【本編完結】この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして

春野オカリナ

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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして

ある騎士の独り言

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 それは、奥様の懐妊が発覚した時の事。

 執事長のルファス様が使用人らを集めてこう言ったのだ。

 「今から奥様付きの者を新たに配属することになった。これは大変名誉な事であり、選ばれた者は生まれてくるお子様付きとして正式に任命される。志願する者は名乗り出なさい」

 そう言われて『これは高給待遇間違いなし』と我々はざわめいた。

 そして俺は、一番乗りに手を挙げたはずなんだが、見るとほぼ全員の者が手を挙げているではないか。名乗りを挙げていない者は既に何らかの役職等、特別な位置にいる者だけだった。

 負けてはいられないと、俺はルファス様に己を売り込んだ。それはもの凄い勢いでだ。

 だが、同僚たちも負けてはおられぬとばかりに俺の前に割り込んで売り込み始めた。皆目が血走って鬼気迫るものがあった。

 侍女たちも同じで、侍女頭のリタ様に自分を売り込んでいた。

 二人ともに迫ってくる使用人らの対応に困っていた。

 そこで始まったのが、勝ち抜け戦のトーナメントだった。

 騎士は勿論その剣術の腕を競い、侍女たちは自分たちの特技を披露する。刺繍だったり、言語学・掃除洗濯料理等気配りや出来る侍女としてのスキルを十分に見せたのだ。

 こうして勝ち抜いた騎士10名、侍女10名が奥様付きの者として新たに選ばれた。

 我々を『クッション隊』と名付けたのはロータス様の決定だったと聞いている。

 なんてセンスのない…と思ったことは心の中にしまっておこう。

 だが、驚いた事にこの『クッション隊』は待遇が良い。仕事の内容は奥様が快適過ごせるように気配りをする事。怪我などをさせない事というのが重要事項だ。

 だから昼夜奥様に張り付いていなくてはいけない。

 奥様は時々、我々の方を不思議そうに見ているが特に嫌がられてはいなかった。

 今30名ほどの隊員がいる。跡取りとなるお子様を健やかに産んでいただくためにも今日も又、奥様をお守りするために張り切って護衛する。

 我々は選ばれた者達なのだから……。

 しかーし、一つだけ注意しなくてはいけない事がある。

 それは、決して天使の奥様に微笑まれてもデレデレしてはいけない。何故ならその後に魔王の来襲があるからだ。そして、訓練という名の地獄のシゴキが待っている。

 ある者はロープに繋がられたままサメと素手で戦わされたり、崖の上からロープ一本でバンジージャンプなんてこともあった。
 
 上官に聞くと動体視力や反射神経を磨き、弱さを克服するための訓練だと言われた。

 そんな事は建前で、ただの拷問だろう?

 カナヅチ騎士を海の訓練に行かせる事や高所恐怖症の騎士を崖から落とすなんて人権侵害が甚だしいが、奥様にデレ付いた奴等の自業自得なのだ。

 常に奥様の行動を魔王の手先が陰から見守っている。と言うより俺たちを監視しているのだ。

 どんなに天使の微笑みを向けられてもデレてはいけないのだ。魔王の報復が待っている。

 だから、俺たちは最新の注意を払って、奥様に接しなければならない。

 こんな好条件の高給待遇には罠があった。

 それは、奥様がお生みになった魔王そっくりの小悪魔に振り回されることになろうとはこの時の俺たちは知らなかったのである。
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