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4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決
デートと日常(2)
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「ああ。買い物に行くくらいしか、家族みんなで出歩いた覚えがないのは、夫婦としてどうかと思ってな……」
「ここでのんびり、穏やかに過ごすのも……もうすぐ終わりだもんね」
「ああ。また、この地で暮らすこともあるだろうからな……。悲しい思い出ばかりを、刻み込んでほしくないんだ」
「ありがとう」
つぐみは優しく口元を綻ばせると、お絵かきに夢中な息子へ声をかけた。
「広春。お散歩に行こうか」
「うん!」
広春はぱっとひまわりの花が咲くような笑みを浮かべ、元気よく返事をしてから靴を履き始めた。
「ママも、手伝おうか?」
「大丈夫ー!」
今までは1人で靴も履けなかったのに、子どもの成長とは随分と早いものだ。
つぐみが感慨深い思いに包まれていると、こちらの姿を上から下までじっくりと見つめた清広が、何か言いたげな視線を向けているのに気づく。
「どうしたの?」
「今日のつぐみは、とても可憐だ」「あ、ありがとう……?」
「その姿が見知らぬ男の前に晒されると思うだけで……。腸が煮えくり返りそうだ……」
瞳の奥底に静かな怒りの炎を燃やす清広の表情からは、つぐみに対する執着愛が見え隠れしている。
(それが恐ろしいと思うよりも嬉しいと感じるあたり、私も毒されちゃったかな……)
つぐみは苦笑いを浮かべながら、姿の見えぬ異性に嫉妬する必要はないのだと告げた。
「私の魅力に気づいてくれたのは、清広さんだけだよ?」
「いや。つぐみは可憐で、魅力的な女性だ。誰にも、奪わせはしない」
「清広さん……」
朝っぱらからすっかり2人の世界に入り込んでしまった夫婦は、息子が靴を履くのに夢中なのをいいことに、広春の目を盗んで唇を重ね合う。
(幸せすぎて、アイスみたいに溶けちゃいそう……)
これから涼しい風が届かぬ真夏の太陽の下を出歩くと言うのに、すっかりつぐみの身体は清広の愛に包まれて熱を帯びていた。
(こんな調子じゃ、帰ってくる頃にはゆでタコになっているかも……)
そんな思いをいだきながらキスを終えた夫婦が互いをじっと見つめていたところ、玄関ポーチに立った広春がこちらを振り返って元気な声を上げる。
「履けた!」
その発言によって夢のようなひとときから目覚めたつぐみは、女から母親へと戻った。
「偉いね」
「うん! パパも、僕を褒めてくれる?」
「ああ。凄いぞ」
「やったー!」
親子の会話を微笑ましく見守るつぐみは、出かける直前に日傘を手に取る。
その後、家族みんなで公園へ向かった。
*
「なんの面白みも、ないだろうが」
清広は妻子に一言断ると、港がよく見える公園に連れて来てくれた。
休日に食料品や日用品の買い出しへ出かけることはあっても、明るい時間帯に海上自衛隊の基地を訪れる機会などない。
「わー! お船がいっぱーい!」
つぐみは息子と一緒に目を丸くしながら、目の前に広がる光景を眺める。
「ほんとだ。たくさん、停泊しているね」
「間近で見るのは、初めてか」
「うん。保育園と自宅の往復ばかりをしていたから。公園に来たのは初めてだよ。広春が遊具で遊んで、怪我をしたら大変だし……」
「そうか……」
ただでさえシングルマザーとして、職場に迷惑をかけていたのだ。
不慮の事故によって、突然休んだり無どしたら、山田に何を言われるかなどわかったものではない。
「広春がこんなに喜んでくれるのなら、もっと早くに、ここへ来ればよかった。そうすれば、清広さんと遠く離れていてもあなたの存在を感じられたのに……」
つぐみは海上自衛官の妻、失格だ。
キラキラと瞳を輝かせて船をじっと眺める広春の姿を見守りながら暗い表情をすれば、清広は左右に首を振って妻の言葉を否定した。
「気に病む必要はない。親子2人で出歩いている最中、君が不審者に目をつけられても、俺はつぐみを助けられないからな……」
今となっては、取越苦労もいいところだ。
この地を離れたら、もう二度とここにやってくることはないのだから。
「また、この地に戻ってきた時は……。ここへ広春と一緒に来て、清広さんに想いを馳せるね」
「ああ。そうしてくれ」
今は彼と一緒に、この光景を目に焼きつけるのが先だろう。
清広は満足そうに優しく口元を綻ばせると、妻子に船の説明をしてくれた。
「右側が護衛艦、左に停泊しているのが潜水艦だ」
「パパが乗ってるのは? どれー?」
「それは、守秘義務がある」
「しゅぎー?」
「内緒だ」
「むぅ……」
広春は不満そうに唇をへの字に曲げたが、規則は守らなければ大きな罰が下ってしまう。
どれほど不満に思ったところで、彼の口から答えを引き出すのは困難だ。
つぐみは息子にこれ以上我儘を言わないように、言い聞かせようとする。
「もう少し、近くで見るか」
「うん!」
しかし、どうやらこちらが気を回す必要などなかったらしい。
キラキラと目を輝かせた広春を抱き上げた清広は、ゆったりとした足取りで海に近づいていく。
「ここでのんびり、穏やかに過ごすのも……もうすぐ終わりだもんね」
「ああ。また、この地で暮らすこともあるだろうからな……。悲しい思い出ばかりを、刻み込んでほしくないんだ」
「ありがとう」
つぐみは優しく口元を綻ばせると、お絵かきに夢中な息子へ声をかけた。
「広春。お散歩に行こうか」
「うん!」
広春はぱっとひまわりの花が咲くような笑みを浮かべ、元気よく返事をしてから靴を履き始めた。
「ママも、手伝おうか?」
「大丈夫ー!」
今までは1人で靴も履けなかったのに、子どもの成長とは随分と早いものだ。
つぐみが感慨深い思いに包まれていると、こちらの姿を上から下までじっくりと見つめた清広が、何か言いたげな視線を向けているのに気づく。
「どうしたの?」
「今日のつぐみは、とても可憐だ」「あ、ありがとう……?」
「その姿が見知らぬ男の前に晒されると思うだけで……。腸が煮えくり返りそうだ……」
瞳の奥底に静かな怒りの炎を燃やす清広の表情からは、つぐみに対する執着愛が見え隠れしている。
(それが恐ろしいと思うよりも嬉しいと感じるあたり、私も毒されちゃったかな……)
つぐみは苦笑いを浮かべながら、姿の見えぬ異性に嫉妬する必要はないのだと告げた。
「私の魅力に気づいてくれたのは、清広さんだけだよ?」
「いや。つぐみは可憐で、魅力的な女性だ。誰にも、奪わせはしない」
「清広さん……」
朝っぱらからすっかり2人の世界に入り込んでしまった夫婦は、息子が靴を履くのに夢中なのをいいことに、広春の目を盗んで唇を重ね合う。
(幸せすぎて、アイスみたいに溶けちゃいそう……)
これから涼しい風が届かぬ真夏の太陽の下を出歩くと言うのに、すっかりつぐみの身体は清広の愛に包まれて熱を帯びていた。
(こんな調子じゃ、帰ってくる頃にはゆでタコになっているかも……)
そんな思いをいだきながらキスを終えた夫婦が互いをじっと見つめていたところ、玄関ポーチに立った広春がこちらを振り返って元気な声を上げる。
「履けた!」
その発言によって夢のようなひとときから目覚めたつぐみは、女から母親へと戻った。
「偉いね」
「うん! パパも、僕を褒めてくれる?」
「ああ。凄いぞ」
「やったー!」
親子の会話を微笑ましく見守るつぐみは、出かける直前に日傘を手に取る。
その後、家族みんなで公園へ向かった。
*
「なんの面白みも、ないだろうが」
清広は妻子に一言断ると、港がよく見える公園に連れて来てくれた。
休日に食料品や日用品の買い出しへ出かけることはあっても、明るい時間帯に海上自衛隊の基地を訪れる機会などない。
「わー! お船がいっぱーい!」
つぐみは息子と一緒に目を丸くしながら、目の前に広がる光景を眺める。
「ほんとだ。たくさん、停泊しているね」
「間近で見るのは、初めてか」
「うん。保育園と自宅の往復ばかりをしていたから。公園に来たのは初めてだよ。広春が遊具で遊んで、怪我をしたら大変だし……」
「そうか……」
ただでさえシングルマザーとして、職場に迷惑をかけていたのだ。
不慮の事故によって、突然休んだり無どしたら、山田に何を言われるかなどわかったものではない。
「広春がこんなに喜んでくれるのなら、もっと早くに、ここへ来ればよかった。そうすれば、清広さんと遠く離れていてもあなたの存在を感じられたのに……」
つぐみは海上自衛官の妻、失格だ。
キラキラと瞳を輝かせて船をじっと眺める広春の姿を見守りながら暗い表情をすれば、清広は左右に首を振って妻の言葉を否定した。
「気に病む必要はない。親子2人で出歩いている最中、君が不審者に目をつけられても、俺はつぐみを助けられないからな……」
今となっては、取越苦労もいいところだ。
この地を離れたら、もう二度とここにやってくることはないのだから。
「また、この地に戻ってきた時は……。ここへ広春と一緒に来て、清広さんに想いを馳せるね」
「ああ。そうしてくれ」
今は彼と一緒に、この光景を目に焼きつけるのが先だろう。
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「パパが乗ってるのは? どれー?」
「それは、守秘義務がある」
「しゅぎー?」
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「むぅ……」
広春は不満そうに唇をへの字に曲げたが、規則は守らなければ大きな罰が下ってしまう。
どれほど不満に思ったところで、彼の口から答えを引き出すのは困難だ。
つぐみは息子にこれ以上我儘を言わないように、言い聞かせようとする。
「もう少し、近くで見るか」
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