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3・つかの間の幸せ
日常に戻る(2)
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(もう。現金なんだから……)
苦笑いを浮かべながら機嫌を直した息子の姿を呆れたように見つめたあと、彼へ別れの挨拶をしようと試みた直後――。
清広はこちらに向かって、声をかけた。
「それじゃあ……」
「交際を順調に続けるためには、スキンシップが必要らしい」
つぐみは思いもよらぬ呼び止め方をされ、息子共々面食らう。
出勤時間が迫っているため、こんなことをしている余裕などなかったからだ。
「昨日、あんなにしたのに……? これ以上、どんな……」
「キスかハグなら、どちらがいい」
思わぬ2択を迫られ、どうにか第3の選択肢を選び取ろうと必死に思考を巡らせた。
しかし、時間がないと焦っている状況ではうまい返しが思いつかない。
(朝からキスは、ちょっと……)
つぐみがこのまま答えを口にしなければ、恐らく清広は前者を選んで実行するだろう。
(それだけは避けたいよね……)
つぐみは無言で清広が抱きしめやすいように両手を広げ、彼の腕が伸びてくるのを待った。
「ありがとう。これなら、いつ呼び出されてもつぐみのぬくもりを忘れずに済みそうだ……」
彼はつぐみを抱きしめながら、喜びを噛みしめるように彼女の耳元で囁く。
(そんな、大袈裟な……)
つぐみが喉まで出かかった言葉を必死に飲み込むと、足元でその光景を目にしていた息子が彼に強請る。
「僕も! パパと、ぎゅってする!」
「ああ。おいで」
「ぎゅーっ!」
「時間がないって、言ってるのに……」
清広は呆れるつぐみの声など聞こえないふりをしながら、広春を抱きしめる。
息子が満足そうにきゃっきゃとはしゃぐ声を聞いてから身体を離す。
こうしてようやく、親子に別れを告げた。
「行ってきます」
「まーす!」
「ああ。気をつけて」
にこやかな笑顔とともに清広の見送りを受けたつぐみは、不思議な感覚に包まれる。
(なんだか、すごく変な感じ……)
社会人になってからずっと広春と2人で暮らしてきたせいだろうか。
誰かに見送られる経験など、実家で暮らしていた時以来だ。
だからこそ、この体験はとても新鮮に感じる。
(清広さんの仕事がない日は、こうやって送り出されて、出迎えてもらうんだ……)
つぐみはこれから当たり前になるであろう光景を何度も繰り返し脳裏に思い描きながら、子どもを預けるためにまずは保育園を目指して歩き出した。
*
「おはようございます……」
別の保育園へ息子を預け、勤務先の職員室に顔を出したつぐみに、挨拶を返す同僚はいない。
元気よく従業員同士やり取りをする暇があれば、山積みとなっている仕事を片づける時間に使うからだ。
(一昨日の話を蒸し返されるより、ずっといい……)
園児達の登園時間が始まれば、保護者達が入れ代わり立ち代わり保育園へ子どもを預けにやってくる。
保育士達が和気あいあいと雑談などしていようものなら、後で何を言われるかなどわかったものではない。
つぐみは園児達の登園時間が始まるまでは職員室で空気と同化すると、黙々と仕事をこなし――自分が受け持つ2才児達を預かった。
苦笑いを浮かべながら機嫌を直した息子の姿を呆れたように見つめたあと、彼へ別れの挨拶をしようと試みた直後――。
清広はこちらに向かって、声をかけた。
「それじゃあ……」
「交際を順調に続けるためには、スキンシップが必要らしい」
つぐみは思いもよらぬ呼び止め方をされ、息子共々面食らう。
出勤時間が迫っているため、こんなことをしている余裕などなかったからだ。
「昨日、あんなにしたのに……? これ以上、どんな……」
「キスかハグなら、どちらがいい」
思わぬ2択を迫られ、どうにか第3の選択肢を選び取ろうと必死に思考を巡らせた。
しかし、時間がないと焦っている状況ではうまい返しが思いつかない。
(朝からキスは、ちょっと……)
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(それだけは避けたいよね……)
つぐみは無言で清広が抱きしめやすいように両手を広げ、彼の腕が伸びてくるのを待った。
「ありがとう。これなら、いつ呼び出されてもつぐみのぬくもりを忘れずに済みそうだ……」
彼はつぐみを抱きしめながら、喜びを噛みしめるように彼女の耳元で囁く。
(そんな、大袈裟な……)
つぐみが喉まで出かかった言葉を必死に飲み込むと、足元でその光景を目にしていた息子が彼に強請る。
「僕も! パパと、ぎゅってする!」
「ああ。おいで」
「ぎゅーっ!」
「時間がないって、言ってるのに……」
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息子が満足そうにきゃっきゃとはしゃぐ声を聞いてから身体を離す。
こうしてようやく、親子に別れを告げた。
「行ってきます」
「まーす!」
「ああ。気をつけて」
にこやかな笑顔とともに清広の見送りを受けたつぐみは、不思議な感覚に包まれる。
(なんだか、すごく変な感じ……)
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*
「おはようございます……」
別の保育園へ息子を預け、勤務先の職員室に顔を出したつぐみに、挨拶を返す同僚はいない。
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