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番外編 この想いは永遠に…
新国王誕生
しおりを挟む国葬はエイダン王太子殿下の采配の元でしめやかに営まれた。
元々、亡くなった国王陛下は病弱で、子供が成せないのではと囁かれていたほどだ。しかし、現実には3人の王子に恵まれたのだ。
現実は陛下の死を悼むよりも次の国王に誰をつけるか、という思惑で貴族たちの間は揺れ動いている。
頭一つ抜けた状態の王太子殿下が当然玉座に着くと多くの者は考えていただろう。
だが、それは前国王の1か月後に事件は起きた。
その日は、嵐の前触れのような穏やかな始まりだった。
私も侯爵家で次の婚約者候補の釣り書きを父から渡されて、どの人と会うか母と相談しながら選んでいると、
「旦那様が急にお帰りになりました」
「まあ、こんなに早く?一体どうされたのかしら」
「それが、青色が悪く見えましたので、何か王宮であったのではないかと」
「まだ陛下がお亡くなりになって、一月しか経っていないのよ。何があるというのかしら」
「そうですね。おかしいですよね。次の国王陛下が誕生したのならわかりますが」
「とにかく、お出迎えしなくては」
母に促されて、私も父を出迎えにホールに向かう。
家令が報告してきたように父の顔色は確かに悪い。
「す…すまないが一人にしてほしい」
抑揚のない声で、出迎えた母と私を横目に家令を伴って執務室に足早と向かった。
残された私と母は一体何があったのか知りたかったが、気安く鼻血かけられる状態でもない様子にただ事ではないことだけは理解する。
晩餐の時も父の顔色は戻っておらず沈んだ表情に心配で心が痛んだ。
食事も終わり、部屋に帰ろうとした時に父が家族全員に「話があるから応接室に来てくれ」と真顔で言われ、深刻な話なのだと全員が予想していたが、それは自分たちの想像をはるかに超えた内容だった。
応接室の中は静まり返った。
父から離された内容があまりにも衝撃的で、誰も何も言えない状態だったからだ。
「すまない。グレイシア…。コンラッド国王陛下に嫁いでくれ。断る事はできないのだ」
「な…何を仰っているのです。お父様。コンラッド王子殿下には、イランジェ様という婚約者がいらっしゃるではないですか」
「そうだが、これは国王陛下の王命なのだ」
「だとしても、どうして私なのですか」
「それは私にも分からないが、陛下がお前に拘っている以上、どうにも出来ない」
「バルボッサ公爵は了承されたのでしょうか」
「渋々ながらな…王宮を立ち去る時に睨み付けられたがな」
「それはそうでしょう。向こうからすれば、いくらコンラッド王子殿下の希望だとしても受け入れられないでしょう」
「それに、さっきから父上…なぜコンラッド王子殿下の事を陛下と」
「もうあの方しかいないからだ」
「それはどういうことなんです」
「オーウェン王子殿下が、エイダン王太子殿下を毒殺して、その場でコンラッド王子殿下が切り捨てた。だが、恐らくは…」
その先をお父様は言い濁したが、全員の見解は一致している。きっと、コンラッド王子殿下が全ての罪をオーウェン王子殿下に擦り付けて、口を封じたのだろうと。
「もう、玉座に付けるのはコンラッド王子殿下しかいない状況なのだ。一月後には戴冠式が行われる。その時に婚姻も一緒に行うそうだ」
「準備期間がないではないですか」
「それも全て承知の上だ。元々王妃の衣装は代々受け継がれているものだ。サイズを手直しすればいいだけのこと。しかし、問題はその後だ。ただの王族に嫁ぐのではない。国王に嫁ぐとなれば、それなりに支度しなければならないのに、短い期間の準備期間しか与えられていない」
「それでは、姉上が笑い者になるのでは」
「そうですよ。いくら王命で断れないにしても、あまりにも酷過ぎますわ」
「私もそう言って、断れないのなら、せめて婚姻を見送ってはと進言したが、一顧だにされなかった」
お父様なりに、私の事を考えてくれてのことなのだろうが、あの殿下が簡単に自分の意志を曲げない事は分かっていた。
これは最初から計画されていたのだろう。
私に逃れる術はない。
王命だというのなら従うしかないのだから…。
そして、私は次の日、迎えの馬車に乗って王宮に入った。
二度と侯爵家に帰れない事は分かっている。
王宮の門が閉まるガシャ―ンという音がいつまでも耳に残っていた。
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