プールサイド

なお

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落花

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涙が止まり、顔を洗った。そしてすぐにでも佐久間先生に謝ろうと決心して。またキャップを被ったら、コンコンとノック音が聞こえた。
見てみると、外には3年生の先輩たちがいる。

「波多野さーん」
「天気悪くなって来て、もう終わったよ?後は陸トレする子はまた集合だけど……大丈夫?」
「さくちゃん機嫌悪かったよね」

ドアを開けたら泳ぎ終えた先輩たちが声をかけてくれた。また泣きそうだ。

「佐久間先生は…今…」
「陸トレ見てるかな?今はまだプールサイドじゃない?ジャージ着て今のうちに謝っておいでっ」
「はいっ」

すぐに着替えて、プールサイドに向かう。
早く謝らないと。

「佐久間先生、陸トレ参加させてください!さっきはすいませんでしたっ」

先生はまだ機嫌の悪さを残しながら、私を見た。

「すいませんではすまねぇーんだよ」
「はいっ」
「校内走り込み行ってこい」
「はいっ」

許してもらえたのかわからないけど、とにかく走るしかない。
恋愛がうまくいかなくたって、ぼんやりしてられない……


みんなで、言われたメニューをこなして部活を終える。
窓の外は本格的な雨。傘ない……
ジャージのまま帰ろうとしていたら、「波多野さーん」と先輩に呼ばれた。

「佐久間先生が呼んでるよー」
「ありがとうございます!どこですか?」
「教官室ー。帰る前に寄れってー」
「ありがとうございますっ」

お説教かな……ふう。
私が腑抜けてるせいで、普段優しい佐久間先生をあんなに怒らせたんだから、ちゃんと謝らなきゃ……

「失礼します…波多野です」

先生は、佐久間先生しかいなくて。
外はどしゃぶり……



●◎●◎●



こってりお説教された。
でも、その後の出来事が強烈で、お説教の内容は覚えてない。

叱られて、教官室で泣いてしまったのは覚えてる。
車に乗った理由は、傘がなかったから、だったか、泣かせすぎて申し訳ないからって先生が言っていたのか、だいたいそんな感じのことで、先生の車で家まで送ってもらうことになった。

大きな白のワンボックスカー……どこにでもありそうな大きなので。
車内をキョロキョロみてたら、佐久間先生が少しほほえんだようにみえた。

厳しい時は厳しく、優しい時は優しい。
そして、爽やかスポーツマン。そんな印象の佐久間先生。
お説教は終了して、いつもどおりフランクに喋ってくれた。

私は昨日のことも覚えていて。あのバイクの人と、先生は同一人物なのかな…って、思い出したりしてて。
でも、すごーく叱られた後だし、聞ける雰囲気じゃない。
楽しく、いろいろ昔話を交える先生の話を、笑いながら聞いてた。


「奈緒はボーッとしてるから、彼氏もヒヤヒヤするだろうな?」

暗い道、暗い車の中で言われたら、ちょっとぎくりとする。
普段からボーッとはしてないけどな。今日は、いろんなことがあったせいで、ボーっとしちゃったけど……。

「あははは…ボーッとしてるから彼氏に咬まれたんでしょうか……」
「あれは痛そうだったなぁ…ははっ」

「あははははは」

遠慮なく笑われて、私も一緒に笑ってみたりして……
変な空気は気のせいなのか。

「あ、スムーズに来てたのに、赤だよ」
「あー、ほんとですねぇ……」

交差点で車が止まって、先生と二人で信号機を見る。

「左に行った方が近いかなー。行っていい?」
「はい、何でも……私、道よくわからないんで」

車は、知らない道を走り出した。走ってる最中、携帯が鳴った。

「あっ……」

やっとコウキからの折り返し。でも、今ここで出ていいのか……
携帯は一応建前上、所持禁止。みんな持ってるけど、それでもだ。
佐久間先生は教師じゃないし、OBって事情もあって、あまり校則違反を咎めたりはしないはずだけど……。

「着信?出れば?」

先生はあっさりと許してくれた。

「いいですか?」
「もちろん」

どうぞどうぞと勧められて電話に出た。


「もしもし!?大丈夫?」
「あー……。大丈夫ー。高熱出てさ。すげぇだりーの」

コウキ!
声も弱ってる気がするし、これは嘘じゃないかも。ずっとメールしかしてなかったし、それも無視されてたから、冷められたんだと思ってた。

「本当に大丈夫!?行こうか?」
「下にババアいるよー」
「あ、もー。ババアって言っちゃだめだよ」
「ふはっ」

あー…コウキ。普通に戻ってる。よかった。よかったぁ……

「なおまだ帰ってねぇの?今どこよ?」
「あっ……まだ、うん……もうちょっとしたら着く…」

はっとした。そうだ、会話全部先生聞いてるんだ。夢中になって喋ってた……
ちらっと見た佐久間先生の口元が緩んでて、目が合って頭下げて。

「じゃあ、ゆっくり休んでね。無理しないで……」

体調が悪かったのに、疑心暗鬼になって……。全然コウキのこと信じてない、ダメな彼女。
反省しながら通話を切って、信号のない道路が目に入った。

驚いて、先生を見る。



「……佐久間先生、ここ……高速ですよね?」
「うん。もう下りるよー」

えっ?隣の市?
よくわからないまま、まもなく、海の近くの一般道に出た。
冷や汗みたいな、サーっとした感覚が走る。
佐久間先生は時々鼻歌歌いながら運転していて、それが逆に怖かった。

「奈緒の彼氏は川内光輝だったのかー。あいつは雑なセックスしそうだなぁ。やんちゃでおもしろいけど、そういうテクはなさそうだよな」
「あはは…生々しいですね」


密室。知らない場所。夜。雨の日。

相手は大人で、鍛え抜かれた体の男の人。
何かされても逃げ場はない。

ごくりと固唾を飲んだ音が、先生に聞こえた様に思った。車の中に響いたかもしれない。

先生が笑う。

「オレが、奈緒に教えてやるよ。黙ってれば悪いようにはしないから……な?」


顔は爽やかなのが逆に怖い。





暗い海の近くに車を停め、雨音で全部、雑音は掻き消される。


ここでめちゃくちゃにやられるのかな。
黙ってると、先生が優しく私に耳打ちする。

「大丈夫だよ。優しくするし……痛いのとか、無理矢理は嫌なんだ。だから、な?」



優しいのが逆に怖い。

もう断ることはできなかった。


後ろのシートに移動した。

いっそのこと早く終わらせて帰ろう、そう思いながら。
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