エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決

海の中で君を思う【清広】(1)

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 ――潜水艦の中には、自由がない。

 働き方改革が進む令和の世の中では、労働基準法によって乗組員の休息をしっかり取るように定められているが、海の中で陸の上で暮らす人々のルールが適用できれば苦労はしない。

 どこを航海しているのか。
 何をしているのかを聞かれても、口を閉ざさなければならない環境で、きっちり週休2日の休みを得られると思うほうがおかしいのだ。

 海の中で起きた出来事は、門外不出。
 一度出港したが最後。
 基地を離れたならば、最低でも2か月は戻ってこられない。

 任務を終えて陸に上がったところで、早ければ数時間後にはまた潜水艦に乗り込むことになるのだ。

 休日出社分の代休も取れずに潜水艦の中で生活し、自宅でゆっくりしていられる時間は年間30日程度しかない。

 そんな状態でも上司から飲み会に誘われたら断ることなど許されず、実際に自宅でゆっくりと身体を休められる時間はもっと少なくなる。

 プライベートを満喫する暇など、存在しないと言っても過言ではない。

 海曹長として働く清広は水測員達の指揮を任されているため、部下を差し置き率先して休息を取るわけにはいかなかった。

 (部下達が少しでも、息抜きできる時間を増やしてやりたい)

 真面目で勤勉な清広は、どうしても心が持たないと言う時以外は食事の時間を除き、体力の限界まで水測室で缶詰になり――。
 耳にヘッドフォンをつけて、神経を研ぎ澄ませる。
 時折聞こえる海の仲間達の声に癒やされながら、水音を聞き続けていた。

 ――航海中の潜水艦は、隠密行動が鉄則だ。

 搭乗員達は全員音を立てない生活を心がけているし、私語など以ての外。
 あちらこちらで彼らが大騒ぎするのは、乗組員達が死を覚悟した時だけだ。

 ――潜水艦の乗組員は、つねに孤独と戦っている。
 業務に関係がない雑談をしたい気持ちを心の奥底に押し留め、休憩時間は静かに過ごす生活を求められていた。

 寡黙な清広にはとっては苦ではないことも、人との関わり合いを大切にしているタイプには苦痛で仕方がないのだろう。

「でさー。嫁がさー」

 食事中に上官の前で堂々と私語を楽しむ部下に睨みを利かせながら、苛立ちを隠せない様子で休憩室へ向かった。

 (夫婦関係を破綻させずに長年連れ添っている人々は、一体どんな魔法を使っているのやら…………)

 妻子持ちの夫婦生活が順調らしいと聞くたびに、清広は長年、不思議で堪らなかった。
しかし……。
家族3人での暮らしを経験たことで、ようやくその答えを思い知らされた。

 (自立した女性、か…………)

 妻がいてもいなくてもいい存在として夫を受け入れ、期待さえしなければ――それなりに、うまくいくのだと。
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