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真実の愛とは編
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翌日、デモスト侯爵夫妻とトレインが我が家にやってきた。
嬉しくてしょうがない顔を隠しきれていないトレインと違って、マーカス・デモスト侯爵は顔面蒼白だ。対照的な顔色を見て、父の口角は少し上がった。
そして、ちらりと見えたエリ―ナ・デモスト侯爵夫人はかつての美貌は衰え、髪も肌も手入れがされていないようだった。
父から聞いた話では社交界に出らず屋敷に軟禁状態で気鬱になっているらしい。彼女の癇癪でやめる使用人たちが後を絶たず、侯爵はとうとう部屋の一角から出ないように指示したらしい。
前侯爵夫妻はことあるごとにエリ―ナを責め立て、そのストレスの所為で自慢だった金髪も今では白髪交じりの老婆のようだった。
対して母は、父の愛情を一身に受けた所為か。年々若返っている様な気がする。あまりの仲睦まじさに周囲からはまた子供ができるのではないかと噂されるほどだ。
でも残念ながら、父は体の弱い母を大切にしているから、弟妹ができる事は無いだろう。私を産んだ時に母は体を壊して生死を彷徨った事がある。
その際に子供よりも母の命を優先するように言ったぐらいだ。それを聞いて軽くショックを受けたのは仕方がない。父にとって母より大切な存在はないらしい。
客間に案内して、本題を父が切り出した。
マーカス・デモスト侯爵は既に何を言われるのか予想していたようで、ひたすら養い子トレインの不始末を詫びていた。
当事者のトレインはきょとんとした表情で養父の侯爵が頭を下げていることが不思議なようだった。
「どうして、侯爵の義父上が伯爵に頭を下げるのですか?」
「馬鹿者!伯爵家は王族なのだ。家格の問題ではない!そんな事も知らなかったのか!」
「えっ?」
「先々代の伯爵に王女が降嫁している。現伯爵も王位継承権を持っている。伯爵なのは、陞爵を拒んでいるからで、家格が低いわけではない!」
侯爵の言葉にトレインは暫く固まっていたが、満面の笑みを私に向けて、
「じゃあ、僕が君と結婚したら僕も王族の一員になるってことなのか?アーチェリー早く結婚しよう」
何処までも単純で目先の事にしか興味がないトレインは、自分がしでかした事の重大さをわかっていなかった。
「結婚なんかするわけがないでしょう。貴方が学園に居る間、別の女性徒と交際しているのを知っています。私以外にも何人にも同じように言ったそうですね。『君こそが真実の愛だ』と…」
そして私は父が調べた証拠の写真や資料をトレインに見せた。トレインの顔はみるみる内に青ざめて、最後には白くなった。
顔色を忙しく変えていくトレインの隣に座っている夫人の方はもっと白くなってまるで死人の様だった。
どうやらこの計画はトレインを使って侯爵家から出る為に夫人が立てたものだった。
いくら社交界に出られなくてもかつての侯爵夫人だった母オードリーがどの貴族に嫁いだか調べようとしたら調べられるのに…もしかしてトレインに忠告していなかったのだろうか。
──伯爵家には拘わるなと…。
私の隣の母は顔を扇で隠しながら、にっこりと微笑みながら、
「デモスト侯爵夫妻。二度と拘わらないように、父が誓約書を書かせたと伺っておりますわ。これは違反ですわよね。どうやって償っていただけるのでしょう」
美人の脅しの微笑みは迫力があるなあと感心しつつも、気になるのは父の反応。
母の顔をうっとりと眺めていたかと思うと、不敵な笑みを浮かべて、
「オードリー。心配しなくても後の事はパスカルが上手く処理するよ。侯爵夫人は今日にでも自領に帰って頂けるさ。二度と会う事はない。なにせ向こうで前侯爵夫人が侯爵夫人が来るのを今か今かと待っているそうだからね」
「ひっ!!」
夫人は小さな声を上げて、真っ青な顔は更に白くなった。
前侯爵夫人はエリ―ナを憎んでいる。デモスト侯爵家が失墜したのは全て彼女の所為だと思っているからだ。でもその半分は自分の息子の所為なのに、都合よく忘れているのだろう。
それに私を溺愛している兄パスカルが侯爵にきついお灸をすえる事も確実なので、私はトレインの震えて鼻水を流しながら、父に懇願している姿を見れただけで少し溜飲が下がった。
ちょっと煽てられて、告白されていい気になっていたのは私も同罪だ。なまじ私の周りにいい男が揃い過ぎていたからなのか。だから直ぐに騙された。
これからはもっと人を見る目を養おうと思っている。
侯爵と父は今後の慰謝料の話をして、その日は終わった。
晩餐までの時間、母と父はいつものように手を繋いで中庭を散歩している。
何気ない日常だけれど、私にはとても眩しく感じた。
いつの日か私にもああやって隣を一緒に歩いてくれる人が出来るだろうか?
今は失恋したばかりで次のことなんて考えられないけれど、きっと私にもそんな出会いがあるかもしれない。
そう思う事にした。
沈む夕日を見ながら、幼かった初恋に別れを告げたのだった。
あれから2年後、私は父の進める相手と結婚した。
相手は2才年下の伯爵令息で、少し無口で感情表現が苦手な人。
でも、毎日部屋にこっそりと花を飾ってくれる優しい人。
言葉足らずな所は態度で示してくれて、晩餐までの時間は手を繋いで散歩に付き合ってくれる人。
やっと見つけた私の大切な家族…。
母がこっそり教えてくれた。
『真実の愛や運命の恋なんて死ぬ時しか分からないわ。生涯最後まで一緒に共に過ごした夫婦こそがそう言えることだとわたくしは思うから…』
最後に母は『わたくしたちもまだ模索しているところなのよ。いつか、この世を去る時にエディスとは真実の愛だったと思えればいい』そう言った。
私もそう思う。人生最後の時まで分からない方が楽しいだろう。
私も母の様に努力しよう。お互いを尊重し、愛しあいながらいつの日か彼が真実の愛で運命の恋だったのだと言えるように……。
嬉しくてしょうがない顔を隠しきれていないトレインと違って、マーカス・デモスト侯爵は顔面蒼白だ。対照的な顔色を見て、父の口角は少し上がった。
そして、ちらりと見えたエリ―ナ・デモスト侯爵夫人はかつての美貌は衰え、髪も肌も手入れがされていないようだった。
父から聞いた話では社交界に出らず屋敷に軟禁状態で気鬱になっているらしい。彼女の癇癪でやめる使用人たちが後を絶たず、侯爵はとうとう部屋の一角から出ないように指示したらしい。
前侯爵夫妻はことあるごとにエリ―ナを責め立て、そのストレスの所為で自慢だった金髪も今では白髪交じりの老婆のようだった。
対して母は、父の愛情を一身に受けた所為か。年々若返っている様な気がする。あまりの仲睦まじさに周囲からはまた子供ができるのではないかと噂されるほどだ。
でも残念ながら、父は体の弱い母を大切にしているから、弟妹ができる事は無いだろう。私を産んだ時に母は体を壊して生死を彷徨った事がある。
その際に子供よりも母の命を優先するように言ったぐらいだ。それを聞いて軽くショックを受けたのは仕方がない。父にとって母より大切な存在はないらしい。
客間に案内して、本題を父が切り出した。
マーカス・デモスト侯爵は既に何を言われるのか予想していたようで、ひたすら養い子トレインの不始末を詫びていた。
当事者のトレインはきょとんとした表情で養父の侯爵が頭を下げていることが不思議なようだった。
「どうして、侯爵の義父上が伯爵に頭を下げるのですか?」
「馬鹿者!伯爵家は王族なのだ。家格の問題ではない!そんな事も知らなかったのか!」
「えっ?」
「先々代の伯爵に王女が降嫁している。現伯爵も王位継承権を持っている。伯爵なのは、陞爵を拒んでいるからで、家格が低いわけではない!」
侯爵の言葉にトレインは暫く固まっていたが、満面の笑みを私に向けて、
「じゃあ、僕が君と結婚したら僕も王族の一員になるってことなのか?アーチェリー早く結婚しよう」
何処までも単純で目先の事にしか興味がないトレインは、自分がしでかした事の重大さをわかっていなかった。
「結婚なんかするわけがないでしょう。貴方が学園に居る間、別の女性徒と交際しているのを知っています。私以外にも何人にも同じように言ったそうですね。『君こそが真実の愛だ』と…」
そして私は父が調べた証拠の写真や資料をトレインに見せた。トレインの顔はみるみる内に青ざめて、最後には白くなった。
顔色を忙しく変えていくトレインの隣に座っている夫人の方はもっと白くなってまるで死人の様だった。
どうやらこの計画はトレインを使って侯爵家から出る為に夫人が立てたものだった。
いくら社交界に出られなくてもかつての侯爵夫人だった母オードリーがどの貴族に嫁いだか調べようとしたら調べられるのに…もしかしてトレインに忠告していなかったのだろうか。
──伯爵家には拘わるなと…。
私の隣の母は顔を扇で隠しながら、にっこりと微笑みながら、
「デモスト侯爵夫妻。二度と拘わらないように、父が誓約書を書かせたと伺っておりますわ。これは違反ですわよね。どうやって償っていただけるのでしょう」
美人の脅しの微笑みは迫力があるなあと感心しつつも、気になるのは父の反応。
母の顔をうっとりと眺めていたかと思うと、不敵な笑みを浮かべて、
「オードリー。心配しなくても後の事はパスカルが上手く処理するよ。侯爵夫人は今日にでも自領に帰って頂けるさ。二度と会う事はない。なにせ向こうで前侯爵夫人が侯爵夫人が来るのを今か今かと待っているそうだからね」
「ひっ!!」
夫人は小さな声を上げて、真っ青な顔は更に白くなった。
前侯爵夫人はエリ―ナを憎んでいる。デモスト侯爵家が失墜したのは全て彼女の所為だと思っているからだ。でもその半分は自分の息子の所為なのに、都合よく忘れているのだろう。
それに私を溺愛している兄パスカルが侯爵にきついお灸をすえる事も確実なので、私はトレインの震えて鼻水を流しながら、父に懇願している姿を見れただけで少し溜飲が下がった。
ちょっと煽てられて、告白されていい気になっていたのは私も同罪だ。なまじ私の周りにいい男が揃い過ぎていたからなのか。だから直ぐに騙された。
これからはもっと人を見る目を養おうと思っている。
侯爵と父は今後の慰謝料の話をして、その日は終わった。
晩餐までの時間、母と父はいつものように手を繋いで中庭を散歩している。
何気ない日常だけれど、私にはとても眩しく感じた。
いつの日か私にもああやって隣を一緒に歩いてくれる人が出来るだろうか?
今は失恋したばかりで次のことなんて考えられないけれど、きっと私にもそんな出会いがあるかもしれない。
そう思う事にした。
沈む夕日を見ながら、幼かった初恋に別れを告げたのだった。
あれから2年後、私は父の進める相手と結婚した。
相手は2才年下の伯爵令息で、少し無口で感情表現が苦手な人。
でも、毎日部屋にこっそりと花を飾ってくれる優しい人。
言葉足らずな所は態度で示してくれて、晩餐までの時間は手を繋いで散歩に付き合ってくれる人。
やっと見つけた私の大切な家族…。
母がこっそり教えてくれた。
『真実の愛や運命の恋なんて死ぬ時しか分からないわ。生涯最後まで一緒に共に過ごした夫婦こそがそう言えることだとわたくしは思うから…』
最後に母は『わたくしたちもまだ模索しているところなのよ。いつか、この世を去る時にエディスとは真実の愛だったと思えればいい』そう言った。
私もそう思う。人生最後の時まで分からない方が楽しいだろう。
私も母の様に努力しよう。お互いを尊重し、愛しあいながらいつの日か彼が真実の愛で運命の恋だったのだと言えるように……。
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