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番外編 この想いは永遠に…
不毛なお茶会
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王宮の第二王子オーウェン殿下専用の中庭でお茶会が始まった。
「なあ、兄上。その女なんでここにいるんだ」
コンラッド殿下の声で、オーウェン殿下は少し不機嫌な顔を覗かせた。
「それなら、お前は何故ここに居るんだ。グレイシアにだけ来るように言ったのだぞ」
声を荒げて言うその姿に正直、私は幻滅していた。
この話し合いの場では、謝罪してやり直そうと言ってくれるのではないかと期待をした私が馬鹿だったのだ。
「俺は、この間の目撃者だし、サフラ侯爵令嬢が不利な状況にならない様に見届けるだけだよ」
「そうか、なら部外者だから口をはさむなよ」
オーウェン殿下の隣に座っているナタリー。彼女と殿下は学園時代の同級生で、年も私より2歳上だ。
もしかしたら、その頃からの付き合いなのだろうか。
「グレイシア、紹介しよう。ナタリー・バーボン男爵令嬢だ。これからは君と彼女とで僕を支えてくれたら嬉しい」
何の悪気も無いその笑顔で、私に悪意を向ける殿下に吐き気がした。
「すみません。仰っている意味が分からないのですが…」
「ああ、だから、君を正妻に彼女を側妃にしようと思っている」
側妃ですって…何を言っているのか分かっているのだろうか。
側妃を娶れるのは国王陛下のみ、王子の場合愛妾すら持てない。
公爵となるなら、彼女はただの愛人だ。それを側妃と言った。それも第三王子コンラッド殿下の前で、反逆罪にも問われるような事を王宮の中庭で堂々と話している。
オーウェン殿下はこんな人だったのだろうか。
こんな愚かな人だと思わなかった。いつも兄王子エイバン殿下を慮って、『兄上の役に立ちたい』そう目を輝かせていたのに…。
今はそのエイバン様を排除して自分が王になろうとしているような発言に私は眩暈を覚えた。
ナタリーは下級貴族の令嬢でも王宮の侍女だ。政治的なことぐらい王子付きなら耳にすることもあるだろうに。
そもそも、彼女ような身分の者が何故、王子付きの侍女になれたのか。
まさか、オーウェン殿下が王宮の人事に口出ししたのなら大変な事になる。
「殿下にお伺いしたいのですが、ナタリー嬢とは何時からの付き合いなのです」
「はは、そんな事は知らなくてもいいよ。君は黙って僕の妻になればいい。もし君に子供が出来なくてもナタリーが産めばいいからね。何の問題も無いはずだ」
「殿下、ナタリー様と私をどちらを選ぶおつもりなのです」
「おかしなことを聞くね。そんな事どちらも選ぶよ」
「いいえ、どちらかしか選べません。この国の法では普通の貴族は正妻一人と決まっております。子供が出来ない場合のみ妾を作ることを赦されるのです。それも婚姻して5年以上たった夫婦のみに許されます。その際には役所の方にその申告をして国王陛下の証人を得なければなりません」
「そ…そんな。それなら、僕はどうしたら」
「お別れしましょう。殿下は彼女の純潔を奪ってしまいました。彼女は殿下以外の人には嫁げません。これ以上お話がないのなら、私はこれにて失礼します。殿下今までありがとうございました」
「ま…待ってくれグレイシア。僕は…」
「往生際が悪いよ兄上。そうですよね。エイバン王太子殿下もそう思いになられますよね」
茂みの向こうから王太子殿下が現れた。
このタイミングで現れるという事は、予め知らされていたのだろう。
エイバン殿下の眉間に険しい皺が入って、弟を睨みつけている。
それも仕方がないこと。オーウェン殿下はエイバン殿下に代わって玉座を狙っている事を仄めかしたのだから、彼からすれば敵と判断したのだろう。
暫くすると空から大粒の雨が降ってきた。
これは、誰の涙なのだろうか。
私…それとも彼…?
隣のナタリーはオーウェン殿下の方とエイバン殿下を見比べて失敗したと言うような顔を見せている。
自分の純潔を散らしてでも王族に取り入ろうとしたのに、水の泡になったからだろう。彼女の様子から、本当の狙いは王太子殿下だったのではないかと想像できた。
いずれ、エイバン殿下を誘惑しようと考えていたのだろう。その浅はかな考えが透けて見える様だった。
その日はそれから大雨になり、全ての想いが流されるような気持ちになった。
「なあ、兄上。その女なんでここにいるんだ」
コンラッド殿下の声で、オーウェン殿下は少し不機嫌な顔を覗かせた。
「それなら、お前は何故ここに居るんだ。グレイシアにだけ来るように言ったのだぞ」
声を荒げて言うその姿に正直、私は幻滅していた。
この話し合いの場では、謝罪してやり直そうと言ってくれるのではないかと期待をした私が馬鹿だったのだ。
「俺は、この間の目撃者だし、サフラ侯爵令嬢が不利な状況にならない様に見届けるだけだよ」
「そうか、なら部外者だから口をはさむなよ」
オーウェン殿下の隣に座っているナタリー。彼女と殿下は学園時代の同級生で、年も私より2歳上だ。
もしかしたら、その頃からの付き合いなのだろうか。
「グレイシア、紹介しよう。ナタリー・バーボン男爵令嬢だ。これからは君と彼女とで僕を支えてくれたら嬉しい」
何の悪気も無いその笑顔で、私に悪意を向ける殿下に吐き気がした。
「すみません。仰っている意味が分からないのですが…」
「ああ、だから、君を正妻に彼女を側妃にしようと思っている」
側妃ですって…何を言っているのか分かっているのだろうか。
側妃を娶れるのは国王陛下のみ、王子の場合愛妾すら持てない。
公爵となるなら、彼女はただの愛人だ。それを側妃と言った。それも第三王子コンラッド殿下の前で、反逆罪にも問われるような事を王宮の中庭で堂々と話している。
オーウェン殿下はこんな人だったのだろうか。
こんな愚かな人だと思わなかった。いつも兄王子エイバン殿下を慮って、『兄上の役に立ちたい』そう目を輝かせていたのに…。
今はそのエイバン様を排除して自分が王になろうとしているような発言に私は眩暈を覚えた。
ナタリーは下級貴族の令嬢でも王宮の侍女だ。政治的なことぐらい王子付きなら耳にすることもあるだろうに。
そもそも、彼女ような身分の者が何故、王子付きの侍女になれたのか。
まさか、オーウェン殿下が王宮の人事に口出ししたのなら大変な事になる。
「殿下にお伺いしたいのですが、ナタリー嬢とは何時からの付き合いなのです」
「はは、そんな事は知らなくてもいいよ。君は黙って僕の妻になればいい。もし君に子供が出来なくてもナタリーが産めばいいからね。何の問題も無いはずだ」
「殿下、ナタリー様と私をどちらを選ぶおつもりなのです」
「おかしなことを聞くね。そんな事どちらも選ぶよ」
「いいえ、どちらかしか選べません。この国の法では普通の貴族は正妻一人と決まっております。子供が出来ない場合のみ妾を作ることを赦されるのです。それも婚姻して5年以上たった夫婦のみに許されます。その際には役所の方にその申告をして国王陛下の証人を得なければなりません」
「そ…そんな。それなら、僕はどうしたら」
「お別れしましょう。殿下は彼女の純潔を奪ってしまいました。彼女は殿下以外の人には嫁げません。これ以上お話がないのなら、私はこれにて失礼します。殿下今までありがとうございました」
「ま…待ってくれグレイシア。僕は…」
「往生際が悪いよ兄上。そうですよね。エイバン王太子殿下もそう思いになられますよね」
茂みの向こうから王太子殿下が現れた。
このタイミングで現れるという事は、予め知らされていたのだろう。
エイバン殿下の眉間に険しい皺が入って、弟を睨みつけている。
それも仕方がないこと。オーウェン殿下はエイバン殿下に代わって玉座を狙っている事を仄めかしたのだから、彼からすれば敵と判断したのだろう。
暫くすると空から大粒の雨が降ってきた。
これは、誰の涙なのだろうか。
私…それとも彼…?
隣のナタリーはオーウェン殿下の方とエイバン殿下を見比べて失敗したと言うような顔を見せている。
自分の純潔を散らしてでも王族に取り入ろうとしたのに、水の泡になったからだろう。彼女の様子から、本当の狙いは王太子殿下だったのではないかと想像できた。
いずれ、エイバン殿下を誘惑しようと考えていたのだろう。その浅はかな考えが透けて見える様だった。
その日はそれから大雨になり、全ての想いが流されるような気持ちになった。
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