【完結】この愛に囚われて

春野オカリナ

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王太子視点5

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 あれはサフィニアが目覚めたと連絡が入って2週間経った頃、ローズマリアがいきなり姉の見舞いに行くと外出届が出された。

 その知らせを聞いて、私はユリウスに許可を出さない様に指示した。

 「ただでさえ目覚めたばかりで、混乱しているかも知れないし、直ぐには起き上がれる状態ではないだろう」

 先方の都合も聞かず、実家に帰ろうとするローズマリアの無神経さに、苛立ちを隠せない私に、ユリウスが

 「1カ月程したら、体もある程度動かせる様になるとの医師からの連絡が入っています」

 サフィニアには王宮医師を派遣していた。事故が起きたのは王宮のバルコニーからで、王家にも落ち度があったからだ。医師からサフィニアの状態を逐一報告させている。

 「1カ月か。長いな…」

 「殿下、あっと言う間ですよ」

 そして、日程を定めて公爵家に先触れを出していたのだが、何故かサフィニアには知らされていなかった。

 どこまでもサフィニアを蔑にし続ける公爵に怒りを感じながら、一人で行かせると何をするのか分からないローズマリアと一緒にサフィニアに会いにいったのだ。

 寝台に背もたれのクッションを挟んで上半身を起こしているサフィニアは、まだやせ細って痛々しかった。健気に微笑む姿は、以前よりも美しく感じた。

 「お姉様、お加減は如何です?」

 「ええ、順調に回復しているわ。わざわざ・・・・お見舞い等して頂かなくてもいずれ夜会で会えますのに…」

 「まあ、お姉様はやはり恨んでお出でなのですね。私が王太子殿下と婚姻したことを、やはりあれは自殺するつもりで…」

 一体、このローズマリアは何がしたいのだ。何故、実の姉を貶めようとするのだ。

 自分がしたことを棚に上げて、姉を追い込む様な真似をするローズマリアに私は内心、腸が煮え繰り返るのを我慢しながら、

 「止めないか、ローズ。サフィニアはまだ目覚めたばかりなのだぞ。そんな事を言うものではない」

 何を言い出すのだこの女は、私のサフィニアに。

 早くこの女を罰したい。

 もどかしい思いを抱えている私に

 「殿下、私はもう婚約者・・・ではなく妃殿下・・・の身内ですので、どうか名前で呼ぶのは控えて頂けないでしょうか」

 そんな事を言わないで欲しい。せめて名前を呼ぶ事だけは赦して欲しいのだ。

 何か繋がりを求めている私は取り敢えず、謝罪の言葉を口にした。

 「す、すまないつい、口から出てしまった」

 だが、私とサフィニアとの久しぶりの会話に、割ってはいるローズマリア。

 「ねえ、ジーク様、お腹・・が張って来たので帰りましょう」

 やってわざとらしい仕種で、私の愛称を勝手に口にするこの女を、殺したい衝動に駈られている。

 グッと我慢しながら

 「そうだな。(サフィニアの)身体・・に良くないし、帰ることにしよう。(これ以上居て、サフィニアに何かし出すといけないからな)サフィニア嬢も身体に気を付けて早く元気な姿を見せてくれ」

 「畏まりました。遅らせながら殿下、妃殿下ご成婚おめでとうございます」

 ああ、サフィニアの微笑みはこんな状態でも美しい。
 
 しかし、君の美しい声から祝福呪いの言葉は聞きたくなかった。

 本来なら、私の隣はサフィニアのものなのに……

 「ありがとう」

 「まあ、お姉さまったら妃殿下だなんて他人行儀な呼び方はよして下さい。今まで通りローズと呼んで下さい」

 「いえ、最早貴女様は王族になられたのですから、そのようにはお呼び・・・できません」

 「まあ、お姉様ったら冷たいお言葉です。やっぱり祝福して頂けないのですわ。お姉様は私を嫌っているのね」

 この女は何処まで行ってもサフィニアを貶めようとする。

 なんと心がひねくれているのだろう。

 「ローズいい加減にしなさい。サフィニア嬢はそんな事を言っていないだろう」

 私が咎めると、今度は泣き出した。

 ローズマリアがサフィニアの部屋で泣きわめくので、その騒ぎを聞き付けた公爵夫妻が

 「サフィニア、何故身重の妹を労ってやれないのだ」

 「やはりサフィニアは心の中ではローズを恨んでいるのね。さあ、ローズ彼方に、落ち着かないとお腹の子供によくありませんよ」

 ローズマリアを宥めながら部屋から出て行った。

 この家は、ずっとこんな風なのか。

 私は、愚かな親子やり取りに、サフィニアの置かれた状況が異常に感じた。

 早く、この家からサフィニアを出さないと、彼女は自ら命を絶つかも知れない。

 私は帰りの馬車の中で、ローズマリアを睨みながら

 「君には常識というものがないのか。病み上がりの姉になんということをするのだ。誰もいなければ…」

 私の言葉にハッとなったローズマリアが

 「…申し訳ありません」

 と小さな声で謝った。しかし、その謝罪は、私にではなく本来、サフィニアにすべきなのだ。

 何処までも自分本意なこの女をどう処置しようかと考えていた。

 そして、私はユリウスにサフィニアの婚約者になるように指示した。
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