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第一章
悲劇の王女フェリシア
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国王への謁見が済んで、ベアトリーチェ達は回廊を歩いていた。その後ろからひょこひょこと付いて歩く人物がいる。
柱の陰からこちらの様子を伺う姿は小動物を連想させる。
足を止めて、ベアトリーチェは柱の陰の人物に話しかけた。
「フェリシア王女様そこで何をしていらっしゃるんです?」
「ヒェーー」
急に声を掛けられて吃驚したのか、おかしな声が聞こえてきた。
「えへへへっ、あのね。シアはきょう、ベティが来るってきいて、いっしょにあそぼうとさそいにきたのよ。だから、いっしょにあそんでくれる?」
首を傾げてベアトリーチェにお願いごとをいう少女はもう9才だというのに、未だに幼児言葉を喋っている。本来なら彼女は王族が受けるべき教育を施されて、令嬢達の手本となるべきだが、実の娘に興味の欠片も示さない王妃オパールの所為で、放置され続けていた。
回帰前のベアトリーチェは、妃選びのお茶会で、偶然フェリシアに出会った。最初は自分と同じ迷子の貴族令嬢だと思っていたが、途中、慌てた様子で走ってきたレイナルドの言葉で、王女だと知ったのだ。
レイナルドの婚約者に選ばれたベアトリーチェは不遇な王女の為に忙しい妃教育の合間をぬって、マナーや知識を教えた。フェリシアは、とても良い生徒で、ベアトリーチェも教えられたことを復習できたから、両方にメリットあるものだった。
レイナルドとのお茶会にフェリシアをよく招待して、3人で仲良くお喋りをしたものだ。
だが、フェリシアは死んだ。
15才という若さで……。
遺体は呪われた紫蘭宮と呼ばれる元第一妃の宮殿で見つかった……。
護衛騎士や侍女たちが、いなくなったフェリシアを一晩中探したが見つからなかった。まさかと思い、紫蘭宮を見に行った騎士が発見した時にはフェリシアは、全身に黒い沁みの様な物が広がっていて、既に息をしていない状態だった。
───王女フェリシアは呪われた……。
誰もがそう考えた。
こうして、王族最初の宝石眼を持たない不遇の王女フェリシアは若い命を散らしたのだ。
それはレイノルドにとっても衝撃的な出来事だった。レイノルドは2才下の同母妹をとても可愛がっていた。実母にいない者のように扱われている事を憐れに思っていたのかもしれない。
ベアトリーチェにとってもフェリシアは、実の妹のような親しい友人のような特別な存在だった。
二人の置かれた境遇がよく似ていたせいかもしれないが、不幸な境遇であるにも拘わらず、フェリシアは屈託のない笑顔でベアトリーチェの心を癒してくれた。
王太子という重責ある立場のレイノルドにとっても、やはりフェリシアの無垢な存在は必要だったのだろう。
そのフェリシアの死は、レイノルドとベアトリーチェの関係に大きな影を落とすことになったのだ。
ある日、ベアトリーチェはレイノルドに問われた事がある。
「君がフェリシアに紫蘭宮のことを話したのか?」
「確かにお教えしたことはありますが…」
「もういい。君はそんな人ではないと思っていたのに」
ベアトリーチェはレイノルドが何を知りたかったのか分からない。
『紫蘭宮に近付いてはいけませんよ。あそこには黒魔術の痕が未だに残っているそうで、危険な場所ですから絶対に近付かない様にしてくださいね。約束ですよ』
そうフェリシアに言った事はあった。それは事実だ。
あの時、フェリシアはいつもと同じ笑顔で『分かったわ。行かないと約束する』そう言っていた。そのフェリシアが何故、あの場所に行くことになったのか。今のベアトリーチェにも分からないまま。
以前と変わらない笑顔のフェリシアを見ていると、ベアトリーチェはこれから彼女の身に起きる悲劇を思い出して、胸を痛めていた。
柱の陰からこちらの様子を伺う姿は小動物を連想させる。
足を止めて、ベアトリーチェは柱の陰の人物に話しかけた。
「フェリシア王女様そこで何をしていらっしゃるんです?」
「ヒェーー」
急に声を掛けられて吃驚したのか、おかしな声が聞こえてきた。
「えへへへっ、あのね。シアはきょう、ベティが来るってきいて、いっしょにあそぼうとさそいにきたのよ。だから、いっしょにあそんでくれる?」
首を傾げてベアトリーチェにお願いごとをいう少女はもう9才だというのに、未だに幼児言葉を喋っている。本来なら彼女は王族が受けるべき教育を施されて、令嬢達の手本となるべきだが、実の娘に興味の欠片も示さない王妃オパールの所為で、放置され続けていた。
回帰前のベアトリーチェは、妃選びのお茶会で、偶然フェリシアに出会った。最初は自分と同じ迷子の貴族令嬢だと思っていたが、途中、慌てた様子で走ってきたレイナルドの言葉で、王女だと知ったのだ。
レイナルドの婚約者に選ばれたベアトリーチェは不遇な王女の為に忙しい妃教育の合間をぬって、マナーや知識を教えた。フェリシアは、とても良い生徒で、ベアトリーチェも教えられたことを復習できたから、両方にメリットあるものだった。
レイナルドとのお茶会にフェリシアをよく招待して、3人で仲良くお喋りをしたものだ。
だが、フェリシアは死んだ。
15才という若さで……。
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護衛騎士や侍女たちが、いなくなったフェリシアを一晩中探したが見つからなかった。まさかと思い、紫蘭宮を見に行った騎士が発見した時にはフェリシアは、全身に黒い沁みの様な物が広がっていて、既に息をしていない状態だった。
───王女フェリシアは呪われた……。
誰もがそう考えた。
こうして、王族最初の宝石眼を持たない不遇の王女フェリシアは若い命を散らしたのだ。
それはレイノルドにとっても衝撃的な出来事だった。レイノルドは2才下の同母妹をとても可愛がっていた。実母にいない者のように扱われている事を憐れに思っていたのかもしれない。
ベアトリーチェにとってもフェリシアは、実の妹のような親しい友人のような特別な存在だった。
二人の置かれた境遇がよく似ていたせいかもしれないが、不幸な境遇であるにも拘わらず、フェリシアは屈託のない笑顔でベアトリーチェの心を癒してくれた。
王太子という重責ある立場のレイノルドにとっても、やはりフェリシアの無垢な存在は必要だったのだろう。
そのフェリシアの死は、レイノルドとベアトリーチェの関係に大きな影を落とすことになったのだ。
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「君がフェリシアに紫蘭宮のことを話したのか?」
「確かにお教えしたことはありますが…」
「もういい。君はそんな人ではないと思っていたのに」
ベアトリーチェはレイノルドが何を知りたかったのか分からない。
『紫蘭宮に近付いてはいけませんよ。あそこには黒魔術の痕が未だに残っているそうで、危険な場所ですから絶対に近付かない様にしてくださいね。約束ですよ』
そうフェリシアに言った事はあった。それは事実だ。
あの時、フェリシアはいつもと同じ笑顔で『分かったわ。行かないと約束する』そう言っていた。そのフェリシアが何故、あの場所に行くことになったのか。今のベアトリーチェにも分からないまま。
以前と変わらない笑顔のフェリシアを見ていると、ベアトリーチェはこれから彼女の身に起きる悲劇を思い出して、胸を痛めていた。
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