30 / 41
繽紛
30
しおりを挟む
野原君の前で泣いてしまったけど、抱きしめられたり、手を繋がれたり、そんなことはなかった。
「ごめん」と、野原君は最後まで謝ってた。
「また喋ろう」って、約束をして部屋に戻った。
でも……今は、喋る話題も思いつかない。
コウキに、彩夏先輩のことを聞きたかったけど、すぐに消灯の時間がやってくる。
6人部屋でみんなで寝る仕度をしてたら、
「なおー。野原君とどこ消えてたのよ?怪しいー。コウキ先輩にチクるぞー」
藍瑠が頬を膨らませてる。
野原君といたことをコウキが知ったって、コウキには彩夏先輩がいるもんね……
「いいよ。言っても」
「なになに、なにスネてんの?野原君の部屋行ってたんでしょ?二人で帰ってきて、微笑みあって怪しいよ。見てる人は見てるよ?」
「見られてたって、別になにもないよ」
野原君とは指一本触れてないし、やましいことなんてない。
「私、コウキに電話してくる」
やっぱり、コウキに直接聞きたい。
「ちょっとなお…」
藍瑠の制止を聞かず携帯を持って廊下に出たら、岩松先生がいた。
よりによって生徒指導の厳しい先生だ。
「何をしている。携帯は使用禁止のはずだぞ」
先生が手の平を差し出してきて……
あえなく没収。
携帯を返してもらえたのは、翌日学校に戻った後だった。
帰り、駅のロータリーにあるベンチで、合宿の荷物が入ったバッグを抱えながら、メールを確認していた。
没収されていたから、もう電池がほとんどない。
コウキに会うのは明日だけど、できれば今日会って聞きたい。彩夏先輩のことを。
コウキからメールは何も来ていなかった。
音楽室隣のあの扉を開けて、あの埃っぽい場所で、二人で何してたの
浮気したら殺すって言ってたのに、どういう気持ちで笑ってたの
嘘ばっかりついて、人を欺いて……馬鹿にして、私はコウキのなんなの
電話がつながったら、もう知らない、別れる って言ってやる
でも、その電話もつながらなくて悲しい。
コウキに、隠しごとした罰?
佐久間先生にされたこと
恐ろしかったのにイッちゃったこと
そんな私だから、浮気されても仕方ないのかな……
「……波多野?」
呼ばれて、顔を上げる
「あ、野原君…どうしたの?帰るの?」
「どうしたのってオレが言いたいよ。誰か待ってるの?」
って……私のとなりに座った。
答える前に「あ、彼氏さん迎えにくるの?」と言われて、首を振った。
「誰も待ってないよ。コウキに電話しようとしたけどつながらなくて」
「なんか前もそんなことあったよね。お見舞い行くって言って、電話繋がんなくて」
あった。
佐久間先生に弄られた日。
あー……気持ち悪い
「もうやだ……もう無理……」
堰を切ったように涙が溢れる。
「波多野……大丈夫?」
「もう無理、無理ぃ……」
わんわん泣き出して、野原君は困っていただろう
「波多野、ちょっとすげー見られてる」
「ひっ…ひっく、ごめんっ……でも、涙止まんない…」
「オレはいいんだけど、ここ目立つから」
見られてても嗚咽は止まらないし、切れた糸は元には戻らない。
「……泣くなら、あそこにしたら」
「………」
「オレもつきあうから」
指さす先は駅前の3階建てのカラオケボックスで、どこにでもあるチェーン店。
学校に近すぎるから、制服の日は行かないが、今日は私服……
「二名様ー、こちらへどうぞー」
野原君が受付でいろいろやってくれて。
私たちは小さな二人部屋に案内された。
「せっま」
荷物と私たちでぎゅうぎゅうになる席。
カップルと思われたに違いない……
とりあえず席に座って、飲み物を選ぶ。
私がメニューを見ている間、野原君は、膝の上でリモコンをくるくる回していた。
「ソーダフロートにする」
「え、うそオレも」
ふふっと笑い合った。
コウキなら甘くないの選んでるだろうな。
ソーダフロートが二つ来た。
水色のストローとシルバーのスプーンがついて。
「波多野、歌う?」
「あんまりそんな気には……泣きに来たし。でももう、涙ひっこんじゃった」
「……オレも責任感じてるから、遠慮なく泣いて」
「さあ泣けって言われても泣けないよね」
笑ってソーダフロートを食べた。
野原君も、スプーンでアイスをすくって。
しぐさに見とれてしまった。
「野原君……きれいに食べるねぇ」
コウキならアイス一口だろう。
「きれい?そんなこと、初めて言われたよ」
野原君は恥ずかしそうにスプーンをおいて、歌本をぱらぱらめくる。
「何か歌う?」
「野原君は?」
「オレ、邦楽知らないからなぁ…」
「洋楽?」
「うん。姉がよく聞いてて……」
お姉さんがいるんだ。そんな感じだなぁ。
「はい。どうぞ」
歌本を渡されて、ぱらぱらめくってみるけど、歌うのは緊張する。
今何時だろうと携帯を見た。ついに電池が切れていて、充電器をバッグから出す。
「コンセントここにあるよ。貸して」
「あ、ありがとう」
私が座ってるソファの足元にあるコンセント。
野原君が、ソファ下に手を伸ばして差し込んでくれて……
私はドキドキしながら、少し避けて見ていた。
近いなぁ……
ちょっと右に寄ったら、体に触れてしまう。
プラグが入り、携帯のランプが点灯して、充電が始まった。
「ありがとう」
「ううん」
ドサっとソファに座る野原君、ポケットをゴソゴソして、携帯を出した。
「波多野の携帯知らなかったよね」
「あ、うん…」
野原君は、またメガネを上げた。
「……教えて」
「うん……」
近づいたら、空気が変わる。
「オレの番号これ」
「あ、じゃあ、一回かける」
「…来た」
狭いシートでお互いの携帯覗き合って……
膝がくっついてる。
「波多野奈緒。登録したよ」
野原君に名前で呼ばれると、ドキドキして切なくなる。
「私からメールしていいの?」
「当たり前でしょ」
当たり前か、そっか……
顔が笑っちゃう……
野原君と繋がれたのは嬉しいんだけど、コウキの物騒な発言がちらちら頭をよぎって。
「浮気したら殺すって言われてるから、送れるがわかんないんだけどね」
って言ったら、野原君は血相を変えた。
「え?彼氏が?……殺すって?」
「あ、本当にそんなことはしないと思うんだけど」
「そりゃそうだろ、したら終わりだよ。……彼女にそんなこと……言える人もいるんだね。オレは絶対そんなこと言えない」
「あはは。野原君は優しいからね」
「……波多野、多分…オレが普通で、彼氏さんがおかしいよ。波多野は、慣れなくてもいいことに慣れちゃってるんじゃない?普通じゃないよ……彼氏……」
普通じゃないよね。
そうだよね。
外で、校内で、あんなにエッチなことばっかりしてたのも、普通じゃなかったよね。
でも、私も喜んで受け入れてたから、それも普通じゃない。
変なのがわかってるから、私も藍瑠には話せなかった。
「ごめん」と、野原君は最後まで謝ってた。
「また喋ろう」って、約束をして部屋に戻った。
でも……今は、喋る話題も思いつかない。
コウキに、彩夏先輩のことを聞きたかったけど、すぐに消灯の時間がやってくる。
6人部屋でみんなで寝る仕度をしてたら、
「なおー。野原君とどこ消えてたのよ?怪しいー。コウキ先輩にチクるぞー」
藍瑠が頬を膨らませてる。
野原君といたことをコウキが知ったって、コウキには彩夏先輩がいるもんね……
「いいよ。言っても」
「なになに、なにスネてんの?野原君の部屋行ってたんでしょ?二人で帰ってきて、微笑みあって怪しいよ。見てる人は見てるよ?」
「見られてたって、別になにもないよ」
野原君とは指一本触れてないし、やましいことなんてない。
「私、コウキに電話してくる」
やっぱり、コウキに直接聞きたい。
「ちょっとなお…」
藍瑠の制止を聞かず携帯を持って廊下に出たら、岩松先生がいた。
よりによって生徒指導の厳しい先生だ。
「何をしている。携帯は使用禁止のはずだぞ」
先生が手の平を差し出してきて……
あえなく没収。
携帯を返してもらえたのは、翌日学校に戻った後だった。
帰り、駅のロータリーにあるベンチで、合宿の荷物が入ったバッグを抱えながら、メールを確認していた。
没収されていたから、もう電池がほとんどない。
コウキに会うのは明日だけど、できれば今日会って聞きたい。彩夏先輩のことを。
コウキからメールは何も来ていなかった。
音楽室隣のあの扉を開けて、あの埃っぽい場所で、二人で何してたの
浮気したら殺すって言ってたのに、どういう気持ちで笑ってたの
嘘ばっかりついて、人を欺いて……馬鹿にして、私はコウキのなんなの
電話がつながったら、もう知らない、別れる って言ってやる
でも、その電話もつながらなくて悲しい。
コウキに、隠しごとした罰?
佐久間先生にされたこと
恐ろしかったのにイッちゃったこと
そんな私だから、浮気されても仕方ないのかな……
「……波多野?」
呼ばれて、顔を上げる
「あ、野原君…どうしたの?帰るの?」
「どうしたのってオレが言いたいよ。誰か待ってるの?」
って……私のとなりに座った。
答える前に「あ、彼氏さん迎えにくるの?」と言われて、首を振った。
「誰も待ってないよ。コウキに電話しようとしたけどつながらなくて」
「なんか前もそんなことあったよね。お見舞い行くって言って、電話繋がんなくて」
あった。
佐久間先生に弄られた日。
あー……気持ち悪い
「もうやだ……もう無理……」
堰を切ったように涙が溢れる。
「波多野……大丈夫?」
「もう無理、無理ぃ……」
わんわん泣き出して、野原君は困っていただろう
「波多野、ちょっとすげー見られてる」
「ひっ…ひっく、ごめんっ……でも、涙止まんない…」
「オレはいいんだけど、ここ目立つから」
見られてても嗚咽は止まらないし、切れた糸は元には戻らない。
「……泣くなら、あそこにしたら」
「………」
「オレもつきあうから」
指さす先は駅前の3階建てのカラオケボックスで、どこにでもあるチェーン店。
学校に近すぎるから、制服の日は行かないが、今日は私服……
「二名様ー、こちらへどうぞー」
野原君が受付でいろいろやってくれて。
私たちは小さな二人部屋に案内された。
「せっま」
荷物と私たちでぎゅうぎゅうになる席。
カップルと思われたに違いない……
とりあえず席に座って、飲み物を選ぶ。
私がメニューを見ている間、野原君は、膝の上でリモコンをくるくる回していた。
「ソーダフロートにする」
「え、うそオレも」
ふふっと笑い合った。
コウキなら甘くないの選んでるだろうな。
ソーダフロートが二つ来た。
水色のストローとシルバーのスプーンがついて。
「波多野、歌う?」
「あんまりそんな気には……泣きに来たし。でももう、涙ひっこんじゃった」
「……オレも責任感じてるから、遠慮なく泣いて」
「さあ泣けって言われても泣けないよね」
笑ってソーダフロートを食べた。
野原君も、スプーンでアイスをすくって。
しぐさに見とれてしまった。
「野原君……きれいに食べるねぇ」
コウキならアイス一口だろう。
「きれい?そんなこと、初めて言われたよ」
野原君は恥ずかしそうにスプーンをおいて、歌本をぱらぱらめくる。
「何か歌う?」
「野原君は?」
「オレ、邦楽知らないからなぁ…」
「洋楽?」
「うん。姉がよく聞いてて……」
お姉さんがいるんだ。そんな感じだなぁ。
「はい。どうぞ」
歌本を渡されて、ぱらぱらめくってみるけど、歌うのは緊張する。
今何時だろうと携帯を見た。ついに電池が切れていて、充電器をバッグから出す。
「コンセントここにあるよ。貸して」
「あ、ありがとう」
私が座ってるソファの足元にあるコンセント。
野原君が、ソファ下に手を伸ばして差し込んでくれて……
私はドキドキしながら、少し避けて見ていた。
近いなぁ……
ちょっと右に寄ったら、体に触れてしまう。
プラグが入り、携帯のランプが点灯して、充電が始まった。
「ありがとう」
「ううん」
ドサっとソファに座る野原君、ポケットをゴソゴソして、携帯を出した。
「波多野の携帯知らなかったよね」
「あ、うん…」
野原君は、またメガネを上げた。
「……教えて」
「うん……」
近づいたら、空気が変わる。
「オレの番号これ」
「あ、じゃあ、一回かける」
「…来た」
狭いシートでお互いの携帯覗き合って……
膝がくっついてる。
「波多野奈緒。登録したよ」
野原君に名前で呼ばれると、ドキドキして切なくなる。
「私からメールしていいの?」
「当たり前でしょ」
当たり前か、そっか……
顔が笑っちゃう……
野原君と繋がれたのは嬉しいんだけど、コウキの物騒な発言がちらちら頭をよぎって。
「浮気したら殺すって言われてるから、送れるがわかんないんだけどね」
って言ったら、野原君は血相を変えた。
「え?彼氏が?……殺すって?」
「あ、本当にそんなことはしないと思うんだけど」
「そりゃそうだろ、したら終わりだよ。……彼女にそんなこと……言える人もいるんだね。オレは絶対そんなこと言えない」
「あはは。野原君は優しいからね」
「……波多野、多分…オレが普通で、彼氏さんがおかしいよ。波多野は、慣れなくてもいいことに慣れちゃってるんじゃない?普通じゃないよ……彼氏……」
普通じゃないよね。
そうだよね。
外で、校内で、あんなにエッチなことばっかりしてたのも、普通じゃなかったよね。
でも、私も喜んで受け入れてたから、それも普通じゃない。
変なのがわかってるから、私も藍瑠には話せなかった。
0
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる