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30.ゲイルの決意
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馬車が公爵邸に着いた時には、陽が傾きかけていた。
「着いたよ」
カインデルの優しい声で目を覚ましたレスティーナはまだ眠いのか瞼を手でこすっている。
屋敷に着くとカインデルは別棟にレスティーナを連れて行こうとしたが、本館前で家令のテレンスに呼び止められた。
「奥さまがお呼びです…」
テレンスの様子から碌でもないことだとは想像できたが、仮にも公爵夫人が呼んでいるのだ、無視するわけにもいかずテレンスの後をついて行った。
カインデルが想像した通り、アマンダは顔を真っ赤にして怒りを顕にしていた。
その矛先は言わずと知れたレスティーナに向けられたのだ。
「レスティーナ!どうして母の言いつけを破って祭りに参加していたのです。豊穣祭では神殿に籠って祈りを捧げることが貴女の務めだと言ったでしょう」
「そ…そんなことは神官様たちも言っていませんでした。それはお母様が勝手に決めた取り決めなのでしょう?友人たちも聞いたことがないって…」
その言葉に逆上したアマンダは、
「貴女って子は、母の私の言葉より他人の言葉を信じるの?マリアンヌは素直ないい子なのに貴女ときたらなんて意地の悪い娘なのかしら」
「義母上、誰に聞いても貴女の方が間違っている。それにマリアンヌはいい子ではありませんよ。いい子なら勉強をさぼって、祭りに参加したり、他の者宛ての手紙を盗み見たりしないでしょう」
カインデルに図星を付かれてカッなったアマンダは、手を頭の上まで上げ、レスティーナの頬に向かって振り下ろした。
さっとカインデルはレスティーナの前に出る。しかし、その手が振り下ろされることはなかった。
「何をしている!!アマンダ!これがどういう状況か説明しなさい」
振り下ろそうとしたアマンダの手首を、帰宅したゲイルが掴んだからだ。
静かな口調でアマンダを制止しているゲイルだが、その眼には怒りの色が見て取れた。
「あ…あなた…これは…」
言い淀み、目を右往左往に彷徨わせている。
何とか言い逃れようとアマンダは思考を巡らせていた。
そんなアマンダを他所にゲイルはレスティーナとカインデルに声をかけた。
「大丈夫かい?今日暴走馬に出くわしたと聞いて、慌てて帰ってきたのだが、帰ってみればこの騒ぎだ。二人とも怪我はしていないか」
いつもと変わらレスティーナらに向けられる声は穏やかで慈愛に満ちていた。
「アマンダ…?君は母親失格だな。どうして帰ってきた子供達に無事かどうかを確認もせずに怒鳴るという行為が出来るんだ?君は私に約束しただろう。子供達の母親になると…。だが、今までの事を考えても君は私との約束を守ってはいない。これ以上、この子たちを君には預けておけない。君とは離縁する」
「待って…ゲイル……。態とじゃあないわ。つい感情が高ぶって…」
「君は感情が高ぶるとまだ未成年の子供に手を挙げるというのか?それが君の言うところの躾けなのか。なら自分の娘には同じ扱いをしないのはどういう事なんだ」
「私の娘…。何を言っているの。私達の娘でしょう」
「私達の娘…か。ははっ笑えるな。私には血の繋がった子供等いはしないよ。そんな事は誰よりも君が知っているはずだ。そんな私の結婚相手は君しかいなかった。ただそれだけだ。君が私の周りに群がる令嬢達を排除したからね」
「排除だなんて…」
「ああ、貶めたんだったよね。私との結婚も君の妄想癖のおかげで実ったんだよね。私が君に求婚したと言いふらし、次々と縁談を壊したのだから…」
「そ…そんなことはしていないわ」
「もうそんなことはどうでもいい。もうじき君のご両親が君とマリアンヌを迎えに来る。荷物を持って一緒に行くがいい。誰か奥方様への最後の奉しだ。荷造りを手伝ってやりなさい」
ゲイルは恐ろしい程、冷たい目でアマンダを見ていた。
未だかつてそんな目で夫に見られたことのないアマンダは困惑した表情で放心状態になっていたが、ゲイルがカインデルとレスティーナを連れて、別棟に歩きだした途端、金切り声をあげて何度も「ゲイル愛しているのよ。私は貴方と別れないわ。絶対に離れないわよ!」としきりに譫言の様に叫んでいた。
ゲイルは一度も後ろを振り向くことなく、別棟に向かった。
「よろしいのですか?」
カインデルは今までとは違うゲイルの態度に違和感を覚えた。
「本当は、もう少したってからきちんと話すつもりだったが、これ以上、お前達にアマンダを関わらせたくないんだよ」
そう呟いたゲイルは何処か寂しげな表情を浮かべていたのだ。
数刻後、陽が沈みきった頃にアマンダの両親がアマンダとマリアンヌを迎えに来たのだった。
最後まで離縁状にサインを拒否していたアマンダもマリアンヌが修道院に行かされるかもしれないと言われ、渋々自身でサインしたのだ。
二人は迎えに来た伯爵家の馬車で、公爵家から出て行った。
その際、何度も伯爵夫妻はゲイルに頭を下げた。ゲイルは離縁した後は連絡無用と関わりを断固拒否したのだ。
レスティーナはマリアンヌまで切り捨てたゲイルが、自分を愛してくれる優しい父親と同一人物なのかと疑った。
ゲイルはその次の日、レスティーナとカインデルに、二人の出自について話したのだ。
「着いたよ」
カインデルの優しい声で目を覚ましたレスティーナはまだ眠いのか瞼を手でこすっている。
屋敷に着くとカインデルは別棟にレスティーナを連れて行こうとしたが、本館前で家令のテレンスに呼び止められた。
「奥さまがお呼びです…」
テレンスの様子から碌でもないことだとは想像できたが、仮にも公爵夫人が呼んでいるのだ、無視するわけにもいかずテレンスの後をついて行った。
カインデルが想像した通り、アマンダは顔を真っ赤にして怒りを顕にしていた。
その矛先は言わずと知れたレスティーナに向けられたのだ。
「レスティーナ!どうして母の言いつけを破って祭りに参加していたのです。豊穣祭では神殿に籠って祈りを捧げることが貴女の務めだと言ったでしょう」
「そ…そんなことは神官様たちも言っていませんでした。それはお母様が勝手に決めた取り決めなのでしょう?友人たちも聞いたことがないって…」
その言葉に逆上したアマンダは、
「貴女って子は、母の私の言葉より他人の言葉を信じるの?マリアンヌは素直ないい子なのに貴女ときたらなんて意地の悪い娘なのかしら」
「義母上、誰に聞いても貴女の方が間違っている。それにマリアンヌはいい子ではありませんよ。いい子なら勉強をさぼって、祭りに参加したり、他の者宛ての手紙を盗み見たりしないでしょう」
カインデルに図星を付かれてカッなったアマンダは、手を頭の上まで上げ、レスティーナの頬に向かって振り下ろした。
さっとカインデルはレスティーナの前に出る。しかし、その手が振り下ろされることはなかった。
「何をしている!!アマンダ!これがどういう状況か説明しなさい」
振り下ろそうとしたアマンダの手首を、帰宅したゲイルが掴んだからだ。
静かな口調でアマンダを制止しているゲイルだが、その眼には怒りの色が見て取れた。
「あ…あなた…これは…」
言い淀み、目を右往左往に彷徨わせている。
何とか言い逃れようとアマンダは思考を巡らせていた。
そんなアマンダを他所にゲイルはレスティーナとカインデルに声をかけた。
「大丈夫かい?今日暴走馬に出くわしたと聞いて、慌てて帰ってきたのだが、帰ってみればこの騒ぎだ。二人とも怪我はしていないか」
いつもと変わらレスティーナらに向けられる声は穏やかで慈愛に満ちていた。
「アマンダ…?君は母親失格だな。どうして帰ってきた子供達に無事かどうかを確認もせずに怒鳴るという行為が出来るんだ?君は私に約束しただろう。子供達の母親になると…。だが、今までの事を考えても君は私との約束を守ってはいない。これ以上、この子たちを君には預けておけない。君とは離縁する」
「待って…ゲイル……。態とじゃあないわ。つい感情が高ぶって…」
「君は感情が高ぶるとまだ未成年の子供に手を挙げるというのか?それが君の言うところの躾けなのか。なら自分の娘には同じ扱いをしないのはどういう事なんだ」
「私の娘…。何を言っているの。私達の娘でしょう」
「私達の娘…か。ははっ笑えるな。私には血の繋がった子供等いはしないよ。そんな事は誰よりも君が知っているはずだ。そんな私の結婚相手は君しかいなかった。ただそれだけだ。君が私の周りに群がる令嬢達を排除したからね」
「排除だなんて…」
「ああ、貶めたんだったよね。私との結婚も君の妄想癖のおかげで実ったんだよね。私が君に求婚したと言いふらし、次々と縁談を壊したのだから…」
「そ…そんなことはしていないわ」
「もうそんなことはどうでもいい。もうじき君のご両親が君とマリアンヌを迎えに来る。荷物を持って一緒に行くがいい。誰か奥方様への最後の奉しだ。荷造りを手伝ってやりなさい」
ゲイルは恐ろしい程、冷たい目でアマンダを見ていた。
未だかつてそんな目で夫に見られたことのないアマンダは困惑した表情で放心状態になっていたが、ゲイルがカインデルとレスティーナを連れて、別棟に歩きだした途端、金切り声をあげて何度も「ゲイル愛しているのよ。私は貴方と別れないわ。絶対に離れないわよ!」としきりに譫言の様に叫んでいた。
ゲイルは一度も後ろを振り向くことなく、別棟に向かった。
「よろしいのですか?」
カインデルは今までとは違うゲイルの態度に違和感を覚えた。
「本当は、もう少したってからきちんと話すつもりだったが、これ以上、お前達にアマンダを関わらせたくないんだよ」
そう呟いたゲイルは何処か寂しげな表情を浮かべていたのだ。
数刻後、陽が沈みきった頃にアマンダの両親がアマンダとマリアンヌを迎えに来たのだった。
最後まで離縁状にサインを拒否していたアマンダもマリアンヌが修道院に行かされるかもしれないと言われ、渋々自身でサインしたのだ。
二人は迎えに来た伯爵家の馬車で、公爵家から出て行った。
その際、何度も伯爵夫妻はゲイルに頭を下げた。ゲイルは離縁した後は連絡無用と関わりを断固拒否したのだ。
レスティーナはマリアンヌまで切り捨てたゲイルが、自分を愛してくれる優しい父親と同一人物なのかと疑った。
ゲイルはその次の日、レスティーナとカインデルに、二人の出自について話したのだ。
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