エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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3・つかの間の幸せ

結婚式とサーベルアーチ(1)

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 (あれ? 私……)

 目覚めたつぐみは、ぼんやりと天井を見つめる。

 (盛り上がりすぎて、身体のあちこちが痛い……)

 寝ぼけている間は痛む腰を押さえながら不愉快な気持ちに苛まれていたが、昨夜の情事を思い浮かべるだけで気分はあっという間に上昇していく。

 (色っぽくて、かっこよかったな……)

 鍛え抜かれた上半身を惜しげもなく晒した清広が己に覆い被さり、額から汗を流す。
 その姿は、己が「彼の妻になる」と決めたからこそ見れた姿だ。

 (また、こうやって清広さんと愛を交わし会えますように……)

 つぐみは人知れず胸の内でそんな願いをいだきながら、いつの間にか彼の代わりに寝台へ横たわっていた息子がパチリと目を覚まし、眠たい眼を擦る姿を見捉えた。

「パパじゃ、ない……」

 広春は目の前にいるのが自分の母親だと気づき、キョロキョロとあたりを見回す。
 しかし、部屋の中に彼の姿はどこにも見当たらない。

「パパは!?」
「落ち着いて……」
「またパパが、僕とママを置いて行ったぁ……!」

 広春は清広がいない寂しさをうまく我慢しきれず、わんわんと泣き出してしまった。

 (また何も言わずに、お仕事に向かったの……?)

 今までは息子と一緒に深い悲しみに包まれていたが、これからはこれが日常となるのだ。
 泣いてばかりもいられず、つぐみは広春を抱き上げて背中を擦る。

「しばらくしたら、また帰ってくるよ」
「やだぁ……っ。ずっと、一緒がいい……!」
「そうだね。ママも、同じ気持ちだよ。でも……。パパは、広春のためにお仕事を頑張っているの」
「会えないくらいなら、お仕事なんて頑張らなくていい!」
「そうしたら、私達は生活できなくなっちゃうんだよ……」

 小さな子どもをどうやって泣き止ませるべきかと悩みながら、寝室から
 廊下を経由してリビングへ向かう。
 つぐみのやることは、山積みだ。

 (広春を宥めて、シャワーを浴びて、朝ご飯を作って、後片づけをして、家事を一通りこなさなくちゃ……)

 目が回るような忙しさを続けていたら、きっとまた清広のいない日々が当たり前になる。

 (大丈夫……。淋しくなんて、ないんだから……。もう、泣き言は口に出さない……)

 つぐみがそう固く誓った瞬間、いなくなったはずの愛しい彼の声が聞こえてくる。

「ああ。無理を言ってすまない。これを逃すと、いつできるかわからないからな……」
「パパ!」

 広春は先程まで泣きべそをかいていたのが嘘のようにぱっと表情を明るくさせ、己の腕から抜け出ようと暴れ始めた。

「こら! 広春! 危ないよ……!」
「パパー!」

 つぐみはどうにか胸元へ抱き続けようと試みたが、息子に大人しくしている気がなければどうしようもない。
 渋々その場へしゃがみ込み、広春の好きにさせてやった。

「おはよう」
「なんで、パパはすぐに、どこかへいなくなっちゃうの……? 僕と一緒にいるって、約束したでしょ……?」
「不安にさせて、すまなかった」
「ママにも、謝らないと駄目!」

 耳に当てていたスマートフォンを胸ポケットへ収納し、清広は我が子を抱き上げる。
 息子は先程まで不機嫌になっていたのが嘘のように、頬を剥れさせて彼に促した。

「本当に、申し訳なかった」
「無事なら、いいよ……」
「お詫びも兼ねて、これから結婚式を執り行う。参加してくれないだろうか」

「しきー?」
「ああ。広春が俺と初めて会った時に行われていた儀式を、今度は2人でやるんだ」
「王子様なパパ、また見られるの!?」
「ああ」
「やったー!」

 広春は礼服に身を包んだ父親の姿が見られると、大はしゃぎしている。
 それは喜ぶべきことではあるが、あまりに急すぎて受け入れるまでに長い時間を有してしまった。

「りょ、両親は……?」
「すでに呼んである」
「式場の手配……」
「済ませた。あとは身一つで、向かえばいいだけだ」

 つぐみに聞かれるであろう内容の答えは、事前に用意していたらしい。次々に答えが飛び出てくることに驚いている間に、清広はテキパキとこちらを浴室へ押し込み身を清めさせると、急いで脱衣所へ出てきた彼女に服を着せて外出の準備を進める。

「清広さん。着替えくらい、自分で……」
「もう終わった」
「あ、ほんとだ……」
「行くぞ。今日は、忙しくなる」
「みんなで一緒に、お外ー!」

 清広は状況を飲み込めていないつぐみと指先を絡め合い、離れないように手を繋ぐ。
 そして、息子を抱きかかえたまま自宅を出た。
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