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突撃、令嬢現る
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デビュタントの王族方への挨拶が終わり、今年デビューする令嬢・令息らがファーストダンスを披露した後、続いてアレクセイらも二人で踊った。
最早彼らの行動は伝説のようになっていて、噂が一人歩きを始めている状態。皆が思い思いに勝手にアレクセイとコーネリアの人物像を作り上げている。
特に社交界に復帰したばかりのコーネリアには嫌でも注目が集まる。そして、次のダンスの合間にコーネリアと挨拶周りを始めようとした時、ある貴族から声を掛けられた。
ウェイバー伯爵。ギャロット伯爵領の隣領の領主だった。
「ギャロット伯爵、是非うちの娘と一曲踊ってもらえないだろうか?」
ギラギラとした油の乗ったでっぷりとした体躯の男の横にはピンクブロンドの愛らしい顔立ちの少女が立っていた。
「あのう、今日がデビューなので是非お相手をして頂きたいのです。一生の思い出にしたいので」
「君のようなご令嬢なら大勢の若い紳士が誘いたいと待っているよ。残念ながら私は妻専用なので、他の女性の手を取ることはしたくないんだ。申し訳ないが他を当たってほしい」
アレクセイは本心で言っているのだが、この令嬢には通用しなかった。
「では、オルフェ侯爵令嬢。ギャロット伯爵をお借りしても宜しいですかな」
今度は父親がコーネリアに圧をかけ始めた。アレクセイはコーネリアの表情からさっき話していた令嬢が彼女だと認識した。
「すまないが、妻は久しぶりの社交界で少し疲れたようなので、これで失礼したい」
「そんな、一曲でいいのでお願いします。それに結婚は白紙に戻ったと聞きました。それなら…」
「確かに白紙に戻ったが、これを付けている意味がわかるかな?」
アレクセイはコーネリアと自分の手首にあるブレスレットを見せた。ギョッとなったのはウェイバー伯爵だった。
「わ…わかりました。今日の所はこれで」
娘の手を引いて立ち去ろうとしている伯爵とは逆に、令嬢の方は意地でもアレクセイと踊ろうと躍起になり出した。コーネリアはハラハラしながら見ている。
アレクセイは溜息を付くと、コーネリアが聞いた事のない声音で
「ウェイバー伯爵令嬢。君は私を何だと思っているんだ。これでも伯爵家の当主。君の父上と同格の爵位を持っている。妻のコーネリアは君より各上の侯爵家の令嬢だ。君の態度は社交界の掟を破っているとは思わないのか?伯爵は娘を甘やかしすぎている。なんでもかんでも自分の思い通りになるとは思わない事だ」
「そ…そんな、怖い顔は伯爵様らしくありません。私となら…」
「私らしくない?君は一体私の何を知っていると言うんだ!妻でさえ全てを知っている訳でもない。君の思い描いた人物は君の想像でしかない。私は君の人形ではない。勝手な想像で私を決めつけるのは止めてくれ」
「でも、オルフェ侯爵令嬢には優しいわ。皆が恋する「聖騎士様」でしょう」
「ウェイバー伯爵令嬢、君は私の事をどういう風に見ているんだ」
「どういう風にって、あ、妻一筋で他の誰にも見向きも……」
ウェイバー伯爵令嬢は、自分で言って気が付いた。そうアレクセイは妻一筋。だから他の誰もコーネリアの代わりにはなれない事に……。
言い終わらないうちに恥ずかしくなったのか、下を向いている。コーネリアが気まずくなった彼女に救いの手を差し伸べる。
「あちらのコーナーに甘いものがあるから、休憩がてらご一緒にいかが」
「そうだな。ダンスは出来ないが妻と一緒にお茶ぐらいなら付き合おう」
アレクセイも同意した。伯爵令嬢は二人と一緒に会場の飲食コーナーの横のテーブルでお茶を楽しんだ。
出席している大勢の貴族達はコーネリアの柔軟な対応を称賛し、新たに認識したのだ。
アレクセイ・ギャロット伯爵はコーネリア・オルフェ侯爵令嬢を溺愛している。彼女以外の女性の手を取ることは決してないだろう。
次の日からコーネリアの元には多くのお茶会や夜会の招待状が来ることになる。
その半年後、やっと後任の親衛隊隊長が決まり、アレクセイは無事騎士団を退職した。
晴れやかな秋空の元、一組のカップルが小さな教会でささやかな式を挙げている。そこには親しい友人と親族だけの慎ましいものだが、花嫁の衣装だけは末代まで語り継がれそうなほど豪華な物だった。
アレクセイとコーネリアは無事結婚することが出来た。伯爵領で式を挙げることになったのは、王都では大変な騒ぎとなる為、敢えて親族らだけの式にしたのだ。
アレクセイも二度とあの様な事件に巻き込まれて、結婚生活を台無しにされるのは御免だったからだ。新婚旅行は隣国のアクアローズ公国に行く予定で、コーネリアは今から初の外国に心浮き立たせている。
誓いの口付けは周囲が目を逸らす程、長く甘いものだった。
アレクセイは、やっと元お飾り妻を手に入れ、今から溺愛していくのだが、それはまた別のお話だ。
-完ー
最早彼らの行動は伝説のようになっていて、噂が一人歩きを始めている状態。皆が思い思いに勝手にアレクセイとコーネリアの人物像を作り上げている。
特に社交界に復帰したばかりのコーネリアには嫌でも注目が集まる。そして、次のダンスの合間にコーネリアと挨拶周りを始めようとした時、ある貴族から声を掛けられた。
ウェイバー伯爵。ギャロット伯爵領の隣領の領主だった。
「ギャロット伯爵、是非うちの娘と一曲踊ってもらえないだろうか?」
ギラギラとした油の乗ったでっぷりとした体躯の男の横にはピンクブロンドの愛らしい顔立ちの少女が立っていた。
「あのう、今日がデビューなので是非お相手をして頂きたいのです。一生の思い出にしたいので」
「君のようなご令嬢なら大勢の若い紳士が誘いたいと待っているよ。残念ながら私は妻専用なので、他の女性の手を取ることはしたくないんだ。申し訳ないが他を当たってほしい」
アレクセイは本心で言っているのだが、この令嬢には通用しなかった。
「では、オルフェ侯爵令嬢。ギャロット伯爵をお借りしても宜しいですかな」
今度は父親がコーネリアに圧をかけ始めた。アレクセイはコーネリアの表情からさっき話していた令嬢が彼女だと認識した。
「すまないが、妻は久しぶりの社交界で少し疲れたようなので、これで失礼したい」
「そんな、一曲でいいのでお願いします。それに結婚は白紙に戻ったと聞きました。それなら…」
「確かに白紙に戻ったが、これを付けている意味がわかるかな?」
アレクセイはコーネリアと自分の手首にあるブレスレットを見せた。ギョッとなったのはウェイバー伯爵だった。
「わ…わかりました。今日の所はこれで」
娘の手を引いて立ち去ろうとしている伯爵とは逆に、令嬢の方は意地でもアレクセイと踊ろうと躍起になり出した。コーネリアはハラハラしながら見ている。
アレクセイは溜息を付くと、コーネリアが聞いた事のない声音で
「ウェイバー伯爵令嬢。君は私を何だと思っているんだ。これでも伯爵家の当主。君の父上と同格の爵位を持っている。妻のコーネリアは君より各上の侯爵家の令嬢だ。君の態度は社交界の掟を破っているとは思わないのか?伯爵は娘を甘やかしすぎている。なんでもかんでも自分の思い通りになるとは思わない事だ」
「そ…そんな、怖い顔は伯爵様らしくありません。私となら…」
「私らしくない?君は一体私の何を知っていると言うんだ!妻でさえ全てを知っている訳でもない。君の思い描いた人物は君の想像でしかない。私は君の人形ではない。勝手な想像で私を決めつけるのは止めてくれ」
「でも、オルフェ侯爵令嬢には優しいわ。皆が恋する「聖騎士様」でしょう」
「ウェイバー伯爵令嬢、君は私の事をどういう風に見ているんだ」
「どういう風にって、あ、妻一筋で他の誰にも見向きも……」
ウェイバー伯爵令嬢は、自分で言って気が付いた。そうアレクセイは妻一筋。だから他の誰もコーネリアの代わりにはなれない事に……。
言い終わらないうちに恥ずかしくなったのか、下を向いている。コーネリアが気まずくなった彼女に救いの手を差し伸べる。
「あちらのコーナーに甘いものがあるから、休憩がてらご一緒にいかが」
「そうだな。ダンスは出来ないが妻と一緒にお茶ぐらいなら付き合おう」
アレクセイも同意した。伯爵令嬢は二人と一緒に会場の飲食コーナーの横のテーブルでお茶を楽しんだ。
出席している大勢の貴族達はコーネリアの柔軟な対応を称賛し、新たに認識したのだ。
アレクセイ・ギャロット伯爵はコーネリア・オルフェ侯爵令嬢を溺愛している。彼女以外の女性の手を取ることは決してないだろう。
次の日からコーネリアの元には多くのお茶会や夜会の招待状が来ることになる。
その半年後、やっと後任の親衛隊隊長が決まり、アレクセイは無事騎士団を退職した。
晴れやかな秋空の元、一組のカップルが小さな教会でささやかな式を挙げている。そこには親しい友人と親族だけの慎ましいものだが、花嫁の衣装だけは末代まで語り継がれそうなほど豪華な物だった。
アレクセイとコーネリアは無事結婚することが出来た。伯爵領で式を挙げることになったのは、王都では大変な騒ぎとなる為、敢えて親族らだけの式にしたのだ。
アレクセイも二度とあの様な事件に巻き込まれて、結婚生活を台無しにされるのは御免だったからだ。新婚旅行は隣国のアクアローズ公国に行く予定で、コーネリアは今から初の外国に心浮き立たせている。
誓いの口付けは周囲が目を逸らす程、長く甘いものだった。
アレクセイは、やっと元お飾り妻を手に入れ、今から溺愛していくのだが、それはまた別のお話だ。
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