エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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3・つかの間の幸せ

あなたと別れて(2)

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 (そんなに急ぐ必要、あるのかな……)

 つぐみと清広のどちらかが別れを切り出さぬ限り、2人は交際したまま、同棲を続けるはずだ。

 (このままずっと一緒にいても、結婚なんて考えられないよ……)

 複雑な気持ちを胸に抱いたまま食器を片づけて皿洗いを済ませたつぐみは、そうっとリビングの扉を開いて廊下を覗き込む。

 随分と長い間電話をしているので、大丈夫だろうかと心配になったからだ。

 だが――。

 (あれ……?)

 いつの間にか、彼の姿は消えていた。

 (部屋に、戻ったのかな……?)

 つぐみは恐る恐る清広の部屋に繋がる扉の前に立ったが、いつまで経っても中から彼の話し声は聞こえてこない 。

 (電話中だったら、気まずいし……。外で電話をしているのかもしれない……)

 そう考えたつぐみは、ひとまず寝る準備を済ませようと決めて浴室へと向かう。

 (清広さん、大丈夫かな……?)

 不安でいっぱいになりながら身を清めたつぐみは、失礼を承知で清広の部屋に顔を出そうか迷いながら、廊下を行ったり来たりしていた。

 (邪魔したら、悪いから……)

 つぐみは悩んだ末に、清広から好きに使っていいと言われた自室へと戻った。

「なんで……」

 ――昨夜彼から「引っ越し屋が明日荷物を持って来る」と聞かされていたが、まさか住んでいた状態のまま荷物が運び込まれるなど思いもしない。

 (清広さんが、荷ほどきをしてくれたのかな……?)

 つぐみは住み慣れた自身の部屋が再現されていることに驚きながら、大きな寝台の中央で丸くなって眠る息子を起こさないように気をつけつつ、その隣へ倒れ込む。

 (今日はもう、遅いし……。明日、お礼を言えばいいよね……?)

 心の中で言い訳をすると、つぐみは彼が忽然と姿を消したことに、気づかぬまま――ゆっくりと目を閉じた。



 (おかしいな、とは、思っていた)

 自室で目覚めたつぐみは、身支度を整えたあとにリビングに顔を出し、清広の姿が見当たらないことに気づく。

 (寝坊、かな……?)

 朝が苦手なつぐみは、いつも出社時間ぎりぎりに起床する。

「パパ、どこ……?」

 清広を探している暇もなく軽い朝食を済ませ、ぐずる息子をあやしながら子どもを預け、保育園に出勤。
 何事もなかったかのように業務を済ませた。

 しかし、勤務終了時間に迎えに来ると約束した彼は、いつまで経っても姿を見せなかった。

「ねぇ、ママ。パパは? なんでいないの?」

 広春の素朴な疑問に答えられたら、苦労はしない。

 (そんなの、こっちが聞きたいくらいだよ)

 泣き出したい気持ちをぐっと堪えたつぐみは、作り笑顔を浮かべてこてりと小首を傾げた。

「なんでだろうね……?」

 こうして親子は頭の上に多量のはてなマークを飛ばしたまま、帰路につく。

「ただいま……」
「だいまー!」

 もしかしたらと期待を込めて自宅に戻ってきたが、案の定部屋には電気がついておらず、人の気配がない。

 (急に、呼び出されたのかな……?)

 仕事に向かったのであれば自宅には必ず帰ってくるはずだ。

「ねぇ、パパは? どこ?」
「そのうち、帰って来るよ」
「パパと一緒じゃなきゃ、寝ない……!」

 つぐみはそう信じて、ぐずる息子を宥める続ける。
 疲れた身体に鞭を打って広春が泣きつかれて眠るまであやし続けるのは、重労働だ。

 (疲れた……。でも、仕事はきちんとしなくちゃ……)

 つぐみはどうにかベッドへ息子を寝かせたあと、夜遅くまで保育園だよりを作成し続ける。

 ――彼が「ただいま」と、口元を綻ばせて挨拶をしてくる姿が再び見られることを、信じて。

 しかし――。
 結局、朝になっても清広は帰ってこなかった。

 (あれ? もう、朝だ……)

 その日は作業を終えた直後にリビングで寝てしまったようだ。

 (しょうがない、よね。彼が仕事を続ける限り、こうなるってわかっていたんだから……)

 変な体制で眠ったせいで痛む身体を押さえながら、つぐみは再び親1人子1人の生活に戻った。
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