さよなら、旦那様 ~全てを思い出したのでお別れを希望します~

春野オカリナ

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騎士と姫の物語

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 ルナリアは伯爵領に帰る途中、ダラス侯爵夫人となった友人のマリエッタの元を訪ねる事にした。

 どうせ急ぐようで急がない旅路なのだから、久しぶりに友人に会いたかったのと、馬車酔いをしたのか、少し気分が悪くなったからだ。
 
 「奥様…少し横になられた方が…」
 「そうね…なんだか疲れたわ。最近、眠りも浅いし、食べ物も何だか味がしないのよね」
 「まだ、体調が戻っておられないのに無理をされるからですよ」
 「ねえ、メアリー。そろそろ、奥様は止めて頂戴。以前のようにルナリアと呼んでもらえないかしら」
 「奥様は奥様です。まだ公爵夫人でいらっしゃいますので」
 「相変わらずの堅物ね。まあいいわ。早くお兄様の許可を取って離縁したら、領地の修道院にでも入って余生を送るから」
 「何を仰っているのですか?まだお若いのに世捨て人になるなんて」
 「ふふっ、だって出戻りよ。お兄様家族に迷惑をかけるわけにはいかないわ」
 「奥様なら、独身になればきっと他の殿方が放っておきませんよ」
 「そうかしら、それこそ侍女の欲目というものではなくて」
 「違います。あのメロス侯爵のライザック様とか…」
 「それは在り得ないわ。幼馴染ですもの」
 「……」

 ルナリアの言葉にメアリーは黙り込んだ。

 (あんなに分かりやすいのに…。)

 侍女のメアリーから見れば、あんなに分かりやすくアプローチを続けているにも拘らず、鈍いルナリアに残念ながらその想いは届いていない。次第にライザックが可哀相になってきた。

 彼が騎士を目指したのも、ルナリアが「騎士と姫」という有名な童話に憧れて、『わたしもこんな風に騎士様に守られてみたい』などと言ったからだ。

 子供のいう事を真に受けて、彼は今や王族を守る近衛兵の中でも有望株。

 実家の侯爵家を継ぐわけではないから、王女の降嫁はないが、容姿も家柄も備えているライザックは、婿に迎えるのに不都合ない優良物件なのだが…。

 当の本人は、未だにルナリアに未練たらたらの状態。

 もう何度も周りから諦める様に諭されても、頑として譲らない。

 『ルナリア以外の者と結婚するなど考えられない』

 と独身を貫いている。

 そのルナリアが離縁するとなれば、ライザックはどう動くかは想像するに容易い。

 相手が公爵家の当主だとしても、ルナリアの気持ちが自分にあるという確証を得たなら、きっと素早く外堀を埋めていくだろう。いや、既に外堀は埋められているかもしれない。

 すやすやと眠るルナリアを見て、メアリーは考えた。

 優柔不断なジェラールよりはライザックの方を信用している。

 主には申し訳ないが、メアリーは自己判断でライザックに離縁することを伝えることにした。

 「カーライル。悪いけれどこれを至急、メロウ侯爵家のライザック様に届けてほしいの」
 「とうとう、動きだすんだな」
 「ええ、ルナリア様には悪いけれど、煮え切らないクソ野郎よりも一途なライザック様の方がお嬢様には相応しいわ」
 「まあ、そうだな。あの当主の所為でお嬢は何度も命を危険に曝されている。いい加減、疫病神の様な男ときれいさっぱりと別れた方がお嬢の為になる」
 「そうよね。お嬢様のために」
 「お嬢の幸せの為に」
 「「頑張りましょう(ろうぜ)!!」」

 何も知らずにルナリアは、昔の懐かしい思い出を夢で見ているのだった。

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