エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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3・つかの間の幸せ

あなたと別れて(1)

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「料理、得意なの?」
「いや。そのような認識はない」

 アジの煮つけ、肉じゃが、炊き込みご飯――家族みんなで帰宅したつぐみは、食卓に並べられた清広の作成した料理の数々を目にして不思議そうに問いかけた。

「広春に倣い、早く食べて寝よう」

 明日も仕事のつぐみに、無駄な時間を過ごしている時間はない。
 息子を寝室のベッドに横たえて戻ってきた清広の言葉を受けて席に座り、食事を始めた。

 (いたれりつくせりだ……)

 朝だけではなく、夕食まで清広に用意させた挙げ句、迎えにまで来てもらってしまった。

 つぐみは彼を家政婦やボディーガード扱いしていることに罪悪感を感じていた。
 しかし、清広の作った料理が見た目だけではなく味までおいしいと知り、張り合うのをやめた。
 逆立ちしたって、彼には勝てないと気づかされたからだ。

 (清広さんは、私にはもったいない人だ……)

 なんでもそつなく彼のことが好き。
 誰にも渡したくない。

 そう心の奥底で叫ぶ気持ちから目を背けていたつぐみは、素直になってもいいんじゃないかと何度も自分の背中を押してみる。
 だが、どうしてもうまく言葉が出てこなかった。

 (嫌われたらどうしよう。私の好意を迷惑がられたら?)

 あり得ないとわかっているのに、不安ばかりが脳裏に過る。

 (清広さんに裏切られた経験さえ、なければ……)

 つぐみはあの日の出来事を記憶から抹消したい気持ちでいっぱいになりながら、食事を終えた。

「ごちそうさまでした」

 椅子から立ち上がったつぐみは自分が使っていた食器を片づけ、清広の食事が終わっていることを確認する。

 (食器、片してもいいのかな……?)

 つぐみはゆっくりと空になった皿へ手を伸ばす。
 清広は何かを深く考えているようで、こちらのを見ようともしなかったからだ。

「清広さん……」

 つぐみは彼にひと声かけてから、食器を回収しようとしたのが――その手は勢いよく掴まれ、清広の元へと引き寄せられる。

 ――悲鳴を上げる暇もなかった。

 2人の視線が、絡み合う。

 目を見開いた清広は、やっと自分がつぐみを抱き寄せていることに気づいたようだ。
 左手を背中へ回して彼女を抱き止めると、そのまま顔を寄せ――。

 (あ……。キス……)

 このままでは唇が触れ合ってしまうと、わかっているのに。
 つぐみはそれが嫌ではないと感じている自分に気づいて、全身から力を抜く。

 (清広さんと、なら……)

 彼とならば、何度だって口づけを交わし合いたい。
 清広を受け入れたつぐみは、その時が訪れるのを心待ちにしていたが――。

 (どうしたんだろう?)

 しかし、いつまで経っても唇が触れ合う気配がなかった。

 つぐみは不思議そうに彼の様子をじっと見つめていたせいで、清広が唇を噛み締めたあとに深いため息を溢す瞬間を見てしまった。

 (私とキスをするのは、嫌だってこと……?)

 物事を悪い方向に受け取り、内心強いショックをいだいているなど、清広は知りもしない。
 彼は申し訳なさそうに視線を反らし、か細い声で口づけを止めた理由を告げた。

「電話が……」
「電話、ですか……?」
「すまない」

 どうやらバイブレーションに設定していた清広のスマートフォンが、ポケットの中で振動していたらしい。

 許可なく衝動的に唇を触れ合わせようとしたことに対する謝罪か、電話に出るための断り文句か。

 つぐみから身体を離した彼はそのままこちらを押し退けると、携帯を片手に廊下へ出て行ってしまった。

 (びっくりした……)

 清広の行動は、心臓に悪い。

 彼は距離の詰め方が、とにかく強引なのだ。
 ゆっくりと自分達のペースで元の関係に戻りたいつぐみは、どうしてもそのスピードについていけずに尻込みしてしまう。
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