プールサイド

なお

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「好きな人ができたから、別れる……」



言った。

コウキの顔が見れない

「好きな男?前に八木が言ってたやつだな。知ってるよ。童貞臭い奴だろ」

「えっ…」

コウキは平然としながら続ける。

「合宿で盛り上がって、告られた?ヤった?」

「してないよ、そんなこと!」

「なおとヤりたくてしかたないだろうな」

「やめてよ……そんな風に言うの」

「それで、オレが悪者になるのか。オレが彩夏といたって言ってたのも、そいつ?」

「………」

「セコい嘘つくセコい男だな。帰るわ」

コウキがベッドから立ち上がった。何の未練もないような背中で。

「嘘つきはコウキじゃん!いつも適当なことばっかりで、何考えてるかわからないし、何を信じていいかわからない……」


ドアに手をかけていたコウキが振り向いた。


「なおも、オレには何考えてるかわからなかったよ。お互い様だ」



そして……部屋を出て行った。


終わった…?

これで……

今ので、こんなので、全部終わった?


別れたからって、スッキリはしない。

独り身になったからって、すぐに野原君と付き合おうとは思えない。

涙が止まらなかった。

何が本当で、どれが正解なんだろう……

何も見えなくなっちゃった

自分の心さえも。


コウキが、あんなにすんなり帰って行くとは思ってなかった。

もっと反発されると思ってたのかな。

私はコウキに、嫌だ、別れないって言ってほしかったのかな。

コウキから逃げたかった気持ちは消えている。

野原君とコウキの間で……こんな私、ほんとにいつか天罰が下る。


翌朝、藍瑠が、泣き腫らした目に気づいた。

「なお、どうしたの?」

「……わかる?」

「わかるよ、まぶたどうなってんの」

わかるかー。
これでもかなり冷やしたんだけどな

「ちょっと、落ち込んじゃって」

「何?コウキ先輩がらみ?」

「まあ、そんなとこ…」

藍瑠と肩寄せ合って内緒話してたら、後ろからつんっとシャツを引っ張られた。

「あ、野原君。おはよう……」

照れるけどなるべく普通に話す。

「おはよ。これ、なくて不便だっただろ?」

ぽんっと私の携帯を。
電源切ってくれてる。

「取り行ったの?」

「うん。充電器必要だったし」

藍瑠が、怪しむように私たちを見て……

「どこ行ったの?充電器忘れるって、まさかラブホ…」

「カラオケだよ!ねっ、野原君」

「そう。駅前のカラオケ」

「二人だけでぇ~?」

藍瑠がますます怪しんで……
野原君と顔を見合わせた。

「藍瑠はラブホに充電器忘れたことあるんだ…?」

聞いてみたら、藍瑠が「ないない!」と否定する。

「カラオケに行ったところで、オレらは何にもないよ。波多野には彼氏もいるのに。普通に友達だよ」

野原君は、穏やかにはっきりと言い、慌てるそぶりもなく、席に戻った。


その彼氏と、昨日……別れたんだけどな……

でも、あんなにはっきり、私とは何もないって言えるのはすごいな。


私はもう、野原君と何もないなんて、はっきりとは言えないよ……


携帯の電源を入れたら、コウキの着信がかなりの件数入っていた。

メールも。


「無視かー」

「どうした?」

「なんかあった?」

「なおー。会いたいぞー」

「なお。好きだぞー」



……って

もうダメ。
涙が止められない。


先生に断って、保健室に行った。



保健室には誰もいなかった。
朝から来る生徒はいないのかもしれない

ボードに名前を書き込み、ベッドに横になって、カーテンを締めた。
天井が涙で歪んで……


心配して、家まで来てくれたんだろうな。
自宅の電話番号探して。

傷つけただろうなって、罪悪感にかられて、息を殺して泣いていたら、ドアが開いた。

足音が近づいて……


ベッドの前で止まる

カーテンの下から足元が見えた。

清潔な白い上履きを見て……
カーテンを少し開けたら、野原君がいた。

「起きてた?橋センが見てこいって言うから……お腹痛いんだって?」

担任の橋本先生。野原君に頼んだんだ。

「保健の先生いないみたいで……勝手に寝てたぁ。お腹落ちついたら戻るね」

ほんとは痛くないけど……

「……そっか」

野原君がカーテンの中に入ってきた。
薄いオレンジ色の中で、ちょっと緊張した。

「お腹もだけど。目が真っ赤だからさ。心配で……」

「ありがと……」

「…………うん……」


あとは…何を話せばいいんだろ。
泣き腫らした目も見られたくないし、顔がよく見れない


「また見に来るね。次、音楽だ」

「ガンバって」

「ゆっくりしてなよ。……」


ギシッ

野原君がベッドに手をついて

顔が近づく


これ以上近づいたら、唇が当たっちゃう

咄嗟にギュッと目をつぶって、下を向いた。


ちゅ

野原君の唇がおでこに。


「……元気になって」

「うん……」


キス……

しようとしたのかな。



野原君が、出て行った。
残された私はパニック……


こんなことしたら、友達以上の関係だよね……


好きなはずの野原君なのに、近づいたら避けちゃった。

少し 怖い と思ってしまった。

次の時間、保健室の先生も戻ってきた。
1時間休んで教室に帰ろうとしたら、橋センがやってきた。

「波多野、腹はどうだ?」

「大丈夫です」

「へんなもんでも食ったか?」

デリカシーない橋セン(専門・保健体育)に保健の先生が「女の子なんですから」とフォローを入れてくれた。

生理痛でもないんだけど……


「先生、野原君が来てくれました」

「野原?そうなの?」

何も知らないみたいな感じ

橋センが野原君に様子見てって言ったんじゃないの?

「具合悪いなら無理せず帰れな?部活もな、うまく手ー抜くんだぞ」

「あはは……はい」

橋センは職員室へ戻り、別れて廊下を歩いてたら、生活指導室からだれかが出てきた。

彩夏先輩……と岩松。

私に気づいた彩夏先輩は、冷たい視線を向け、何の興味もない顔で、岩松の後を軽やかに歩いて行った。

岩松にすらも色目使ってそうに見えるのは、偏見?

せめて、コウキと彩夏先輩の間に何があったのかは知りたいけど、真相は闇の中だ。
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