60 / 62
4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決
デートと日常(1)
しおりを挟む
「……つぐみが俺の婚約者で、本当によかった」
清広の言葉を聞いてゆっくりと瞳を開いたつぐみは、肌を触れ合わせることで伝わる暖かな熱を堪能つつ、それに同意した。
「うん。もう……。私達を置いて、単身赴任とか……。別れるなんて、言わないでね……」
ここで清広が約束したとしても、海の中で起きた予想外の出来事によって、命を落とす可能性までは考慮しきれない。
陸の上で息子と一緒に夫の帰りを待つ妻と船と、人生をともにする清広。
2人は同じタイミングで死ぬほうが、困難だろう。
(それが嫌で、清広さんはあの時私と別れを切り出した……)
――それでも。
しっかりと念を押しておけば、清広は潜水艦とともにその命を落とす運命を、簡単には受け入れたりしないはずだ。
「何があっても、必ずつぐみの元へ戻ると誓おう」
陸で勤務することもあるはずだ。
どうなるかは、今の2人にはわからない。
けれど……。
「俺の帰る場所は、つぐみと広春の隣だ」
「うん。約束……」
愛する夫が海上自衛官であり続ける限り。
つぐみは陸の上で、清広の帰りを待ち続ける――。
※
――目黒海将の送別会から数日後。
大騒動の起きた保育園では、急遽保護者説明会が行われた。
その場でも山田が被害を受けた園児や保護者へ謝罪をすることはなく、「自分は悪くない」と言った趣旨の発言を繰り返す。
さすがにこのまま働かせるわけには行かないと言うことになり、彼女にはクビが言い渡された。
保育園が閉園になれば、園児達は転園となる。
全員が希望の園に通えるわけではない。
問題が二度と起こらなければこのまま営業を続けて欲しいと懇願する保護者の声を受け、園長は園の継続を断言した。
(山田先生がいなければ、このままあの園で働き続けてもいいのかなと迷ってはいたけれど……)
問題を起こして後がない状態で、人手不足の園で働けばどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
ただでさえ積み重なる仕事の山が蓄積していき、些細なトラブルが大きな事件へ発展する。
注意力散漫になり、保育士同志の諍いが増える可能性が高い。
そんな状態で愛する妻を働かせるなど夫が許すはずもなく、つぐみは予定通り
こうして夫婦は家族3人で県外に引っ越すと決めた。
そうなれば、つぐみは短時間で新しい職場や住居を探さなければならない。
やることは山積みだ。
「俺は基地から2時間以内に通える範囲の場所であれば、問題ない。つぐみの職場に近いところに、家を借りよう」
清広と夫婦で居続ける限り、何度も頻繁に引っ越しをするだろう。
幼い広春は何度も出会いと別れを経験し、傷つくこともあるかもしれない。
――それでも。
大好きな父親と引き裂かれる悲しみに比べたら、行く先々でできた友達との別れなど、屁でもない。
そう思ってもらえるように、つぐみがサポートをしていけばいいだろう。
(最愛の人と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。私はそう、信じている。だから……)
不動産情報サイトを見比べての物件探しや、広春の通う小学校の情報、働く園の評判を調べるのは、まったく苦ではなかった。
(最悪な雰囲気のまま、今の園で勤め続けるよりは、ずっといいもの……)
つぐみはまだ見ぬ新天地へ向かう日を待ち切れない様子で荷造りをする息子と夫の姿を優しい瞳で見守りながら、情報収集に明け暮れた。
「公園に行かないか」
清広から思わぬ誘いを受けたのは、それからさらに数日後のことだった。
夫の元へ正式な辞令が下り、引っ越し日が決定した直後、まさか遊びに行こうと誘われるなど思いもしない。
つぐみは思わず、目を見張った。
清広の言葉を聞いてゆっくりと瞳を開いたつぐみは、肌を触れ合わせることで伝わる暖かな熱を堪能つつ、それに同意した。
「うん。もう……。私達を置いて、単身赴任とか……。別れるなんて、言わないでね……」
ここで清広が約束したとしても、海の中で起きた予想外の出来事によって、命を落とす可能性までは考慮しきれない。
陸の上で息子と一緒に夫の帰りを待つ妻と船と、人生をともにする清広。
2人は同じタイミングで死ぬほうが、困難だろう。
(それが嫌で、清広さんはあの時私と別れを切り出した……)
――それでも。
しっかりと念を押しておけば、清広は潜水艦とともにその命を落とす運命を、簡単には受け入れたりしないはずだ。
「何があっても、必ずつぐみの元へ戻ると誓おう」
陸で勤務することもあるはずだ。
どうなるかは、今の2人にはわからない。
けれど……。
「俺の帰る場所は、つぐみと広春の隣だ」
「うん。約束……」
愛する夫が海上自衛官であり続ける限り。
つぐみは陸の上で、清広の帰りを待ち続ける――。
※
――目黒海将の送別会から数日後。
大騒動の起きた保育園では、急遽保護者説明会が行われた。
その場でも山田が被害を受けた園児や保護者へ謝罪をすることはなく、「自分は悪くない」と言った趣旨の発言を繰り返す。
さすがにこのまま働かせるわけには行かないと言うことになり、彼女にはクビが言い渡された。
保育園が閉園になれば、園児達は転園となる。
全員が希望の園に通えるわけではない。
問題が二度と起こらなければこのまま営業を続けて欲しいと懇願する保護者の声を受け、園長は園の継続を断言した。
(山田先生がいなければ、このままあの園で働き続けてもいいのかなと迷ってはいたけれど……)
問題を起こして後がない状態で、人手不足の園で働けばどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
ただでさえ積み重なる仕事の山が蓄積していき、些細なトラブルが大きな事件へ発展する。
注意力散漫になり、保育士同志の諍いが増える可能性が高い。
そんな状態で愛する妻を働かせるなど夫が許すはずもなく、つぐみは予定通り
こうして夫婦は家族3人で県外に引っ越すと決めた。
そうなれば、つぐみは短時間で新しい職場や住居を探さなければならない。
やることは山積みだ。
「俺は基地から2時間以内に通える範囲の場所であれば、問題ない。つぐみの職場に近いところに、家を借りよう」
清広と夫婦で居続ける限り、何度も頻繁に引っ越しをするだろう。
幼い広春は何度も出会いと別れを経験し、傷つくこともあるかもしれない。
――それでも。
大好きな父親と引き裂かれる悲しみに比べたら、行く先々でできた友達との別れなど、屁でもない。
そう思ってもらえるように、つぐみがサポートをしていけばいいだろう。
(最愛の人と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。私はそう、信じている。だから……)
不動産情報サイトを見比べての物件探しや、広春の通う小学校の情報、働く園の評判を調べるのは、まったく苦ではなかった。
(最悪な雰囲気のまま、今の園で勤め続けるよりは、ずっといいもの……)
つぐみはまだ見ぬ新天地へ向かう日を待ち切れない様子で荷造りをする息子と夫の姿を優しい瞳で見守りながら、情報収集に明け暮れた。
「公園に行かないか」
清広から思わぬ誘いを受けたのは、それからさらに数日後のことだった。
夫の元へ正式な辞令が下り、引っ越し日が決定した直後、まさか遊びに行こうと誘われるなど思いもしない。
つぐみは思わず、目を見張った。
0
あなたにおすすめの小説
ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
龍の腕に咲く華
沙夜
恋愛
どうして私ばかり、いつも変な人に絡まれるんだろう。
そんな毎日から抜け出したくて貼った、たった一枚のタトゥーシール。それが、本物の獣を呼び寄せてしまった。
彼の名前は、檜山湊。極道の若頭。
恐怖から始まったのは、200万円の借金のカタとして課せられた「添い寝」という奇妙な契約。
支配的なのに、時折見せる不器用な優しさ。恐怖と安らぎの間で揺れ動く心。これはただの気まぐれか、それとも――。
一度は逃げ出したはずの豪華な鳥籠へ、なぜ私は再び戻ろうとするのか。
偽りの強さを捨てた少女が、自らの意志で愛に生きる覚悟を決めるまでの、危険で甘いラブストーリー。
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる