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真実は時には残酷なもの

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 流石に貴族達も国が無くなる恐れがある状況では、無暗に反対は出来ないと判断した為、王子のすり替えに賛同するしかなかった。ルドヴィックもまた、認めざるを得ない。


 その後オースティンは、ストラウス公爵家に帰った。


 「エリィ、今日はゆっくり出来たかい?」


 出迎えたエレオノーラの額に口付けを落とすと、軽く抱きしめた。


 タッタッタッ…  


 元気な足音が公爵家のエントランスホールに響き渡ると、


 「「お父様!お帰りなさい」」


 二人の子供が元気よく飛び付いてきた。


 「コラッ!二人共、ダメだろう。危ないじゃあないか。お母様は今、大切な身体何だから、ぶつかったりしたら大変なことになるんだよ」


 オースティンは、二人の子供に言い聞かせるように叱った。


 「ふふふっ元気な事はいいけれど、二人共お行儀が悪いですよ。パトリックを見習わなくてはね」


 エレオノーラは、子供達を優しく抱き締めながら、その頬に口付けた。


 「さあ、パトリックもいらっしゃい…」


 おずおずと様子を見ながら、パトリックもその輪の中に入ってくる。


 まだ、10才に満たない子供。

 
 親の愛情がまだまだ恋しい頃だ。


 なのに、彼には両親がいない。


 彼の両親は、不慮の事故で亡くなっている。神殿がその後彼を保護し、匿っていた。この国の正統な後継者。


 エスメローダが後ろ手に持っていた物をエレオノーラに差し出した。


 「はい、お母様にあげる」


 それはラナンキュラスの花だった。


 幼い頃に一度だけ、ルドヴィックが贈ってくれたことがある。あれは10才の誕生日。彼からの初めての贈り物だった。


 ルドヴィックからすれば単なる誕生日の贈り物だったのだろうが、エレオノーラにとって特別な思い出となった。


 そして、何か失態を犯したオースティンを慰める為に公爵邸に咲いていたラナンキュラスの花を渡したこともある。


 エレオノーラに花を渡して、エスメローダは恥ずかしそうにエリュックやパトリックらと駆けていった。


 兄オルドレインの生まれたばかりの男の子を見に行ったのだ。


 「エリィ…話があるんだが」


 オースティンは、エレオノーラを彼女の自室に誘った。


 自室にあるソファーに腰かけると、オースティンは王宮での会議の内容をエレオノーラに話して聞かせた。


 「それでルドヴィックが君に会いたいと言っている。どうしたい?会いたくないなら…」

 「いいえ、会います。これが最後となるかもしれませんから会って今後の事を話し合わなければなりません」


 オースティンの言葉は途中でエレオノーラの言葉に遮られた。


 エレオノーラの表情から決意は固いのだと理解したオースティンは、「会わなくてもいい」と言う言葉を飲み込んだ。


 「何かあったらいけない。私もついて行くから安心するといい」

 「ありがとうございます」


 エレオノーラには、ルドヴィックに知らせていない事がある。


 流産したと判ってから、ルドヴィックはあからさまに態度を変えた。


 花や菓子、装飾品などの贈り物をしてくるようになったのだ。それは贖罪の気持ちからなのか単に後ろめたさを誤魔化す為にした事なのかは分からないが、当時のエレオノーラにとって煩わしい以外の何物でもない。


 医師からの薦めでエレオノーラは避妊薬を飲んでいた。


 それは、何度も流産や死産を繰り返せば体の弱いエレオノーラにとって命取りになると言われたからだ。


 エレオノーラの担当医師はマーガス・トレインだった。


 なのに、別の医師ロイド・ゴードンが偽りの診断をルドヴィックを伝えた。


 それだけ、エレオノーラの事に関心がなかったという証拠。気にかけていたのなら、エレオノーラの主治医が誰なのか直ぐに調べればわかる事なのに、ルドヴィックはメディアに唆されて、ロイドの言葉を鵜呑みにした。


 もしかしたら、自分の子供かもしれないメディアの腹の子を世継ぎにしたいという気持ちが強かったのだろう。


 オースティンの行方が分からなくなり、一月後にルドヴィックは即位した。


 だが、エレオノーラは王妃の地位に着いても、世継ぎの問題はついて回る。ルドヴィックとの閨事は回避できる問題ではない。


 月に数回とはいえ望まぬ同衾はエレオノーラの心と体を傷つけていったのだ。


 そして、メディアが懐妊しているという事実が発覚した。


 彼女の父親がオースティンで無い事をエレオノーラは知っている。オースティン付きの侍女が彼の命で知らせて来たからだ。


 誰とどんな関係だったのかも……。


 メディアの元に誰が通っているのかも全てエレオノーラに伝える様に指示していた。


 流産したあの日、ルドヴィックとメディアの間にあった情事もエレオノーラの耳には入っている。


 はっきり言って気持ち悪いとしか思えない。


 エレオノーラの心には既にルドヴィックは捨てたはずの遠い過去の初恋の相手でしかなかった。


 それだけの事をルドヴィックにされたのだ。


 当然、許す筈もなく、その上、メディアの懐妊が判るとその子供を引き取って、エレオノーラに育てさせたいと言い出した。


 エレオノーラは拒絶した。


 ルドヴィックは、何度も頭を下げたが、誰の子供か知っているエレオノーラには到底受け入れられなかった。


 だから、エレオノーラはルドヴィックに問うた。


 「一体、誰の子供なのでしょうね?」


 それは賭けに近いもので、ルドヴィックがもしこの時、ほんの僅かに疑って、メディアという女を調べればわかった事なのに、それすらもしなかった。


 そして、2カ月程経った頃にいつも以上に酒を飲んで酔っていたルドヴィックは、エレオノーラの寝室にやって来て、事に及んだ。


 急な事で、エレオノーラは何時も飲んでいる避妊薬を飲むことが出来なかった。


 その時授かった子供がエスメローダなのだ。


 本当は、双子なのではない。


 何度も流産しかけた挙句、未熟児として生まれたエスメローダは、他の子共よりも成長が遅い。


 そして、オースティンとの間に生まれたエリュックは本当に双子だった。しかし、生まれると同時にもう一人は死産した。


 オースティンと相談して、エスメローダの出産記録をすり替えた。その事は隣国のハーメリック国王も承知している。


 エスメローダの将来を考えた時、どうしてもルドヴィックには父としての責務を果たして貰わねばならない。





 ──愛しい我が子に、自分の様な想いはさせたくない。


 

 エレオノーラはそう考え、ルドヴィックに対面する事にしたのだ。
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