さよなら、旦那様 ~全てを思い出したのでお別れを希望します~
ハルクレスト王国には、ある曰く付きの川がある。
王都と国領の間にあるセレーヌ河は、時間帯によって様々な顔を見せることから、「虹の河」と呼ばれ、多くの観光客を呼び寄せていた。
しかし、昨今この川は「忘却の河」と呼ばれている。
10数年前に恋人に裏切られた若い女性がこの川に身を投げた所、奇跡的に命が助かった。助けられた女性は恋人のことを全て忘れて、自分を助けてくれた男性と恋に落ちて幸せになった。
その事実に尾ひれはひれがついて、川に飛び込めば嫌な事を忘れる事が出来ると噂になってしまい、多くの民衆が川に飛び込もうとして、怪我人が続出する始末。
そこで国は、川に沿って飛び込み防止の柵を作った。結果、景観の美しい川縁は囚人の鉄格子の如く殺伐としたものに変わってしまった。
当然、観光業にも大打撃を与えてしまっている。そこで、国は川に大きな眼鏡橋を架け、川の色の変化を楽しめるようにした。
2年ほど前に、この眼鏡橋にいた年若い恋人たちのおかげで眼鏡橋には「恋を成就する運命橋」と密かに巷で囁かれる様になったのだが……。
その話には大きな真実が隠されていた。
主人公となるルナリア・ジャンヌ・ロマネスク公爵夫人は、1週間程高熱で生死を彷徨っていた。
彼女には、記憶が無い。
2年前、眼鏡橋で、現夫であるジェラール・エイダン・ロマネスク公爵を暴漢から身を呈して助けて、川に落ちてしまったのである。
その際に頭を打ったらしく、一月意識不明になっていた。目が覚めると自分の名前すらも分からない状態になっており、両親や兄から事情を説明しされても首を傾げることしかできなかった。
新聞でも「健気な深窓の伯爵令嬢。初恋の公爵閣下を庇って意識不明の重体!!」と大きく取り上げられていた。その二人が結婚したとなれば、皆が恋を成就させれる橋と騒ぐのも理解できる。
橋の近くのカフェや飲食店、ホテルはこの話に便乗し、恋が実る為のケーキや飲み物、ハンカチやブーケおまけに怪しげな人形なども販売し始め、国を挙げての観光事業にまで発展した。
ところが、2年経った今、ルナリアはある事がきっかけで全ての記憶を取り戻してしまったのだ。
そして、「今のこの場所は、本来別の人間のもので、私はここにいるべきではない」という結論に至った。
その後、ルナリアは夫ジェラールが王宮に勤務している間、使用人達に別れを告げて、デルメット伯爵領にいる兄ルーベンスの元に馬車を走らせた。
理由は簡単…この国では女性からの離縁の申し出には、実家の許可が必要で、ルナリアは当主となった兄に離縁状のサインをもらう為に公爵家を旅立った。
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その事実に尾ひれはひれがついて、川に飛び込めば嫌な事を忘れる事が出来ると噂になってしまい、多くの民衆が川に飛び込もうとして、怪我人が続出する始末。
そこで国は、川に沿って飛び込み防止の柵を作った。結果、景観の美しい川縁は囚人の鉄格子の如く殺伐としたものに変わってしまった。
当然、観光業にも大打撃を与えてしまっている。そこで、国は川に大きな眼鏡橋を架け、川の色の変化を楽しめるようにした。
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そして、「今のこの場所は、本来別の人間のもので、私はここにいるべきではない」という結論に至った。
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