もう、あなたを愛することはないでしょう

春野オカリナ

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第一章

わたしの知らない真実

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 『レオン』は、目を細め、何かを探る様な目で注意深くベアトリーチェを見ていた。いや正確には、観察している。

 「では、ベアトリーチェも揃った事だし、もうこの屋敷に用はない。フロンティアに帰るとしよう」
 「ま…お待ちください。ベアトリーチェは…王太子殿下と婚約を…」
 
 『レオン』は食い下がるベンジャミンを睨みつけて、

 「そんなことは知らないそれに王命では公爵家の娘・・・・・と書かれている。なら貴殿のの娘を差し出せばいいだろう。違うか?ベアトリーチェは、俺の娘なのだから、この国にも貴殿とも元々関わりのない者だ」

 『レオン』はベンジャミンの言葉を撥ね退けると、連れて来ていた使用人たちにベアトリーチェとリリエンヌの荷物を運び出す様に言いつけた。
 主に忠実な使用人たちはすぐさま取り掛かり、あっという間に部屋の中は空になった。というのも二人とも思い入れのある物は殆どなく、リリエンヌは自国から持ってきた物以外は全て置いて行くことにしたし、ベアトリーチェには元々そんな物はなかった。

 そう言えば…あれはどうなったのだろう。

 回帰してからは忙しくしていたせいで、母の形見の指輪がないことに今気付いたのだ。ベッドの下に落ちていないか探したが見当たらない。仕方なく諦めて馬車に乗り込んだ。

 大きな馬車の室内になぜかベアトリーチェは『レオン』の膝の上に乗せられ、隣に座っているリリエンヌがベアトリーチェの髪を手で梳くように撫でていた。

 広い馬車の室内で3人は会えなかった時間を埋める様に密着している。聞きたいことは山ほどあるが、馬車で移動中、ベアトリーチェは言葉にできなかった。ガタッと大きな揺れを感じた後、馬車は止まった。

 「閣下、到着致しました」
 「そうか、では降りようか」

 『レオン』は護衛騎士からの伝達で、ベアトリーチェと一緒に馬車を降りた。ベアトリーチェを地面に立たせると流れる様な仕草で、リリエンヌをエスコートする。まるで絵画から抜け出たような二人に周囲の人もうっとりと見惚れていた。

 「今日は、ここに泊まって、明日の朝、出発する」

 そこは王都の中でも有名なホテルだった。外国からの貴賓が宿泊するホテルの中は豪華でエントランスホールのシャンデリアが眩いばかりの光を放っている。

 ベアトリーチェはホテル内に置かれている美術品や装飾品を見て感歎していると、支配人らしき人物が、

 「フェリクス大公殿下。当ホテルにようこそお出で下さいました」
 「ああ、この国で一番良いホテルだと聞いている。妻と娘の世話を頼んだぞ」
 「おまかせ下さい。この二人が滞在中のお世話をする者です。困った事がございましたらなんなりとお申し付け下さい」
 
 支配人が中年の女性と若い女性を呼んで、リリエンヌとベアトリーチェに挨拶させた。明日、出ていくのに世話が必要なのだろうか?エリッサだっているのに…。

 ベアトリーチェが不思議そうに『レオン』の顔を覗き込むと「明日、王宮に行かなくてはならない」とだけベアトリーチェに教えた。

 部屋は、最上級のペントハウス。室内の物は侯爵家の物より高価そうな物が沢山置いてあった。いかにも王侯貴族が使用している部屋だと直ぐに分かる程だ。

 ソファに腰かける様に促されると、先ほど付いてきたメイドがお茶を入れてくれた。

 「席を外してくれ」

 『レオン』の言葉にホテルの使用人たちが部屋の外に出た。それを見計らうように、本題を切り出した。

 「リリエンヌ、ベアトリーチェ。すまない。もっと早くに迎えに来たかったんだが…。色々と事情があってな」

 「いいのよ。結果としてちゃんと約束を果たしてくれたわ。そうでしょう」

 「ああ、長かった…11年か。君があの男に借金の方に連れて行かれたと聞いた時は、怒りで我を忘れて殺しに行きそうだった。あの時、君の傍を離れなければと何度後悔したことか」

 「無事に戻ってきてくれて、こうして再会できたわ。離れていても貴方を恋しく思ったわ。囚われの身でもいつかきっと貴方の元に帰れると信じていた。やっと、それが叶って嬉しい…」

 「これからは、二人を幸せにすると約束する」

 二人が恋人同士だという事は、ベアトリーチェにもわかる。だが、どういった事情でリリエンヌはベンジャミンの元に嫁ぐことになったのか。ベアトリーチェはきょとん二人の前に座っていつ始まるのか分からない昔話を待っていた。

 「ごめんな。ベアトリーチェ。いきなり現れて『父』だといっても理解できないだろう」

 「これにはちゃんと訳があるのよ」

 目の前にいる両親は、ベアトリーチェに順を追って説明しだした。

 「まず自己紹介をしよう。俺の名はレオンハルト・フェリクス。身分はフロンティア帝国の大公だ。そして遺跡の調査や古い魔道具を甦らせる仕事をしている魔術師でもある。そして正真正銘、君の父親だ」

 ベアトリーチェはリリエンヌの方を見ると、彼女も肯定するように頷いた。

 彼らの話を掻い摘むと、事の発端は、新しい遺跡の調査にレオンハルトが駆り出されている間、リリエンヌの後見人だった叔父が多額の借金返済の為にベンジャミンに売り渡した。破格の結納金に目が眩んで、将来を誓い合った二人を引き裂いたのだ。その時、すでにリリエンヌはベアトリーチェを身籠っていた。

 後は、ベアトリーチェが知っている通り、リリエンヌは生まれた我が子と引き離され、決められた日にしかベアトリーチェと会う事が出来ない軟禁生活を送らされていた。

 どうして連絡をしなかったのかは、リリエンヌによると、知らせても直ぐに来れないだろうし、裏切られたと思われていると考えて、レオンハルトに別れを持ち出されるのが怖かったのだと話した。全てを諦めかけていた時にベアトリーチェから手紙を書く様に薦められ、覚悟を決めたのだった。

 誰だって好きな人に嫌われるのは怖い。その怖さや不安を誰よりもベアトリーチェは知っている。リリエンヌの心情もベアトリーチェには理解出来た。

 「ところで、一つ不思議な事があったんだ。丁度、一月前だ。遺跡の調査に再び行った時、突然地震が起きて神の祭壇にあった像が倒れてきた。俺は像の下敷きになったはずなのにどういうわけか、身体に異常を感じなかった。その上、目を開けると倒れてきた像は元の場所に戻っていた。その時、俺の指輪が光ったような気がして、見てみると、指輪の色が変わっていた。これを二人はどう思う?」
 
 じっとベアトリーチェの方を見つめるレオン。ベアトリーチェは、レオンに向かって自分の身に起きた事を話し始めた。


 
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