【完結】この愛に囚われて

春野オカリナ

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王太子視点4

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 ユリウスと話してみても合点がいかない事が多い。私は王家の房事記録係を呼び出した。

 「昨夜の事は記録してあるか?」

 「いいえ、昨夜何事もありませんでした」

 どういうことなのだ。房事記録者は数人いて、王家の決まりで彼らは王族にどこにでも付いていかなければならない。

 王太子の部屋は防音設備はない。情事は筒抜けなのだ。行動は秒刻みで侍従や侍女が管理している。だからローズマリアが私の部屋に無断で入るなど出来ない。

 だが、内通者がいれば別である。つまり、王太子の行動を洩らした人間が私の身近にいるという事だ。ローズマリアに鍵を渡したのは、私付きの侍従アルゾと判明した。

 彼は乳母の息子で昔から私に忠誠を誓っている一人だった。乳兄弟である彼の裏切りに私の心に罅が入るのを感じながら、尋問室に向かった。

 「アルゾ、何故こんなことに手を貸したのだ。どうなるか分かっていただろう」

 「申し訳ありません。余りにもローズマリア様がお気の毒で、見ていられなかったのです。婚約者だというのに殿下のお心の中には未だにサフィニア様がいらっしゃっている。なのに形ばかりの婚約を押し付けられたあの方の願いを叶えて差し上げたかったのです」

 俯きながら話す姿はもう、自分の知っている乳兄弟ではなく、恋い焦がれる男の姿にしか見えなかった。

 あの女はどれだけ罪を犯せば気が済むのだ。多くの男を虜にし、毒牙にかけながらまだ私の妃の地位を狙っている。底のない欲望を撒き散らしながら、生きる姿が私にはどこまでも蔑みの対象にしか成り得ないことを、理解しないあの女に心底憎しみしか湧かなかった。

 このことは直ぐに父王に知られることになり、私は正式にローズマリアと婚約しなければならなくなった。

 そして、彼女の妊娠が発覚した時、私は決心したのだ。この女に破滅を味あわせてやろうと。それが私がサフィニアを失った代償と引き換えに得た当然の権利に思えた。

 ユリウスにローズマリアの近辺を探らせ、実家の公爵家から度々忍んで会いに行く男の存在に辿り着いた。

 その男は王宮の警備兵で婚約者となってからの付き合いだと判った。

 ローズマリアの事だ。この男とも遊びの様な関係だったのだろう。一線を越えてから一度も会っていない様子に私は疑った。

 まさか、王家の出自を誤魔化す気なのか?そんな事をすればどうなるか誰しも知っている事だ。

 ローズマリアが淑女らしからぬ女でも高位貴族に生まれれば、少し考えれば分かることだ。王家を騙し、陥れれば後は『死』が待っていることを。

 愚かなローズマリアは知らない。子供を産んだ瞬間に破滅するということを。自身が招いた結果で自分の首を絞める事になる。

 王家の子供は皆、髪が銀色なのだ。これは先祖が女神と交わした約束。王位継承を明確にするための仕組みなのだ。

 彼女は自分に似た子供なら問題はないと思っているかもしれないが、生まれた子供の髪を見れば誰の子か分かる。

 彼女にはサフィニアにした悪事もあり、王宮に留めた方がサフィニアに害がないと考えた。だからあの建国記念日にわざわざ結婚式を挙げ、彼女にバルコニーに立たせようとした。

 顔色がどんどん変わっていくローズマリアを見るのは面白かった。姉が落ちた同じ場所に立つ勇気はありはしないだろう。そう思っていたが、案の定「気分が悪い」と理由をつけて拒み始めた。

 周りにいる貴族達は揃って不振がっていたが、私は彼女の意見を通してやった。

 そうすれば、ローズマリアは愛されている妃だと思わせられるからだ。外国の要人も集まっているこの式典で不仲だと知られるのは拙い。しかし、復讐心に塗れた私はローズマリアを精神的に追い詰める事を考えたのだ。

 そんな時にサフィニアが目覚めたという知らせが王宮に届いた。




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