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42.地下
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地下に向かう階段をレスティーナ達は、ランタンの灯りを頼りに大神官らと降りて行った。
仄かな灯りが薄暗い地下の階段の足元を照らす。
空気が淀んで黴臭い独特な臭いが微かにしている。レスティーナは思わず鼻にハンカチを当てた。
見渡す限り闇が広がる空間にコツコツと靴の音だけが響いている。思わずレスティーナはその小さな手でカインデルの上着を掴んでいた。
──怖い…。
言い知れぬ恐怖に打ち勝とうとレスティーナは何度も大きく息を吸い込んだ。
レスティーナの不安を取り除こうとカインデルは、掴んでいる手を自分の手で握った。
その手は『大丈夫だよ』という様に優しい温もりを感じさせている。
──ああ…いつもそう。カインデルお兄様はずっと変わらず私を気遣ってくれる大切な人…。
どうして忘れてしまっていたのだろう。いつも私の心の中にはクロイツェル殿下がいた。もっと身近に私を見守っていてくれている人がいたというのに…。
カインデルの手を握りしめながら、レスティーナは心が温かくなるのを感じていた。同時に、微かな不安よぎった。
また、私は死ぬのだろうか?
その不安を打ち消す様に、レスティーナは地下への階段を一歩一歩降りて行く。
誰一人口を開くことなく、まるで、深淵の闇の中を手探りで突き進むかのように…。ただただ…降りて行った。
暫くすると、小さな光が見えてきて地下の扉の前に着いたようだった。
扉は、王宮にある女神像の部屋と似ているとカインデルは思った。
中に入り、蝋燭に明かりを灯すとそこにあったのは書物ではなく、木版に半球が填め込まれ、その周りには神語が描かれていた。
「これが禁書……?」
疑うつもりはないが、カインデル達の想像とは大きくかけ離れている。
「そう…これが禁書です」
「どうやって……」
「どうやって読むのかという事ですか?」
「…はい」
「それは、半球に手を翳してみれば分かります」
レスティーナはカインデルの方をちらりと見た。カインデルもレスティーナの方を見ながら大きく頷いた。
二人はお互いの目線を半球体に戻して、手を翳してみる。
周りに刻まれている神聖語が反応して、眩い光が二人を包み込む様に呑み込んだ。
レスティーナが目を開けるとそこはモノクロの様な風景が広がっていた。
現実ではないその世界にレスティーナとカインデルは立っている。
足元がふわふわとして覚束ない。隣に立つカインデルの手を握ろうとしてもその手はすり抜けていった。
実体のない二人の身体はすりガラスの様に所々透けて見えた。
誰も二人には気付かずにその世界にいる人々は目まぐるしく動いている。
「ここは何処なのでしょう?服装からしたら昔のセガールのよう…」
「昔はセガールと我が国は同じ国だったと言い伝えられているから、その時代なのかもしれない」
カインデルの言葉にレスティーナも頷いた。
確かに服装もそうだが、言葉も我が国の言葉よりもセガールに近いもの。レスティーナもカインデルもセガールの言葉は理解できた。
それに例え理解できなくてもこの世界が神聖語で語られているなら、もしかしたら翻訳機能もあるのかもしれない。レスティーナがそう捉えていると、目の前を行く人物に驚いた。
「あれは…まさか…そんな……」
「ああ、彼がそうなのか」
目の前の人物は、マリアンヌそっくりの女性と手を繋いで、見つめ合って微笑みあっていた。目の前の光景にレスティーナの心は折れそうになっていた。
目の前の彼はクロイツェルそっくりなのだ。
そして、彼の正体は建国時の初代王だったのだ。
ならば、彼の隣に居るマリアンヌそっくりの女性は、きっと女神が作ったと伝えられている彼女の分身…。
──敵わない…。
最初から決められていた運命なら、一体自分は如何ほどの価値があったのか…。そして、どうして自分がクロイツェルの婚約者でいなければならないのか。女神の代弁者とは一体何を意味するのかわからなかった。
困惑するレスティーナを抱きしめる様にカインデルは、その腕を影の様な不確かなレスティーナの身体を引き寄せた。
「どうして…どうしてなの。私の存在は一体何?…」
今にも崩れそうなレスティーナの目から一滴の涙が流れて足元に零れ落ちた。途端に場面が変わって、そこは何もない白い空間が広がっている。
誰かの話し声が聞こえてきて、カインデルは今にも倒れそうなレスティーナを抱きかかえるように、話し声の方へ足を運んで行った。
そこに現れたのは、女神クレマンテと全能の神イフェルの姿だった。
しかし、その姿は…まるでレスティーナとカインデルそのものだったのだ。
仄かな灯りが薄暗い地下の階段の足元を照らす。
空気が淀んで黴臭い独特な臭いが微かにしている。レスティーナは思わず鼻にハンカチを当てた。
見渡す限り闇が広がる空間にコツコツと靴の音だけが響いている。思わずレスティーナはその小さな手でカインデルの上着を掴んでいた。
──怖い…。
言い知れぬ恐怖に打ち勝とうとレスティーナは何度も大きく息を吸い込んだ。
レスティーナの不安を取り除こうとカインデルは、掴んでいる手を自分の手で握った。
その手は『大丈夫だよ』という様に優しい温もりを感じさせている。
──ああ…いつもそう。カインデルお兄様はずっと変わらず私を気遣ってくれる大切な人…。
どうして忘れてしまっていたのだろう。いつも私の心の中にはクロイツェル殿下がいた。もっと身近に私を見守っていてくれている人がいたというのに…。
カインデルの手を握りしめながら、レスティーナは心が温かくなるのを感じていた。同時に、微かな不安よぎった。
また、私は死ぬのだろうか?
その不安を打ち消す様に、レスティーナは地下への階段を一歩一歩降りて行く。
誰一人口を開くことなく、まるで、深淵の闇の中を手探りで突き進むかのように…。ただただ…降りて行った。
暫くすると、小さな光が見えてきて地下の扉の前に着いたようだった。
扉は、王宮にある女神像の部屋と似ているとカインデルは思った。
中に入り、蝋燭に明かりを灯すとそこにあったのは書物ではなく、木版に半球が填め込まれ、その周りには神語が描かれていた。
「これが禁書……?」
疑うつもりはないが、カインデル達の想像とは大きくかけ離れている。
「そう…これが禁書です」
「どうやって……」
「どうやって読むのかという事ですか?」
「…はい」
「それは、半球に手を翳してみれば分かります」
レスティーナはカインデルの方をちらりと見た。カインデルもレスティーナの方を見ながら大きく頷いた。
二人はお互いの目線を半球体に戻して、手を翳してみる。
周りに刻まれている神聖語が反応して、眩い光が二人を包み込む様に呑み込んだ。
レスティーナが目を開けるとそこはモノクロの様な風景が広がっていた。
現実ではないその世界にレスティーナとカインデルは立っている。
足元がふわふわとして覚束ない。隣に立つカインデルの手を握ろうとしてもその手はすり抜けていった。
実体のない二人の身体はすりガラスの様に所々透けて見えた。
誰も二人には気付かずにその世界にいる人々は目まぐるしく動いている。
「ここは何処なのでしょう?服装からしたら昔のセガールのよう…」
「昔はセガールと我が国は同じ国だったと言い伝えられているから、その時代なのかもしれない」
カインデルの言葉にレスティーナも頷いた。
確かに服装もそうだが、言葉も我が国の言葉よりもセガールに近いもの。レスティーナもカインデルもセガールの言葉は理解できた。
それに例え理解できなくてもこの世界が神聖語で語られているなら、もしかしたら翻訳機能もあるのかもしれない。レスティーナがそう捉えていると、目の前を行く人物に驚いた。
「あれは…まさか…そんな……」
「ああ、彼がそうなのか」
目の前の人物は、マリアンヌそっくりの女性と手を繋いで、見つめ合って微笑みあっていた。目の前の光景にレスティーナの心は折れそうになっていた。
目の前の彼はクロイツェルそっくりなのだ。
そして、彼の正体は建国時の初代王だったのだ。
ならば、彼の隣に居るマリアンヌそっくりの女性は、きっと女神が作ったと伝えられている彼女の分身…。
──敵わない…。
最初から決められていた運命なら、一体自分は如何ほどの価値があったのか…。そして、どうして自分がクロイツェルの婚約者でいなければならないのか。女神の代弁者とは一体何を意味するのかわからなかった。
困惑するレスティーナを抱きしめる様にカインデルは、その腕を影の様な不確かなレスティーナの身体を引き寄せた。
「どうして…どうしてなの。私の存在は一体何?…」
今にも崩れそうなレスティーナの目から一滴の涙が流れて足元に零れ落ちた。途端に場面が変わって、そこは何もない白い空間が広がっている。
誰かの話し声が聞こえてきて、カインデルは今にも倒れそうなレスティーナを抱きかかえるように、話し声の方へ足を運んで行った。
そこに現れたのは、女神クレマンテと全能の神イフェルの姿だった。
しかし、その姿は…まるでレスティーナとカインデルそのものだったのだ。
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