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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
王宮を去る、そして私達は…
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まだ、体調が戻っていない事から、私達親子三人は王宮に留まっていた。
でもハルト様は早く王宮を出て行きたがっている。
「どうしてそんなに王宮から離れたいのですか」
「ここはアシュリーのような心の持ち主がいる様な場所ではないんだ。魑魅魍魎が巣食う場所だからね。アシュリーの純真な心が汚されそうで怖いんだよ」
「私だって嫉妬はしますし、他人を妬みます。純真な赤子ではありません」
「はははっ、ごめんね。でも何かを欲しいと思っても他人を押しのけてまで手に入れようとは思わないだろう」
「まあ、そうですが…ハルト様やアンジェリカ以外なら」
そう答えると、ハルト様が私を抱きしめて、
「嬉しいよ。僕をそこまで独占したいんだね。大丈夫、僕はアシュリー以外の人間には蟻の子ほど興味もないから」
蟻の子ほどって、どれだけ興味がないのかしら。
最近はこういったやり取りが増えた様に思う。
領地の事もあるから、私の体調が戻り次第帰りたいのだと言っているけれどそれだけではないように思える。
あの夜会での後始末に追われたハルト様は時々、眉間に皺を寄せてしばし考え込むことが多くなった。
そんな時の事だった。
私がうとうとと長椅子に凭れてアンジェリカの揺り篭を揺らしていると、急にアンジェリカの鳴き声が聞こえた。
その凄まじい声で、この小さな体のどこから出ているのかと思えるほどだった。
アンジェリカの雄叫び?を聞きつけたクッション隊が部屋に入ってきて、王宮の侍女を取り押さえていた。
侍女が持っていたのは夾竹桃だった。
この花は、全て毒が検出される為、虫も寄り付かない花なのだ。綺麗だがうっかり素手で触ると皮膚炎を引き起こす。
そんなものをこの侍女はどうしようとしていたのだろう。
彼女は側妃イランジェ様の元侍女だった。今は愛妾アグネス様の侍女となっていた。
イランジェ様が毒杯で死を賜った事に対する報復だったのだろうか。
狙われたのは私なのかアンジェリカだったのか。
私の不安は更に深まった。
このまま王宮に留まれば更なる被害に遭うとハルト様は早々にカートン伯爵家に身を寄せることを決断した。
帰る前に陛下が私達を謁見室に呼び寄せた。
そこで私は初めて目にしたグレイシア王妃の肖像画に驚いた。
まるで、生き写しの様に私に似ていたのだ。髪の色と瞳の色が違うだけで瓜二つ。
血の繋がりを感じさせる程だった。そして、何より母によく似ていた。髪の色も瞳の色さえも……。
「まさかサザーランド国の王家の血を受け継ぐ者がまだいたとはな」
陛下はそう言って、グレイシア王妃の肖像の顔の輪郭を指でなぞっていた。
その表情は恍惚として、何処か空恐ろしいものがあった。
ハルト様は私の前に立ち、陛下との距離を取っている。
「グレイシアの祖母はサザーランドの王家の血筋の伯爵令嬢だった。そのせいか彼女もサザーランド王家の色を持って生まれた。残念ながらそなたは髪の色と瞳の色が少し違うがな」
その言葉の意味が私には分からなかった。
「陛下、お戯れは止めて頂きたい。アシュリーは僕の妻です。手出しはしないでください。それに妻と娘を害した者の処罰する権利をお与えください」
「今はやれん。しかし、余が死んだ後はすきにするがいい。あれは永久に宮から出さぬと約束しよう。もう飽きたからな」
「随分あっさりとした関係なのですね」
「そういう約束だ。余が飽きるまでのな」
「……」
私は何と言っていいのか分からなかった。二人の言っている人が誰を指しているのか見当もつかなかったのだ。
「二度と妻をここに呼ばない様に…ここは寂しくて豪奢な檻なのですから」
「ああ、案ずるな。二度も同じ間違いは犯さぬ。グレイシアだけで十分だ」
「そうですか。ではご健勝にお過ごしください」
「お元気で、陛下」
私とハルト様は謁見室を後にした。
侍女は裁判にかけられることなく自死したと聞いている。
本当に自死なのかは不明だ。ハルト様は本当の事は教えてくれないだろう。
私達は、カートン伯爵家で2週間程滞在した後、レグナに帰った。
実は、ハルト様はアデイラ様に帰る前に会っていたらしい。
そんな重要な事を後出しされた私がルファスさんの嫌いになる行動の項目に入れてもらった事は言うまでもない。
今日もレグナは平和である。
段々、大きくなっていくアンジェリカは、もう5才になった。何かとハルト様とアンジェリカは私を挟んで張り合っている。私からすればハルト様は大きな子供だ。
私達は今、とても幸せなのだから、今の幸せを噛み締めていたい。
とても変わった女の子に成長したアンジェリカの物語は次の機会で……。
でもハルト様は早く王宮を出て行きたがっている。
「どうしてそんなに王宮から離れたいのですか」
「ここはアシュリーのような心の持ち主がいる様な場所ではないんだ。魑魅魍魎が巣食う場所だからね。アシュリーの純真な心が汚されそうで怖いんだよ」
「私だって嫉妬はしますし、他人を妬みます。純真な赤子ではありません」
「はははっ、ごめんね。でも何かを欲しいと思っても他人を押しのけてまで手に入れようとは思わないだろう」
「まあ、そうですが…ハルト様やアンジェリカ以外なら」
そう答えると、ハルト様が私を抱きしめて、
「嬉しいよ。僕をそこまで独占したいんだね。大丈夫、僕はアシュリー以外の人間には蟻の子ほど興味もないから」
蟻の子ほどって、どれだけ興味がないのかしら。
最近はこういったやり取りが増えた様に思う。
領地の事もあるから、私の体調が戻り次第帰りたいのだと言っているけれどそれだけではないように思える。
あの夜会での後始末に追われたハルト様は時々、眉間に皺を寄せてしばし考え込むことが多くなった。
そんな時の事だった。
私がうとうとと長椅子に凭れてアンジェリカの揺り篭を揺らしていると、急にアンジェリカの鳴き声が聞こえた。
その凄まじい声で、この小さな体のどこから出ているのかと思えるほどだった。
アンジェリカの雄叫び?を聞きつけたクッション隊が部屋に入ってきて、王宮の侍女を取り押さえていた。
侍女が持っていたのは夾竹桃だった。
この花は、全て毒が検出される為、虫も寄り付かない花なのだ。綺麗だがうっかり素手で触ると皮膚炎を引き起こす。
そんなものをこの侍女はどうしようとしていたのだろう。
彼女は側妃イランジェ様の元侍女だった。今は愛妾アグネス様の侍女となっていた。
イランジェ様が毒杯で死を賜った事に対する報復だったのだろうか。
狙われたのは私なのかアンジェリカだったのか。
私の不安は更に深まった。
このまま王宮に留まれば更なる被害に遭うとハルト様は早々にカートン伯爵家に身を寄せることを決断した。
帰る前に陛下が私達を謁見室に呼び寄せた。
そこで私は初めて目にしたグレイシア王妃の肖像画に驚いた。
まるで、生き写しの様に私に似ていたのだ。髪の色と瞳の色が違うだけで瓜二つ。
血の繋がりを感じさせる程だった。そして、何より母によく似ていた。髪の色も瞳の色さえも……。
「まさかサザーランド国の王家の血を受け継ぐ者がまだいたとはな」
陛下はそう言って、グレイシア王妃の肖像の顔の輪郭を指でなぞっていた。
その表情は恍惚として、何処か空恐ろしいものがあった。
ハルト様は私の前に立ち、陛下との距離を取っている。
「グレイシアの祖母はサザーランドの王家の血筋の伯爵令嬢だった。そのせいか彼女もサザーランド王家の色を持って生まれた。残念ながらそなたは髪の色と瞳の色が少し違うがな」
その言葉の意味が私には分からなかった。
「陛下、お戯れは止めて頂きたい。アシュリーは僕の妻です。手出しはしないでください。それに妻と娘を害した者の処罰する権利をお与えください」
「今はやれん。しかし、余が死んだ後はすきにするがいい。あれは永久に宮から出さぬと約束しよう。もう飽きたからな」
「随分あっさりとした関係なのですね」
「そういう約束だ。余が飽きるまでのな」
「……」
私は何と言っていいのか分からなかった。二人の言っている人が誰を指しているのか見当もつかなかったのだ。
「二度と妻をここに呼ばない様に…ここは寂しくて豪奢な檻なのですから」
「ああ、案ずるな。二度も同じ間違いは犯さぬ。グレイシアだけで十分だ」
「そうですか。ではご健勝にお過ごしください」
「お元気で、陛下」
私とハルト様は謁見室を後にした。
侍女は裁判にかけられることなく自死したと聞いている。
本当に自死なのかは不明だ。ハルト様は本当の事は教えてくれないだろう。
私達は、カートン伯爵家で2週間程滞在した後、レグナに帰った。
実は、ハルト様はアデイラ様に帰る前に会っていたらしい。
そんな重要な事を後出しされた私がルファスさんの嫌いになる行動の項目に入れてもらった事は言うまでもない。
今日もレグナは平和である。
段々、大きくなっていくアンジェリカは、もう5才になった。何かとハルト様とアンジェリカは私を挟んで張り合っている。私からすればハルト様は大きな子供だ。
私達は今、とても幸せなのだから、今の幸せを噛み締めていたい。
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