君を妻にしたかった。

あんころ餅

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閑話 歌

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 伽が終わったあと、少女は男の硬い腹の上にのしかかり、そっと胸に手を当てていた。
「傷だらけ……治癒、いたしますか……?」
 胸に手を当てるのは、男の心音が鳴り響いていることを確認し、無事であることを身体に染み込ませるため。金糸雀のようなか細い声で問いかけるのは、自分の声が男に届いていることを確かめるため。
「いや、いい。それよりも、歌を歌ってくれ。軍歌には飽きた」
 抉り取られたような傷を負ったというのに、男は癒やすよりも先に少女に歌を歌うように命じる。少女はこくりと頷くと、珊瑚色の唇を開き、昔修道院にいた頃に習った聖歌を歌い始めた。
 少女の歌声は可憐だが、ところどころ音程が外れており、あまり上手いとは言えなかった。しかし、魔物の討伐に疲労した男の心身を安らげるには、十分すぎるほど美しい音色だった。声を揃えた軍歌、大地を踏み鳴らした軍靴の音、魔物へ放った大砲の轟音が、今でも近くで聞こえるほど男の耳に残っている。少女の声を聞いているときだけは、それらがすべて鳴りを潜める。
 男は手を叩き、歌をやめさせた。
「リーリエ、もういい。やめろ」
 冷然とした態度の男に対し、少女は微笑みながら口を閉じる。胸の碧い宝石を撫でると、少女は話し始めた。
「ありがとうございます、エーデルヴァルトさま。いつも、素敵な贈り物をくださって、欣快の至りにございます」
「そうか」
 実は男は、少女に希少な聖動物であるユニコーンを贈ろうとしていた。魔物討伐の褒賞にと、リュミール王国により授けられたのだ。しかし、ユニコーンは気性が荒いうえに男には懐かず、女も処女でなければ背に乗せようともしないと聞き断念した。一見、穢れのない清い乙女のような少女だが、やはり男に抱かれているためか処女にはない妖艶さがある。試しにと乗せて振り落とされ、怪我でもしたら大変だ。ユニコーンではなくとも、乗馬も世話もさせないのに、男は少女にペガサスやポニーを与えているので特段執着する必要もなかったが。
 ユニコーンは別の軍人に譲り、このペンダントを受け取ったのだ。
 ふと、部屋の隅に押し込められている箱が目に入った男は、意図的に声を低くさせた。
「……あそこにあるプレゼントは、一体誰からだ?」
「えっ、ああ……えっと、奥の大きなボックスが、マティアスさま。中程のボックスが、ベルノルトさま。手前のボックスが、カミルさま。あと……」
「もういい。……一応聞いておくが、生物は入っていないだろうな」
「はい。生物類はすぐに開封しています」
 そう語る少女の瞳の中には、男しかいない。少女は、男以外から受け取ったものは基本的に身に着けない。それが夜空を映した貴重なドレスだろうが、朝露を閉じ込めた宝石だろうが、簡素な髪飾りだろうが、どんなものであろうと変わらない。贈られることは決して迷惑とは思っていないのだが、少女自身の忠誠心が許さないのだ。
「リーリエ、そろそろ寝ろ」
「もうですか……? まだ、話していたいです……」
「会話は明るいときでもできるだろう。だが、寝るのは今しかできん」
「お昼寝……」
「屁理屈言うな。寝ろ」
 自分の上から少女を下ろし、毛布をかけてやった。裸で抱き合っていると、外が雪で覆われていることなど忘れてしまう。少女は男の胸に頬を擦り寄せ、再び心音に耳を預けた。とくん、とくんと男の胸の鼓動が聞こえてくる。男が無事に帰還するまで、少女はまともに寝付けなかった。浅い眠りの中、無意識に男のいる方向へ目をやり、翌朝隈だらけで起きるという生活が長く続いていた。
 何度男がここを立ち去り、そして戻ってきたのか。男は決して弱くない。それでも、少女は怖くてたまらなかった。
 いつの間にか、少女は愛する男の腕の中で眠っていた。
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