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11.運命の糸車⑤
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王城に着くと侍従の案内で、王の執務室に案内された。
「よくきたな、待っていたぞ!ゲイル」
部屋に入ると先に声を掛けたのは国王エドウィンだった。
部屋には嫌そうに王妃に連れられてクロイツェルもその場に居合わせた。
王妃に突かれる様に嫌々レスティーナの方に向き直り、張り付けた様な笑みを見せた。顔が若干引き攣って見えたのはゲイルの偏った目の所為ではないだろう。
隣にいるレスティーナは最初は嬉しそうな表情を見せたが、その後すぐに顔を曇らせ俯いた。
驚いた事に国王夫妻に挨拶をし、次にクロイツェルと挨拶をした途端、口を開いたのはレスティーナだった。
「国王陛下にお願いがございます」
「なんだ?」
初めてこの国の王を間近で見たレスティーナの手は震えながらドレスの裾を固く握っていた。しかし、何かを決心したかのようにレスティーナはその赤い瞳を大きく明け、国王の方を見ながら懇願したのだ。
「第二王子クロイツェル殿下との婚約は発表しないで下さい。猶予期間が欲しいのです。そして、殿下に他に気になる方がおいでなら、婚約を解消してください」
はっきりとした口調で、何かを決意した表情を見せ、レスティーナはクロイツェルとの婚約を躊躇っている事を国王夫妻に告げたのだ。
勿論、その場にいたクロイツェルが目をこれ以上ない程大きく開けていた事をレスティーナは知らない。
王妃グレイシスは、顔を青ざめさせ何か言おうとしているが声が出ない様であった。10才の幼い令嬢からこのような申し出をされるとは誰もが思いもしなかった事だった。
クロイツェルに至っては、自分が王子という身分上、大切にされる事はあっても、拒絶されるという初めての経験に驚き戸惑っていた。
しかし、ここではっきり言うほどレスティーナの心に数日前のクロイツェルの態度や向けられた眼差しが怖かった。
それはかつて、アマンダにされたレスティーナの経験からなのだが……。
マリアンヌが生まれるまでは、確かにアマンダは優しかった。それが例え人形遊びの延長のような関係でもレスティーナにとっては数少ない母親との思い出だった。
だからこそ、心の何処かでアマンダを慕って、その愛情を求めてしまっている。イレーネやソニアから与えられていた愛情よりも母親であるアマンダに認めてもらいたいそんな思いで『ローズ・ザ・エデン』での勉強を熟していた。
しかし、どんなにレスティーナが努力してもアマンダの愛情はマリアンヌだけにしか注がれない。
カインデルの様に割り切れないレスティーナは、これ以上心を傷付けられるのを拒んだのだ。
あの日、理由を聞かずにマリアンヌの元に寄り添ったクロイツェル……。
──きっと殿下も変わられる…今はまだ二人とも子供だが、大人になれば母の様にマリアンヌを好きになるかもしれない。だって今もとても嫌そうなお顔を見せたわ。私の事が嫌いになったに違いない……。
レスティーナは心の何処かで、クロイツェルを諦めようとしていた。
だが、肝心のクロイツェルは、初めての拒否に戸惑いながら、
「婚約は解消しない。自分で選んだ人だ。真偽を見極める為にも続行する」
そう断言してきた。
そこで王妃グレイシスはある提案をした。
「まだ、出会ってそんなに経っていないのだから、お互いを知る為と妃教育のこともあるし、このままレスティーナ嬢を私に預けて貰えないかしら」
王妃の発言に意外なことにエドウィンも賛成した。
「そうだな。余もその方がいいと考える。この問題は早急に答えを出すものではないし、一緒に暮らせば相手の良い所も悪い所も見えてくる。今見えている事が全てではないのだからな。それから考えてもよかろう」
「し…しかし、陛下……」
ゲイルからすれば愛する愛娘レスティーナを取り上げられる事は辛くて悲しい。確かに会えない訳ではないが、それでも仕事で疲れて屋敷に帰った時、レスティーナの「お父様、おかえりなさいませ」と言って笑顔で出迎えてくれる時の癒しや朝夕の挨拶。
毎日、家令にレスティーナ情報を聞く楽しみが無くなってしまう。
そんなゲイルの思考を呼んだようにエドウィンが、
「それほど心配なら、毎日レスティーナと過ごせばよかろう……この親馬鹿が」
最後の言葉は小声でゲイル以外は聞き取れなかったが、明らかに王妃グレイシスは何かを察していた。
グレイシスとアマンダは従姉妹同士で、アマンダの性格をよく知っているグレイシスは、屋敷に残しておくとアマンダによって性格をな路曲げられるかもしれないと考えたからなのだ。
しかも、今はカインデルがいない……。
今の状況ではこれが最善だと考えていた。
だが、それが愚策であった事は、一週間後に思い知らされる事になる。
それは、マリアンヌが父ゲイルと姉に会うと言う大義名分で、王城に意味もなく通い始める事になるからだ。
そして、公爵家だけならまだ良かったが、王城には貴族や官吏・武官なども大勢出入りしている。そんな彼らが婚約者ではない別の女性を常に傍に置く第二王子クロイツェルの姿を目撃する事にもなったのだ。
噂は時に真実よりも真実味を帯びて広がるもの──。
──第二王子クロイツェル殿下は、婚約者の妹、マリアンヌ嬢を溺愛している……。
そう囁かれる様になるのは、この話し合いの一月後の事だった。
「よくきたな、待っていたぞ!ゲイル」
部屋に入ると先に声を掛けたのは国王エドウィンだった。
部屋には嫌そうに王妃に連れられてクロイツェルもその場に居合わせた。
王妃に突かれる様に嫌々レスティーナの方に向き直り、張り付けた様な笑みを見せた。顔が若干引き攣って見えたのはゲイルの偏った目の所為ではないだろう。
隣にいるレスティーナは最初は嬉しそうな表情を見せたが、その後すぐに顔を曇らせ俯いた。
驚いた事に国王夫妻に挨拶をし、次にクロイツェルと挨拶をした途端、口を開いたのはレスティーナだった。
「国王陛下にお願いがございます」
「なんだ?」
初めてこの国の王を間近で見たレスティーナの手は震えながらドレスの裾を固く握っていた。しかし、何かを決心したかのようにレスティーナはその赤い瞳を大きく明け、国王の方を見ながら懇願したのだ。
「第二王子クロイツェル殿下との婚約は発表しないで下さい。猶予期間が欲しいのです。そして、殿下に他に気になる方がおいでなら、婚約を解消してください」
はっきりとした口調で、何かを決意した表情を見せ、レスティーナはクロイツェルとの婚約を躊躇っている事を国王夫妻に告げたのだ。
勿論、その場にいたクロイツェルが目をこれ以上ない程大きく開けていた事をレスティーナは知らない。
王妃グレイシスは、顔を青ざめさせ何か言おうとしているが声が出ない様であった。10才の幼い令嬢からこのような申し出をされるとは誰もが思いもしなかった事だった。
クロイツェルに至っては、自分が王子という身分上、大切にされる事はあっても、拒絶されるという初めての経験に驚き戸惑っていた。
しかし、ここではっきり言うほどレスティーナの心に数日前のクロイツェルの態度や向けられた眼差しが怖かった。
それはかつて、アマンダにされたレスティーナの経験からなのだが……。
マリアンヌが生まれるまでは、確かにアマンダは優しかった。それが例え人形遊びの延長のような関係でもレスティーナにとっては数少ない母親との思い出だった。
だからこそ、心の何処かでアマンダを慕って、その愛情を求めてしまっている。イレーネやソニアから与えられていた愛情よりも母親であるアマンダに認めてもらいたいそんな思いで『ローズ・ザ・エデン』での勉強を熟していた。
しかし、どんなにレスティーナが努力してもアマンダの愛情はマリアンヌだけにしか注がれない。
カインデルの様に割り切れないレスティーナは、これ以上心を傷付けられるのを拒んだのだ。
あの日、理由を聞かずにマリアンヌの元に寄り添ったクロイツェル……。
──きっと殿下も変わられる…今はまだ二人とも子供だが、大人になれば母の様にマリアンヌを好きになるかもしれない。だって今もとても嫌そうなお顔を見せたわ。私の事が嫌いになったに違いない……。
レスティーナは心の何処かで、クロイツェルを諦めようとしていた。
だが、肝心のクロイツェルは、初めての拒否に戸惑いながら、
「婚約は解消しない。自分で選んだ人だ。真偽を見極める為にも続行する」
そう断言してきた。
そこで王妃グレイシスはある提案をした。
「まだ、出会ってそんなに経っていないのだから、お互いを知る為と妃教育のこともあるし、このままレスティーナ嬢を私に預けて貰えないかしら」
王妃の発言に意外なことにエドウィンも賛成した。
「そうだな。余もその方がいいと考える。この問題は早急に答えを出すものではないし、一緒に暮らせば相手の良い所も悪い所も見えてくる。今見えている事が全てではないのだからな。それから考えてもよかろう」
「し…しかし、陛下……」
ゲイルからすれば愛する愛娘レスティーナを取り上げられる事は辛くて悲しい。確かに会えない訳ではないが、それでも仕事で疲れて屋敷に帰った時、レスティーナの「お父様、おかえりなさいませ」と言って笑顔で出迎えてくれる時の癒しや朝夕の挨拶。
毎日、家令にレスティーナ情報を聞く楽しみが無くなってしまう。
そんなゲイルの思考を呼んだようにエドウィンが、
「それほど心配なら、毎日レスティーナと過ごせばよかろう……この親馬鹿が」
最後の言葉は小声でゲイル以外は聞き取れなかったが、明らかに王妃グレイシスは何かを察していた。
グレイシスとアマンダは従姉妹同士で、アマンダの性格をよく知っているグレイシスは、屋敷に残しておくとアマンダによって性格をな路曲げられるかもしれないと考えたからなのだ。
しかも、今はカインデルがいない……。
今の状況ではこれが最善だと考えていた。
だが、それが愚策であった事は、一週間後に思い知らされる事になる。
それは、マリアンヌが父ゲイルと姉に会うと言う大義名分で、王城に意味もなく通い始める事になるからだ。
そして、公爵家だけならまだ良かったが、王城には貴族や官吏・武官なども大勢出入りしている。そんな彼らが婚約者ではない別の女性を常に傍に置く第二王子クロイツェルの姿を目撃する事にもなったのだ。
噂は時に真実よりも真実味を帯びて広がるもの──。
──第二王子クロイツェル殿下は、婚約者の妹、マリアンヌ嬢を溺愛している……。
そう囁かれる様になるのは、この話し合いの一月後の事だった。
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