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落花
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翌朝鏡を見る。背中…歯形くっきり……水着では隠れない場所に。
この跡、しばらくまだ残っていそうだ。今日も泳がなきゃいけないのに。
「おはようございます」
「うーっす」
「時間ないよーさっさと入るー!」
朝練では佐久間先生はいない。と言うのも、佐久間先生は外部コーチだから。
噂では、この高校出身だから、ボランティアで水泳部コーチを引き受けてるそうだ。
朝は二番目の若手、女性の水島先生がいて、大事な時期には重鎮の山本先生が登場する。
全員水泳経験者だけど、この中で、フォーム矯正をしたり、細かなアドバイスをくれるのは佐久間先生だけ。
(熱心で、いい先生だと思うけどなぁ…。)
コウキは、どうして佐久間先生をあんなふうに言うのかな?
朝練が終わった。歯形は誰にも指摘されなくて、ほーっとした。誰も背中なんて見てないよね。
コウキは、今多分音楽室の階段にいるはずだ。
「なおーっ、ドライヤーいる?」
「あっ……ううんっ。ありがと!」
髪を濡らしたまま、藍瑠より、誰より先に更衣室を出た。走って、走って、ドアの前。
ノブを回せどもドアが開かない。
鍵、直った?
ドアノブから手を離した時、音楽室のドアが開いた。
「波多野?」
野原君が音楽室から顔を出した。
「あっ……野原君!どうしたの?こんなところで……」
「波多野こそどうしたの。オレは伴奏の練習だよ」
「伴奏?」
野原君は、持っていた楽譜を見せてくれた。
「今、合唱部の伴奏手伝ってるんだ。家じゃ思い切り弾けないから、グランドピアノ借りてるの」
「ピアノ弾けるんだ?知らなかったなぁー」
「うん。中学まで習ってたからね……。受験終わってまた、再開しようか迷ってたら、顧問に声かけられて……」
うん、知的な感じが野原君にぴったり。
きっと上手なんだろうなぁ。聞いてみたい。
「なんか久しぶりだよね、話すの」
「席替えしたもんね」
コウキとつきあって間もなく席替えがあって、接点がなくなっていた。
「波多野、元気かなって思ってたんだ」
「元気だよー。野原君は?」
「まあ、変わんないね笑」
「恋愛は?」
って聞いたら、口元に手をやって、目線だけ私に。
「波多野、話しやすいから、なんでも言っちゃいそう」
ちょっと恥ずかしげな野原君に、ちょっと心を擽られる。
「言って!私、話しやすいってあんまり言われないのに」
「そ?オレには、話しやすいよ」
独特な雰囲気。ゆっくりマイペース。野原君と一緒にいると、落ち着くな。
コウキの落ち着きのなさはすごいから。
野原君、濡れた髪を見てくすりと微笑む。
「水泳部頑張るね」
「あ、もうすぐ合同練習があってね、私は2コメとブレと出るの」
「ニコメ?」
「あっ、200mの個人メドレーと100m平泳ぎだよ」
「そんなに泳ぐんだ。すごいね。見てみたい」
「見に来たら!?会場ココだし、藍瑠はバッタとフリー出るよ!フリーってクロールなんだけどね」
「オレ一人で行ったら浮きそうだな」
テンションあがっちゃったけど、そうだよね。来づらいよね……あんまり押し付けないようにしなきゃ。
「気にしないで、野原君の都合もあるよね」
野原君がまたくすくすと笑う。
「……ちょっと来ようかな。ガンバってるとこ見てみたいかも」
「でしょ!?めっちゃガンバってるよ!藍瑠!」
「波多野もガンバるんでしょ?ちゃんと見にくるよ」
って言って、にこって、優しい顔をした。
野原君、ドキっとさせるのうまいなー……
私がカルいだけなのかなー……
コウキいるのに、胸ん中がどくって……
でも、野原君にはなんの狙いもない。藍瑠を好きなんだから、私をドキドキさせるつもりもない。
私が、勝手に、ひとりで……
「久しぶりに喋れてよかった」
「私も!ピアノすごいね、弾いてるとこ見てみたい」
「見る?昼休みも一人で弾いてるから」
「じゃあ、藍瑠と来てもいい?」
「いいよ」
可愛い笑顔……
そんな約束を交わして、教室に戻る。
休み時間藍瑠に、昼休み音楽室に行こうと話した。陽の当たる廊下で。
「音楽室?いいけど、なお、昼休みコウキ先輩と会わないの?」
それね。
「今日はいいやぁ……朝、会えると思ってたんだけど……」
音楽室横のドア、壊れてたし……
はっきりとは約束してないけど、朝は非常階段、放課後は部室裏で会う、なんとなくのきまり。
「なおっ、まだ野原君好きなんだー?コウキ先輩に知れたらやばくない?」
藍瑠が肘で突いて来る。
ちがっ!好きじゃなくて、私は野原君のために、藍瑠を連れてくの!
むうっと考えこんでたら、藍瑠が笑う。
「あはっ。大丈夫。コウキ先輩には黙ってるから」
「何をっ……」
「入学式にひとめぼれだったもんね?簡単には忘れられないよ」
「だからもう違うってっ」
「野原君とコウキ先輩、二股かけるのはやめなよ?」
「藍瑠っ!」
藍瑠の悪ノリ。飛びついてギャーギャーやってたら、男子トイレから野原君が出てきた。
藍瑠と二人でピキっと固まる。
野原君は、全く私たちの方を見ないで、教室に戻って行った。
「聞かれた……?」
「あんなの絶対聞かれてるよぉ……」
「やー、ゴメーン」
「もっと真剣に謝ってっ!」
最悪。音楽室なんて、もう行けない。
きっともう、普通には話せない……
「マジでゴメーン、な~お~。あたしを殴って!」
「殴んないけどちょっと一人にして……頭整理したい……」
藍瑠の言うように、私にはまだ野原君への気持ちが残ってたのかな?
どうでもよかったら、きっとこんなに落ち込まない……
野原君と、友情を育みたかった。それははっきり言える。
この跡、しばらくまだ残っていそうだ。今日も泳がなきゃいけないのに。
「おはようございます」
「うーっす」
「時間ないよーさっさと入るー!」
朝練では佐久間先生はいない。と言うのも、佐久間先生は外部コーチだから。
噂では、この高校出身だから、ボランティアで水泳部コーチを引き受けてるそうだ。
朝は二番目の若手、女性の水島先生がいて、大事な時期には重鎮の山本先生が登場する。
全員水泳経験者だけど、この中で、フォーム矯正をしたり、細かなアドバイスをくれるのは佐久間先生だけ。
(熱心で、いい先生だと思うけどなぁ…。)
コウキは、どうして佐久間先生をあんなふうに言うのかな?
朝練が終わった。歯形は誰にも指摘されなくて、ほーっとした。誰も背中なんて見てないよね。
コウキは、今多分音楽室の階段にいるはずだ。
「なおーっ、ドライヤーいる?」
「あっ……ううんっ。ありがと!」
髪を濡らしたまま、藍瑠より、誰より先に更衣室を出た。走って、走って、ドアの前。
ノブを回せどもドアが開かない。
鍵、直った?
ドアノブから手を離した時、音楽室のドアが開いた。
「波多野?」
野原君が音楽室から顔を出した。
「あっ……野原君!どうしたの?こんなところで……」
「波多野こそどうしたの。オレは伴奏の練習だよ」
「伴奏?」
野原君は、持っていた楽譜を見せてくれた。
「今、合唱部の伴奏手伝ってるんだ。家じゃ思い切り弾けないから、グランドピアノ借りてるの」
「ピアノ弾けるんだ?知らなかったなぁー」
「うん。中学まで習ってたからね……。受験終わってまた、再開しようか迷ってたら、顧問に声かけられて……」
うん、知的な感じが野原君にぴったり。
きっと上手なんだろうなぁ。聞いてみたい。
「なんか久しぶりだよね、話すの」
「席替えしたもんね」
コウキとつきあって間もなく席替えがあって、接点がなくなっていた。
「波多野、元気かなって思ってたんだ」
「元気だよー。野原君は?」
「まあ、変わんないね笑」
「恋愛は?」
って聞いたら、口元に手をやって、目線だけ私に。
「波多野、話しやすいから、なんでも言っちゃいそう」
ちょっと恥ずかしげな野原君に、ちょっと心を擽られる。
「言って!私、話しやすいってあんまり言われないのに」
「そ?オレには、話しやすいよ」
独特な雰囲気。ゆっくりマイペース。野原君と一緒にいると、落ち着くな。
コウキの落ち着きのなさはすごいから。
野原君、濡れた髪を見てくすりと微笑む。
「水泳部頑張るね」
「あ、もうすぐ合同練習があってね、私は2コメとブレと出るの」
「ニコメ?」
「あっ、200mの個人メドレーと100m平泳ぎだよ」
「そんなに泳ぐんだ。すごいね。見てみたい」
「見に来たら!?会場ココだし、藍瑠はバッタとフリー出るよ!フリーってクロールなんだけどね」
「オレ一人で行ったら浮きそうだな」
テンションあがっちゃったけど、そうだよね。来づらいよね……あんまり押し付けないようにしなきゃ。
「気にしないで、野原君の都合もあるよね」
野原君がまたくすくすと笑う。
「……ちょっと来ようかな。ガンバってるとこ見てみたいかも」
「でしょ!?めっちゃガンバってるよ!藍瑠!」
「波多野もガンバるんでしょ?ちゃんと見にくるよ」
って言って、にこって、優しい顔をした。
野原君、ドキっとさせるのうまいなー……
私がカルいだけなのかなー……
コウキいるのに、胸ん中がどくって……
でも、野原君にはなんの狙いもない。藍瑠を好きなんだから、私をドキドキさせるつもりもない。
私が、勝手に、ひとりで……
「久しぶりに喋れてよかった」
「私も!ピアノすごいね、弾いてるとこ見てみたい」
「見る?昼休みも一人で弾いてるから」
「じゃあ、藍瑠と来てもいい?」
「いいよ」
可愛い笑顔……
そんな約束を交わして、教室に戻る。
休み時間藍瑠に、昼休み音楽室に行こうと話した。陽の当たる廊下で。
「音楽室?いいけど、なお、昼休みコウキ先輩と会わないの?」
それね。
「今日はいいやぁ……朝、会えると思ってたんだけど……」
音楽室横のドア、壊れてたし……
はっきりとは約束してないけど、朝は非常階段、放課後は部室裏で会う、なんとなくのきまり。
「なおっ、まだ野原君好きなんだー?コウキ先輩に知れたらやばくない?」
藍瑠が肘で突いて来る。
ちがっ!好きじゃなくて、私は野原君のために、藍瑠を連れてくの!
むうっと考えこんでたら、藍瑠が笑う。
「あはっ。大丈夫。コウキ先輩には黙ってるから」
「何をっ……」
「入学式にひとめぼれだったもんね?簡単には忘れられないよ」
「だからもう違うってっ」
「野原君とコウキ先輩、二股かけるのはやめなよ?」
「藍瑠っ!」
藍瑠の悪ノリ。飛びついてギャーギャーやってたら、男子トイレから野原君が出てきた。
藍瑠と二人でピキっと固まる。
野原君は、全く私たちの方を見ないで、教室に戻って行った。
「聞かれた……?」
「あんなの絶対聞かれてるよぉ……」
「やー、ゴメーン」
「もっと真剣に謝ってっ!」
最悪。音楽室なんて、もう行けない。
きっともう、普通には話せない……
「マジでゴメーン、な~お~。あたしを殴って!」
「殴んないけどちょっと一人にして……頭整理したい……」
藍瑠の言うように、私にはまだ野原君への気持ちが残ってたのかな?
どうでもよかったら、きっとこんなに落ち込まない……
野原君と、友情を育みたかった。それははっきり言える。
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