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夕暮れのナイチンゲール
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一週間後、ネグローニ公爵令息がシャグリア夫人を伴って見舞いに来てくれた。ネグローニ公爵令息とは家同士の付き合いで良く見知っている。
アルベルト・ネグローニ公爵令息は騎士団に所属している。そして、夫人のシャグリア様とは領地が隣同士だった事から二人は幼馴染みの恋人同士だった。
でも、王太子の婚約者が決まらない内は随分と辛かっただろう。どんなに思い合っても王命ならば逆らえないからだ。
彼女は三人に残らなかった。それは彼女の母親がデントロー公爵令嬢で、祖母は降嫁した王女だから、血が近すぎるという理由から外されたのだ。
お陰でアルベルトはシャグリアに思いを伝えて結婚することが出来た。
「気分はどうだい?」
「ええ、順調に回復しているわ。最近ではつたい歩き位なら出来る様になったし、食事も普通に摂れる様になったわ」
「それは宜しゅうございましたわ。私達も心配していたものですから…」
「ありがとうございます。シャグリア様、それにご結婚おめでとうございます。幸せそうで良かったですわ」
二人を別邸のサロンに案内してお喋りを楽しんでいる。
本邸では、苦しい思い出しかない為、自分らしく振る舞う事は出来ない。常に使用人等に見張られている生活は息苦しかった。
「それにしてもここは意外と涼しいな」
「本当に」
「ここは曾祖父が異国から来る曾祖母の為に建てた屋敷ですから、この国にはない仕組みが沢山あるんですのよ」
「ほう、そうなのか?」
「ええ、屋敷一体に風通しを良くしている為、夏でも快適に過ごせるようになっているの」
「まあ、我が国にも取り入れたら良いのにね。アルベルト様」
「そうだな、我が家にも欲しいな」
「ふふ、そういえばおめでたと伺っていますが」
「ああ、春には生まれる」
「まあ、おめでとうございます。楽しみですね」
「ええ、楽しみです」
仲の良い夫婦は顔を赤らめて照れている。そんな姿を微笑ましく見ていると私も何だか幸せな気分を分けて貰った様だった。
「そう言えば、『夕暮れの小夜啼鳥』は君のことだろう」
「何ですか?それは」
「あら、ご存知ないのですか?王都では知らない者がいないほど有名になっていますわよ」
「公爵家から夕暮れ時に美しい歌声が聞こえると、その歌声を聞くと心が癒されると噂になっている」
「そんな大袈裟な、ただ好きな歌劇の一節を口ずさんでいるだけですが」
「何の歌劇ですの」
「それは…」
「ああ、以前王太子殿下と一緒に見に行った時の歌劇のか」
「ええ、そうです」
「では、あまり人前では、言えませんね」
「そうだな、誰が聞いているとも分からないしな」
私達の間には微妙な沈黙が漂った。私が口ずさんでいるのは、戦争で亡くなった恋人を懐かしむ悲恋の歌劇の一節だった。つまり私はかつての婚約者を懐かしんで歌っているのだ。こんなことが知られれば大きな醜聞となる。実の姉妹が一人の男を巡って争っていると。
「そう言えば、貴女が目覚める前に式典があったんだが、妃殿下の様子が何処かおかしかったな」
「そう言えばそうですね。何かに怯えている様に見えましたが」
式典、それは建国記念日の事だ。あの妹が怯えていたのなら、それは私が落ちた瞬間に立ち合っていたからだろう。実の姉がバルコニーから転落する様を見て、動揺しない家族はいない。例えそれが見せかけだけだとしても。
それに王太子妃となればあのバルコニーに立たなければならない。彼女にとっても悪夢の式典となったのだろう。
アルベルト・ネグローニ公爵令息は騎士団に所属している。そして、夫人のシャグリア様とは領地が隣同士だった事から二人は幼馴染みの恋人同士だった。
でも、王太子の婚約者が決まらない内は随分と辛かっただろう。どんなに思い合っても王命ならば逆らえないからだ。
彼女は三人に残らなかった。それは彼女の母親がデントロー公爵令嬢で、祖母は降嫁した王女だから、血が近すぎるという理由から外されたのだ。
お陰でアルベルトはシャグリアに思いを伝えて結婚することが出来た。
「気分はどうだい?」
「ええ、順調に回復しているわ。最近ではつたい歩き位なら出来る様になったし、食事も普通に摂れる様になったわ」
「それは宜しゅうございましたわ。私達も心配していたものですから…」
「ありがとうございます。シャグリア様、それにご結婚おめでとうございます。幸せそうで良かったですわ」
二人を別邸のサロンに案内してお喋りを楽しんでいる。
本邸では、苦しい思い出しかない為、自分らしく振る舞う事は出来ない。常に使用人等に見張られている生活は息苦しかった。
「それにしてもここは意外と涼しいな」
「本当に」
「ここは曾祖父が異国から来る曾祖母の為に建てた屋敷ですから、この国にはない仕組みが沢山あるんですのよ」
「ほう、そうなのか?」
「ええ、屋敷一体に風通しを良くしている為、夏でも快適に過ごせるようになっているの」
「まあ、我が国にも取り入れたら良いのにね。アルベルト様」
「そうだな、我が家にも欲しいな」
「ふふ、そういえばおめでたと伺っていますが」
「ああ、春には生まれる」
「まあ、おめでとうございます。楽しみですね」
「ええ、楽しみです」
仲の良い夫婦は顔を赤らめて照れている。そんな姿を微笑ましく見ていると私も何だか幸せな気分を分けて貰った様だった。
「そう言えば、『夕暮れの小夜啼鳥』は君のことだろう」
「何ですか?それは」
「あら、ご存知ないのですか?王都では知らない者がいないほど有名になっていますわよ」
「公爵家から夕暮れ時に美しい歌声が聞こえると、その歌声を聞くと心が癒されると噂になっている」
「そんな大袈裟な、ただ好きな歌劇の一節を口ずさんでいるだけですが」
「何の歌劇ですの」
「それは…」
「ああ、以前王太子殿下と一緒に見に行った時の歌劇のか」
「ええ、そうです」
「では、あまり人前では、言えませんね」
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