【完結】旦那様は元お飾り妻を溺愛したい

春野オカリナ

文字の大きさ
30 / 31

突撃、令嬢現る

しおりを挟む
 デビュタントの王族方への挨拶が終わり、今年デビューする令嬢・令息らがファーストダンスを披露した後、続いてアレクセイらも二人で踊った。

 最早彼らの行動は伝説のようになっていて、噂が一人歩きを始めている状態。皆が思い思いに勝手にアレクセイとコーネリアの人物像を作り上げている。

 特に社交界に復帰したばかりのコーネリアには嫌でも注目が集まる。そして、次のダンスの合間にコーネリアと挨拶周りを始めようとした時、ある貴族から声を掛けられた。

 ウェイバー伯爵。ギャロット伯爵領の隣領の領主だった。

 「ギャロット伯爵、是非うちの娘と一曲踊ってもらえないだろうか?」

 ギラギラとした油の乗ったでっぷりとした体躯の男の横にはピンクブロンドの愛らしい顔立ちの少女が立っていた。

 「あのう、今日がデビューなので是非お相手をして頂きたいのです。一生の思い出にしたいので」

 「君のようなご令嬢なら大勢の若い紳士が誘いたいと待っているよ。残念ながら私は妻専用なので、他の女性の手を取ることはしたくないんだ。申し訳ないが他を当たってほしい」

 アレクセイは本心で言っているのだが、この令嬢には通用しなかった。

 「では、オルフェ侯爵令嬢。ギャロット伯爵をお借りしても宜しいですかな」

 今度は父親がコーネリアに圧をかけ始めた。アレクセイはコーネリアの表情からさっき話していた令嬢が彼女だと認識した。

 「すまないが、妻は久しぶりの社交界で少し疲れたようなので、これで失礼したい」

 「そんな、一曲でいいのでお願いします。それに結婚は白紙に戻ったと聞きました。それなら…」

 「確かに白紙に戻ったが、これを付けている意味がわかるかな?」

 アレクセイはコーネリアと自分の手首にあるブレスレットを見せた。ギョッとなったのはウェイバー伯爵だった。

 「わ…わかりました。今日の所はこれで」

 娘の手を引いて立ち去ろうとしている伯爵とは逆に、令嬢の方は意地でもアレクセイと踊ろうと躍起になり出した。コーネリアはハラハラしながら見ている。

 アレクセイは溜息を付くと、コーネリアが聞いた事のない声音で

 「ウェイバー伯爵令嬢。君は私を何だと思っているんだ。これでも伯爵家の当主。君の父上と同格の爵位を持っている。妻のコーネリアは君より各上の侯爵家の令嬢だ。君の態度は社交界のルールを破っているとは思わないのか?伯爵は娘を甘やかしすぎている。なんでもかんでも自分の思い通りになるとは思わない事だ」

 「そ…そんな、怖い顔は伯爵様らしくありません。私となら…」

 「私らしくない?君は一体私の何を知っていると言うんだ!妻でさえ全てを知っている訳でもない。君の思い描いた人物は君の想像でしかない。私は君の人形ではない。勝手な想像で私を決めつけるのは止めてくれ」

 「でも、オルフェ侯爵令嬢には優しいわ。皆が恋する「聖騎士様」でしょう」

 「ウェイバー伯爵令嬢、君は私の事をどういう風に見ているんだ」

 「どういう風にって、あ、妻一筋で他の誰にも見向きも……」

 ウェイバー伯爵令嬢は、自分で言って気が付いた。そうアレクセイは妻一筋。だから他の誰もコーネリアの代わりにはなれない事に……。

 言い終わらないうちに恥ずかしくなったのか、下を向いている。コーネリアが気まずくなった彼女に救いの手を差し伸べる。

 「あちらのコーナーに甘いものがあるから、休憩がてらご一緒にいかが」

 「そうだな。ダンスは出来ないが妻と一緒にお茶ぐらいなら付き合おう」

 アレクセイも同意した。伯爵令嬢は二人と一緒に会場の飲食コーナーの横のテーブルでお茶を楽しんだ。

 出席している大勢の貴族達はコーネリアの柔軟な対応を称賛し、新たに認識したのだ。

  アレクセイ・ギャロット伯爵はコーネリア・オルフェ侯爵令嬢を溺愛している。彼女以外の女性の手を取ることは決してないだろう。

 次の日からコーネリアの元には多くのお茶会や夜会の招待状が来ることになる。

 その半年後、やっと後任の親衛隊隊長が決まり、アレクセイは無事騎士団を退職した。


 

 晴れやかな秋空の元、一組のカップルが小さな教会でささやかな式を挙げている。そこには親しい友人と親族だけの慎ましいものだが、花嫁の衣装だけは末代まで語り継がれそうなほど豪華な物だった。

 アレクセイとコーネリアは無事結婚することが出来た。伯爵領で式を挙げることになったのは、王都では大変な騒ぎとなる為、敢えて親族らだけの式にしたのだ。

 アレクセイも二度とあの様な事件に巻き込まれて、結婚生活を台無しにされるのは御免だったからだ。新婚旅行は隣国のアクアローズ公国に行く予定で、コーネリアは今から初の外国に心浮き立たせている。

 誓いの口付けは周囲が目を逸らす程、長く甘いものだった。

 アレクセイは、やっと元お飾り妻を手に入れ、今から溺愛していくのだが、それはまた別のお話だ。



  -完ー


 
 
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。 何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?

[完結]離婚したいって泣くくらいなら、結婚する前に言ってくれ!

h.h
恋愛
「離婚させてくれぇ」「泣くな!」結婚してすぐにビルドは「離婚して」とフィーナに泣きついてきた。2人が生まれる前の母親同士の約束により結婚したけれど、好きな人ができたから別れたいって、それなら結婚する前に言え! あまりに情けなく自分勝手なビルドの姿に、とうとう堪忍袋の尾が切れた。「慰謝料を要求します」「それは困る!」「困るじゃねー!」

処理中です...