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ローズマリア視点3
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王宮に姉が目覚めたという知らせが入り、私は直ぐに実家に宿下がりをする許可を申請した。
しかし、殿下がそれを差し止めた。理由は聞かなくても分かっている。私を姉に会わすのが嫌なのだ。
子供を身籠ってから増々、殿下との距離が開いていくのを感じていた。前は他所他所しいだけだったのに、今は時々その瞳に憎悪が灯っている。
まさか、バレたのだろうか?腹の子の出自が……
そんな不安を抱えながら、1ヶ月後に実家への帰省が叶った。
「今日は公爵家に帰る日だな。私も一緒に行こう。偶には義父母に挨拶せねばな」
そんな白々しい事を言っているが、魂胆は見え見え、殿下の口角は上がっていた。きっと姉と再会するのが嬉しいのだろう。
殿下は私が見たこともない柔らかな笑みを浮かべている。きっと無自覚なのだ。私が一番欲しい物を簡単に手に入れる姉が憎い。
公爵家の姉の部屋を訪れた私は姉を見て驚いた。
やせ細っているものの、以前と変わらず澄ましているその姿に、私の歪んだ心に火を点けた。
----どんな言葉や態度をすればお姉様の表情が崩れるのかしら。楽しみだわ。
「お姉様、お加減は如何です?」
「ええ、順調に回復しているわ。わざわざお見舞い等して頂かなくてもいずれ夜会で会えますのに…」
「まあ、お姉様はやはり恨んでお出でなのですね。私が王太子殿下と婚姻したことを、やはりあれは自殺するつもりで…」
どう、お姉様。悲しい、悔しい、それとも羨ましい。お姉様の愛した殿下は今は私の夫よ。さあ、顔に出して、私の心を満たしてちょうだい。
「止めないか、ローズ。サフィニアはまだ目覚めたばかりなのだぞ。そんな事を言うものではない」
だが、殿下が止めに入り、姉の表情は変わらなかった。つまらないわ。ふふっ、そうだ今度はどうかしら。泣いたら私の心も晴れるのに。
「殿下、私はもう婚約者ではなく妃殿下の身内ですので、どうか名前で呼ぶのは控えて頂けないでしょうか」
「す、すまないつい、口から出てしまった」
私の前で殿下と姉は会話をし出した。その姿が無性に癇に障った。
「ねえ、ジーク様、お腹が張って来たので帰りましょう」
しな垂れかかる様な仕種で、姉の嫉妬心を煽った。でも姉の淑女としての仮面は剥がれなかった。その上殿下は私を気遣う言葉を言いながら、その実、姉の体を労わっていた。
殿下の瞳には姉に対する慈しみの色しか見えない。
「そうだな。身体に良くないし、帰ることにしよう。サフィニア嬢も身体に気を付けて早く元気な姿を見せてくれ」
「畏まりました。遅らせながら殿下、妃殿下ご成婚おめでとうございます」
「ありがとう」
姉から祝いの言葉を貰っても私の心は軋むばかり、だからもっとこの姉が人であるところを見たい。私の前で泣いて乱れて縋りつく姉の姿が見たくて仕方がない。
私はいつもの手を使って、姉を追い詰めていく。きっと騒ぎを聞き付けた両親が姉を𠮟り付付けてくれる。
どこまでも歪んだ私は、姉を貶める事でしか優越感を見い出せなかった。
「まあ、お姉さまったら妃殿下だなんて他人行儀な呼び方はよして下さい。今まで通りローズと呼んで下さい」
「いえ、最早貴女様は王族になられたのですから、そのようにはお呼びできません」
「まあ、お姉様ったら冷たいお言葉です。やっぱり祝福して頂けないのですわ。お姉様は私を嫌っているのね」
「ローズいい加減にしなさい。サフィニア嬢はそんな事を言っていないだろう」
私が姉の部屋で泣き喚いたら、その騒ぎを聞き付けた両親が思った通りにやって来た。
「サフィニア、何故身重の妹を労ってやれないのだ」
「やはりサフィニアは心の中ではローズを恨んでいるのね。さあ、ローズ彼方に、落ち着かないとお腹の子供によくありませんよ」
ふふ、はは、ねえ、お姉様。分かったでしょう。やっぱり私の方が愛されているのよ。残念ね。お姉様の大切な物は私が全て壊してあげるわ。そうしたら、私の前で泣いてくれる。怒ってくれる。その顔が崩れて乱れた姿を見たいの。
両親に連れられながら、私は嘘の涙を流して口元は嗤っていた。でも、殿下は私の心配よりも姉の方を見ていた。
そして、あれ程穏やかに微笑んでいた姿はなく。今は私を睨んでいる。
「君には常識というものがないのか。病み上がりの姉に何ということをするのだ。誰もいなければ…」
その先の言葉を飲み込んだ殿下はきっと『罰していただろう』そう続けたかのか。それとも……
殿下の鋭い視線が怖くて、
「…申し訳ありません」
小さな声で呟いた。それ以降殿下は押し黙ったまま、馬車は王宮に着いた。その道のりは悠久の時の様に重苦しく、辛い物だった。
そして、最後の夜会が始まったのだ。
しかし、殿下がそれを差し止めた。理由は聞かなくても分かっている。私を姉に会わすのが嫌なのだ。
子供を身籠ってから増々、殿下との距離が開いていくのを感じていた。前は他所他所しいだけだったのに、今は時々その瞳に憎悪が灯っている。
まさか、バレたのだろうか?腹の子の出自が……
そんな不安を抱えながら、1ヶ月後に実家への帰省が叶った。
「今日は公爵家に帰る日だな。私も一緒に行こう。偶には義父母に挨拶せねばな」
そんな白々しい事を言っているが、魂胆は見え見え、殿下の口角は上がっていた。きっと姉と再会するのが嬉しいのだろう。
殿下は私が見たこともない柔らかな笑みを浮かべている。きっと無自覚なのだ。私が一番欲しい物を簡単に手に入れる姉が憎い。
公爵家の姉の部屋を訪れた私は姉を見て驚いた。
やせ細っているものの、以前と変わらず澄ましているその姿に、私の歪んだ心に火を点けた。
----どんな言葉や態度をすればお姉様の表情が崩れるのかしら。楽しみだわ。
「お姉様、お加減は如何です?」
「ええ、順調に回復しているわ。わざわざお見舞い等して頂かなくてもいずれ夜会で会えますのに…」
「まあ、お姉様はやはり恨んでお出でなのですね。私が王太子殿下と婚姻したことを、やはりあれは自殺するつもりで…」
どう、お姉様。悲しい、悔しい、それとも羨ましい。お姉様の愛した殿下は今は私の夫よ。さあ、顔に出して、私の心を満たしてちょうだい。
「止めないか、ローズ。サフィニアはまだ目覚めたばかりなのだぞ。そんな事を言うものではない」
だが、殿下が止めに入り、姉の表情は変わらなかった。つまらないわ。ふふっ、そうだ今度はどうかしら。泣いたら私の心も晴れるのに。
「殿下、私はもう婚約者ではなく妃殿下の身内ですので、どうか名前で呼ぶのは控えて頂けないでしょうか」
「す、すまないつい、口から出てしまった」
私の前で殿下と姉は会話をし出した。その姿が無性に癇に障った。
「ねえ、ジーク様、お腹が張って来たので帰りましょう」
しな垂れかかる様な仕種で、姉の嫉妬心を煽った。でも姉の淑女としての仮面は剥がれなかった。その上殿下は私を気遣う言葉を言いながら、その実、姉の体を労わっていた。
殿下の瞳には姉に対する慈しみの色しか見えない。
「そうだな。身体に良くないし、帰ることにしよう。サフィニア嬢も身体に気を付けて早く元気な姿を見せてくれ」
「畏まりました。遅らせながら殿下、妃殿下ご成婚おめでとうございます」
「ありがとう」
姉から祝いの言葉を貰っても私の心は軋むばかり、だからもっとこの姉が人であるところを見たい。私の前で泣いて乱れて縋りつく姉の姿が見たくて仕方がない。
私はいつもの手を使って、姉を追い詰めていく。きっと騒ぎを聞き付けた両親が姉を𠮟り付付けてくれる。
どこまでも歪んだ私は、姉を貶める事でしか優越感を見い出せなかった。
「まあ、お姉さまったら妃殿下だなんて他人行儀な呼び方はよして下さい。今まで通りローズと呼んで下さい」
「いえ、最早貴女様は王族になられたのですから、そのようにはお呼びできません」
「まあ、お姉様ったら冷たいお言葉です。やっぱり祝福して頂けないのですわ。お姉様は私を嫌っているのね」
「ローズいい加減にしなさい。サフィニア嬢はそんな事を言っていないだろう」
私が姉の部屋で泣き喚いたら、その騒ぎを聞き付けた両親が思った通りにやって来た。
「サフィニア、何故身重の妹を労ってやれないのだ」
「やはりサフィニアは心の中ではローズを恨んでいるのね。さあ、ローズ彼方に、落ち着かないとお腹の子供によくありませんよ」
ふふ、はは、ねえ、お姉様。分かったでしょう。やっぱり私の方が愛されているのよ。残念ね。お姉様の大切な物は私が全て壊してあげるわ。そうしたら、私の前で泣いてくれる。怒ってくれる。その顔が崩れて乱れた姿を見たいの。
両親に連れられながら、私は嘘の涙を流して口元は嗤っていた。でも、殿下は私の心配よりも姉の方を見ていた。
そして、あれ程穏やかに微笑んでいた姿はなく。今は私を睨んでいる。
「君には常識というものがないのか。病み上がりの姉に何ということをするのだ。誰もいなければ…」
その先の言葉を飲み込んだ殿下はきっと『罰していただろう』そう続けたかのか。それとも……
殿下の鋭い視線が怖くて、
「…申し訳ありません」
小さな声で呟いた。それ以降殿下は押し黙ったまま、馬車は王宮に着いた。その道のりは悠久の時の様に重苦しく、辛い物だった。
そして、最後の夜会が始まったのだ。
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