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久しぶりに見た彼女は
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ロイドと話をしてから2日後にグレースはまた、屋敷にやってきた。執事のライナーは私の言いつけ通りにグレースに声をかけ、屋敷の中に入れた。
応接室に案内させ、夫ロイドとカーマンベル伯爵にすぐに連絡をしたのだ。連絡を受けて、ほどなくロイドは帰ってきた。大人だけの話なので、子供達はメイドのマルサと執事のライナーが面倒を見てくれていた。
私が応接室に入るとそこには変わり果てたグレースの姿があった。
かつての華やかな容姿は健在ではあるものの、やつれて顔色も悪い、誰が見ても今の彼女は幸せな伯爵夫人ではなかったのだ。
前回はあの事故の時もグレースに会ったことはなかった。もしかしたら彼女もずっと後悔していたのかもしれない。でも、自分のやってしまったことには責任が伴う。それは貴族だからとか平民だからという問題ではない。後悔しているなら、何故、夫であるエッセン様にきちんと謝罪して、話し合いお互いに歩み寄ろうとはしないのか。
私だって、夫を失った時、エディが怪我をした時、全ての事に後悔した。だから神が与えてくれたやり直しの機会に感謝しているし、前みたいにならない様に努力している。
やっと今は幸せなのだと実感できている。そう思えるのはロイドの本心を聞けたからなのかもしれない。きっと、あのままエッセン様と結婚しても上手くいかなかった。ロイドだから、私達は幸せな結婚生活を送れているのだということも理解している。
ロイドからグレースが子供が出来ない理由を聞かされた時に同情はした。彼女の実父は賭博にお金を注ぎ込み、多額の借金を作った。母親には常に当たり散らし、グレースにも暴行を加えていたらしい。毎日の苦痛から逃れる為に私の家に遊びに来ていた。彼女は極度の栄養失調の所為で、大きく体を壊していた。そのせいで子どもは諦めた方がいいと言われたようだ。
あの頃、私が作ったお菓子を持って帰っていたのは、本当はお腹を空かせていた弟や妹に食べさせるためなんだという事も聞いている。彼女は容姿が整っている事を自覚し始めると、貢いでくれる人間に媚を売っていた。一見華やかに見えていた彼女の生活は本当はとても苦しいものだった。
誰にも言えない本当の自分を隠して虚勢を張って生きてきたのは理解できる。でも、あの時、グレースはロイドではなく、資産家のエッセン様を選んだ。彼のおかげで借金は返済できて、弟も妹も家庭を持ってた。なのに、どこまで彼女は自分を貶めて、幸せを掴もうとしないのか。私には分からなかった。
カーマンベル伯爵が到着するまでは、部屋の中は重苦しい長い沈黙が漂っていた。
屋敷に着いたエッセン・カーマンベル伯爵は開口一番に、グレースを詰り出したのだ。
「勝手な事をするなと言ったはずだ。しかもかつての婚約者に付きまとって、相手の迷惑も考えろ!いつまで私に迷惑を掛ければ気が済むんだ。さあ、帰るぞ!!」
俯いているグレースの腕を掴んで、立ち上がらせ、無理やり連れ帰ろうとした。ロイドが立ち上がってグレースを庇うようにエッセン様の手首を握った。
「待てよ。今来たばかりだろう。何か用があってきたのか聞きもしないで一方的な物言いはどうかと思うぞ。兎に角、座って話そう」
「そうです。久しぶりに会ったのですから、積もる話もあるでしょう」
私がそう言うと、渋々ながらエッセン様はグレースと一緒にソファーに座った。
深刻そうな顔をしたグレースが、
「もう、離縁してください。これ以上は耐えられません」
そう言って、肩を震わせながら泣いていた。私は初めて見る彼女の涙に驚いた。グレースはいつも笑顔を絶やさない華やかな女性で、昔は悩みなどないのかと疑問に思うほどだった。
でも、それは大人になった今なら分かる。彼女の武装手段の一つに過ぎない事を……。そうしないと彼女の心は折れていたのかもしれない。
今のグレースはそのくらい危うい状態だと思ってしまったのだ。
応接室に案内させ、夫ロイドとカーマンベル伯爵にすぐに連絡をしたのだ。連絡を受けて、ほどなくロイドは帰ってきた。大人だけの話なので、子供達はメイドのマルサと執事のライナーが面倒を見てくれていた。
私が応接室に入るとそこには変わり果てたグレースの姿があった。
かつての華やかな容姿は健在ではあるものの、やつれて顔色も悪い、誰が見ても今の彼女は幸せな伯爵夫人ではなかったのだ。
前回はあの事故の時もグレースに会ったことはなかった。もしかしたら彼女もずっと後悔していたのかもしれない。でも、自分のやってしまったことには責任が伴う。それは貴族だからとか平民だからという問題ではない。後悔しているなら、何故、夫であるエッセン様にきちんと謝罪して、話し合いお互いに歩み寄ろうとはしないのか。
私だって、夫を失った時、エディが怪我をした時、全ての事に後悔した。だから神が与えてくれたやり直しの機会に感謝しているし、前みたいにならない様に努力している。
やっと今は幸せなのだと実感できている。そう思えるのはロイドの本心を聞けたからなのかもしれない。きっと、あのままエッセン様と結婚しても上手くいかなかった。ロイドだから、私達は幸せな結婚生活を送れているのだということも理解している。
ロイドからグレースが子供が出来ない理由を聞かされた時に同情はした。彼女の実父は賭博にお金を注ぎ込み、多額の借金を作った。母親には常に当たり散らし、グレースにも暴行を加えていたらしい。毎日の苦痛から逃れる為に私の家に遊びに来ていた。彼女は極度の栄養失調の所為で、大きく体を壊していた。そのせいで子どもは諦めた方がいいと言われたようだ。
あの頃、私が作ったお菓子を持って帰っていたのは、本当はお腹を空かせていた弟や妹に食べさせるためなんだという事も聞いている。彼女は容姿が整っている事を自覚し始めると、貢いでくれる人間に媚を売っていた。一見華やかに見えていた彼女の生活は本当はとても苦しいものだった。
誰にも言えない本当の自分を隠して虚勢を張って生きてきたのは理解できる。でも、あの時、グレースはロイドではなく、資産家のエッセン様を選んだ。彼のおかげで借金は返済できて、弟も妹も家庭を持ってた。なのに、どこまで彼女は自分を貶めて、幸せを掴もうとしないのか。私には分からなかった。
カーマンベル伯爵が到着するまでは、部屋の中は重苦しい長い沈黙が漂っていた。
屋敷に着いたエッセン・カーマンベル伯爵は開口一番に、グレースを詰り出したのだ。
「勝手な事をするなと言ったはずだ。しかもかつての婚約者に付きまとって、相手の迷惑も考えろ!いつまで私に迷惑を掛ければ気が済むんだ。さあ、帰るぞ!!」
俯いているグレースの腕を掴んで、立ち上がらせ、無理やり連れ帰ろうとした。ロイドが立ち上がってグレースを庇うようにエッセン様の手首を握った。
「待てよ。今来たばかりだろう。何か用があってきたのか聞きもしないで一方的な物言いはどうかと思うぞ。兎に角、座って話そう」
「そうです。久しぶりに会ったのですから、積もる話もあるでしょう」
私がそう言うと、渋々ながらエッセン様はグレースと一緒にソファーに座った。
深刻そうな顔をしたグレースが、
「もう、離縁してください。これ以上は耐えられません」
そう言って、肩を震わせながら泣いていた。私は初めて見る彼女の涙に驚いた。グレースはいつも笑顔を絶やさない華やかな女性で、昔は悩みなどないのかと疑問に思うほどだった。
でも、それは大人になった今なら分かる。彼女の武装手段の一つに過ぎない事を……。そうしないと彼女の心は折れていたのかもしれない。
今のグレースはそのくらい危うい状態だと思ってしまったのだ。
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