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さぁ、お迎えに上がりましょう
7.
しおりを挟む仕切り直すようにテーブルを整え、椅子に座る。
「じゃ、改めて。星の王国大公序列11位。オズワルド・アクアリウスだよ。どうぞよろしく」
「ふふっ、ただのエレノアよ。どうぞよろしく」
なんだか愉しくなってきた。正直エレノアを迎えに行く時は面倒だとしか思わなかったけれど、よく考えたら彼女程の人間が隣にいるってすごく面白いんじゃないだろうか。ニヤニヤと嗤う俺に、エレノアも悪辣な笑みを浮かべる。
「じゃあ、その猫かぶりもなしな」
「いいわよ。物凄く口も性格も悪いけど受け止めなさいよ」
「それは元々だーーいででで!!!!」
下で思いっきりヒールの踵で足を踏み躙られ、テーブルにつっ伏す。ベルの呆れたようなため息がテラスに響いた。
見上げると、愉悦極まった表情で俺を見下ろすエレノアと目が合う。うわ、やっぱすげえ綺麗な顔してんな。
「エレノアはそういう顔1番似合うな」
「どういう顔よ」
「悪女みたいなーーいっだだだ痛い痛い!」
「ほんっとに懲りないわねあんた」
だから患部を何度も攻撃するのはやめろ。何で見てもないのにしっかりと当ててくるんだ。無駄な所で戦闘センス見せてくんな。
「じゃ、また後で」
「えぇ、あんたが呼びに来なさいよ」
少しだけ休むというエレノアと別れ、ベルと共に歩く。暫く歩いて人気のなくなった所で、ベルが呆れたように口を開いた。
「悪手かと」
思わず顔を歪めてしまう。ーー知ってるさ。
項垂れ、しゃがみこむ俺の頭を慰めるようにベルが人撫でする。
「だよなぁ……本当に幸せになって欲しいなら、なんの情報も与えちゃだめだよなぁ」
彼女なら巻き込まれることなんて厭わないと何処かで分かっていた。それでいて派閥のことを説明したのは、俺が無意識に、心の何処かで「いつものエレノア」のままでいて欲しいと思っていたからだと思う。
結局彼女は「こちら側」に来ることを選んでしまったし、俺もそれを喜んでしまっている。だって、いつだって彼女と喋って喧嘩して取っ組み合っている時が一番自由で楽しかった。
彼女の目に幸せだけが映ったら、きっとそれは絵画のように美しいのだろうけれど、俺は汚泥の様な現実の中で、それでも高貴に君臨する彼女の方が美しいと思う。
「だってさぁ……何も知らないで幸せになって欲しいけど、そんなのエレノアじゃないじゃん。エレノアはもっとさ、完璧で厳しくてウザくてダルい奴なんだよ」
「……犬も食わないような話は聞きたくありませんわ」
「なんだよ殿下もベルも寄ってたかってさぁ……」
巻き込みたくないのは本当。だけど、渦中で高らかに嗤い、地獄の裁定を下す彼女を見ていたかったのも、本当だ。
自分のきたない欲望にガッカリしてしまう。こんなの俺の【領分】じゃない。
全てを分かっているのだろう。ベルが俺の目の前にしゃがみこむ。
「なら、あらゆる陰謀と欲望の中でもエレノア様が楽しめるようにすれば良いのでは?」
ーー確かに。
のろのろと顔を上げる俺をベルが見下ろす。
「聞けば良いのですわ。『どうすれば俺はエレノアを幸せに出来る?』と」
そして、彼女はにっこりと笑った。
こん、こん、とノックをする。
善は急げと部屋にやって来た俺に、扉を開けたエレノアは目を瞬かせた。とりあえず中に通してもらい、ソファに座る。机の上に置かれた本を見る限り、どうやら星の本を読んでいたらしい。
俺の視線を追ったエレノアは、恥ずかしそうに頬を染める。
「この国の象徴は知っておいた方がいいでしょ?」
「……」
「ーー?……さっきまでの元気はどこいったのよ」
「『どうすればエレノアを幸せに出来る?』」
ベルに教わった言葉を口にすると、何故か彼女はカチンと固まった。
「ーーーーは?」
「さっきさ、エレノアは『私の幸せをあんたが決めないで』って言ったけど、俺はお前は幸せになるべきだと思う。巻き込まないことが幸せにならないのなら、何をしたら幸せになれる?」
真っ直ぐにエレノアを見つめる。何故か氷のように固まってしまっているが、俺の気持ちは決して嘘じゃない。それを彼女にもわかって欲しい。
しかし、彼女は呆然としたままで、一向に返事を返そうとしない。
「ちょっと聞いてる?」
痺れを切らした俺がもう一度声を掛けると、彼女は漸く魔法が解けたかのようにソファにもたれかかった。……猫かぶりをやめろと言った瞬間作法までおざなりになりだしたぞ。いや、素を見せてくれてるみたいで嬉しいけれど。
おでこに片手を添えて熟考するエレノアは、何事かをブツブツと呟いている。そして彼女の中で考えが纏まったのか、キリッとした表情で俺を見つめかえしてきた。
「ーー大方あんたの事だから、天の王国のアッチ関係の言葉なんて知らないんでしょうね……」
「アッチ?」
「はぁ……まぁいいわ。
私の幸せはーーそうね、聖女の皮を被った悪魔を跪かせて高みから嘲笑ってやることかしら。あとはーー
そうね。ルーカス様にダンスを申し込まれて、それを大勢の前で断ってやりたいわね」
おおう、流石。ただでは転ばない。
でも、そういうことなら任せて欲しい。むしろ「ルーカス様ともう一度婚約者として」とか言われたらイラッとしてあのバカ王子をあの手この手で殺してしまいそうだ。要はあの二人への復讐ということだろう。
「よし、じゃあまずはエレノアの仕返しを目標にしよう」
「あら、嬉しいわ!あはは、楽しみ!」
にこにこと笑うエレノアに、俺も嬉しくなる。俺でもエレノアを幸せに出来そうだ。
しかし、機嫌が良くなった俺をみて、彼女は何故か顔を赤くした。そして何かを探すように目をきょろきょろとさせ、次いで本で顔を隠す。
首を傾げる俺に、エレノアは覚悟を決めたように本から顔を覗かせた。
「さっきの言葉だけど……」
「あぁ、それ。そういやアッチって何?」
「……天の王国ではね、婚姻関係にないけれど、お互い婚約者のいる男女が隠れて2人きりになる時に、男の方から誘いをかけるの」
「『どうすれば君を幸せに出来る』ーーってね」
「じゃ、また後で」
俺は迷わず部屋から逃げ出した。
首まで真っ赤になったオズワルドが出ていった窓を見つめ、エレノアはクスクスと笑う。大方ベルの差し金だろうけれど、飄々とした彼のあんな顔は初めて見た。
面白いからまだ教えてあげないわ。
その後女はね、こう答えるの。
『私、○○のダンスを断ってやりたいわ』
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