の念押しをきちんと覚えていれば、彼はソファーからここまで広春を運んでくれたはずだ。

 (約束、守ってくれたんだ……)

 つぐみはホッと胸を撫で下ろし、タオルケットを小さな指先でぎゅっと握りしめて気持ちよさそうに眠る幼子の姿を見つめた。

 (2人とも……。気持ちよさそうに、眠っているよね……? 寝顔まで、そっくりだ……)

 父子が揃って目を閉じているのをいいことに、じっと2人の様子を観察する。
 あれほど己をきつく抱き締めていた腕は、いつの間にか息子を優しく包み込んでいるようだ。

 (今なら、逃げられるかもしれないけど……。目が覚めて清広さんがいないと知ったら、きっと広春は悲しむよね……)

 息子は幼い頃から父親がどういうものか知らずに生きてきた。
 だからこそ、昨夜「父親になりたい」と願い出た清広は、広春にとっては絶対に失いたくない存在だ。

 (ちゃんと、伝えなきゃ。昨日の話は、その場しのぎの嘘だったって。きちんとお別れを済ませれば、広春の苦しみも最小限に押さえられるはず……!)

 つぐみは根拠のない自信を胸にいだくと、さっそく子どもを起こすために肩を揺すろうと手を伸ばす。

「広春。起きて……」

 息子に話しかけた直後、己の腹部によく鍛え抜かれた腕が回った。

「どこに行くつもりだ」

 目にも留まらぬ早業で元婚約者を抱き寄せた彼は、寝起きのせいだろうか。
 鋭い眼光でこちらを睨みつけている。

 (以前は私に、不機嫌そうな姿を見せることなんてほとんどなかったのに……)

 昨夜あれほど拒絶をしておきながら、清広に嫌われてしまったかもしれないと考えるだけで胸が痛むなど、重症にも程がある。

 (何事もなかったかのように接すれば、きっと機嫌は元に戻るはず……)

 素直になれないつぐみはあえて謝罪をしてその場を収めることはせず、どこか困ったような表情とともに朝の挨拶をした。

「おはよう……」
「ああ、おはよう」

 こちらの作戦は、どうやら成功したらしい。
 清広は先程までの不機嫌そうな目つきが嘘のように、口元を綻ばせた。

 (あれ……?)

 よかったとほっと一息つく暇もなく、つぐみは彼の身に着けている衣服が昨夜とは異なることに気づく。

 (私が寝ている間に、1人だけ身支度を整えたんだ……)

 息子から王子様と称される礼服は、皺になったら困るような服装だった。
 あのままの格好だと寝苦しいと感じるのは容易に想像はつくが、何もワイシャツの第3ボタンまでを開放する必要はないだろう。
 ちらりと覗く胸元からは、鍛え抜かれた筋肉質な肉体が見え隠れしている。

 (一体、なんのアピールなんだろう……)

 清広から離れることを許されないつぐみは、ドレスから着替えることすらできないというのに。

 (こんなの、あんまりだ)

 思わず批難の目を向ければ、彼は内線電話を使ってどこかへ連絡を取り始めた。
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