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家族の団欒
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ストラウス公爵邸はその日、何年ぶりかの賑やかで明るい笑い声が聞こえている。
勿論、普段もオルドレインが28才と云う遅い結婚を果たしてから新しい家族が増え、公爵邸は子供達の笑い声が絶えないのだが、今日はいつもよりもっと特別な日。
それは、長らく帰って来れなかったエレオノーラが、夫と子供達を連れて帰ってきたからだ。
オルドレインが帰宅すると、既に子供たちの賑やかな笑い声と父の明るい声が聞こえてくる。
……随分と楽しそうだ。
オルドレインの口元も知らずに綻ぶ。
10数年前にエレオノーラがオースティンの婚約者に選ばれた時の事をオルドレインは思い出す。
アマーリエ亡き後、エレオノーラは公爵家の癒しの様な存在として、使用人らとも仲良く過ごしていた。
明るく少しどこか抜けているアマーリエと違って、エレオノーラは母親がいない為か、しっかり者に育った。
母譲りの容姿で笑顔を絶やすことないその存在こそが、父やオルドレインにとって愛しい存在自体となっている。
しかし、王族の婚約者に選ばれると次第に忙しくなり、兄妹二人で過ごす時間が減っていった。酷い時は、公爵邸ではなく、オースティンの執務室で会うほどに……。
それでも厳しい妃教育を頑張っているエレオノーラを励ましながら、常に王家に嫁がせることを父エイドリアンと心配し悔やんでいた。
いくら、オースティンが優秀でもエレオノーラが努力家でも、世の中にはどうにもならない事は多々あるのだと。
それが的中するかの様に、オースティンとの婚約は解消され、弟王子ルドヴィック殿下と新たな婚約をすると、エレオノーラから笑顔が次第に消えていった。
エレオノーラが幼い頃からルドヴィックを慕っていたのは分かっていたが、何年もオースティンの傍で甘やかされる様に過ごしてきたエレオノーラの心が揺れている事に気付いたオルドレインは、親友の背を押す事にしたのだ。
二人が神殿の懺悔室で会う事を勧めたのもオルドレインだが、それも妹と親友が何時の日にかもう一度結ばれる事を願って、せめてもの兄心のようなものだった。
あの時は、まさかこんな日が来るとは夢にも思わなかった。
そこまでルドヴィックが愚か者だと考えもしなかったのだ。
結果的にルドヴィックは、エレオノーラを手放した。それも最悪の形でだ。
今も思い出すだけでオルドレインの心にどす黒い怒りが渦巻いてくる。
離縁を決心して、神殿の祭事に黒いセントロゼリアを花壇に奉げた時、痩せて憔悴しきったエレオノーラの姿をオルドレインは生涯忘れないだろう。
あの時は、まだ何の力も無かったが今は違う。もう、王家に振り回されるのは御免だ。
オルドレインに女子が産まれたなら、その子をメディアが産んだ第一王子パトリックに嫁がせるように打診があった。
幸いな事にオルドレインの子は二人とも男の子で、二月前に生まれた子供も男子だった。
妻のシャーロットは女の子を切望していたが、正直オルドレインは男子が産まれてホッとしたのだ。
妻には申し訳ないが、男で良かった。女なら王家に差し出さなければならない。身勝手かも知れないが、あのメディアの産んだパトリック王子には嫁がせたくない。
それがオルドレインの本音なのだ。
メディアの産んだパトリック王子は傲慢で癇癪持ちだった。その所為で、多くの貴族子息や令嬢から倦厭されている。
些細な事で怒り出したり、気に食わない者は直ぐに排除する。今や貴族の間でもその素行が問題になっていた所だった。
そこに降って湧いたような大公家のパトリックを王太子に据えるという案は、他の貴族にとって喜ばしい事なのだ。
未来の暴君になる可能性の高い、メディアのパトリックよりも正当な血筋のパトリックが玉座に着くことを皆願っっている。
オルドレインはそんな事を考えながら、皆が集まっている食堂の扉に手を掛けた。
扉を開けたオルドレインの目には、温かく賑やかな家族の団欒が広がっていた。
勿論、普段もオルドレインが28才と云う遅い結婚を果たしてから新しい家族が増え、公爵邸は子供達の笑い声が絶えないのだが、今日はいつもよりもっと特別な日。
それは、長らく帰って来れなかったエレオノーラが、夫と子供達を連れて帰ってきたからだ。
オルドレインが帰宅すると、既に子供たちの賑やかな笑い声と父の明るい声が聞こえてくる。
……随分と楽しそうだ。
オルドレインの口元も知らずに綻ぶ。
10数年前にエレオノーラがオースティンの婚約者に選ばれた時の事をオルドレインは思い出す。
アマーリエ亡き後、エレオノーラは公爵家の癒しの様な存在として、使用人らとも仲良く過ごしていた。
明るく少しどこか抜けているアマーリエと違って、エレオノーラは母親がいない為か、しっかり者に育った。
母譲りの容姿で笑顔を絶やすことないその存在こそが、父やオルドレインにとって愛しい存在自体となっている。
しかし、王族の婚約者に選ばれると次第に忙しくなり、兄妹二人で過ごす時間が減っていった。酷い時は、公爵邸ではなく、オースティンの執務室で会うほどに……。
それでも厳しい妃教育を頑張っているエレオノーラを励ましながら、常に王家に嫁がせることを父エイドリアンと心配し悔やんでいた。
いくら、オースティンが優秀でもエレオノーラが努力家でも、世の中にはどうにもならない事は多々あるのだと。
それが的中するかの様に、オースティンとの婚約は解消され、弟王子ルドヴィック殿下と新たな婚約をすると、エレオノーラから笑顔が次第に消えていった。
エレオノーラが幼い頃からルドヴィックを慕っていたのは分かっていたが、何年もオースティンの傍で甘やかされる様に過ごしてきたエレオノーラの心が揺れている事に気付いたオルドレインは、親友の背を押す事にしたのだ。
二人が神殿の懺悔室で会う事を勧めたのもオルドレインだが、それも妹と親友が何時の日にかもう一度結ばれる事を願って、せめてもの兄心のようなものだった。
あの時は、まさかこんな日が来るとは夢にも思わなかった。
そこまでルドヴィックが愚か者だと考えもしなかったのだ。
結果的にルドヴィックは、エレオノーラを手放した。それも最悪の形でだ。
今も思い出すだけでオルドレインの心にどす黒い怒りが渦巻いてくる。
離縁を決心して、神殿の祭事に黒いセントロゼリアを花壇に奉げた時、痩せて憔悴しきったエレオノーラの姿をオルドレインは生涯忘れないだろう。
あの時は、まだ何の力も無かったが今は違う。もう、王家に振り回されるのは御免だ。
オルドレインに女子が産まれたなら、その子をメディアが産んだ第一王子パトリックに嫁がせるように打診があった。
幸いな事にオルドレインの子は二人とも男の子で、二月前に生まれた子供も男子だった。
妻のシャーロットは女の子を切望していたが、正直オルドレインは男子が産まれてホッとしたのだ。
妻には申し訳ないが、男で良かった。女なら王家に差し出さなければならない。身勝手かも知れないが、あのメディアの産んだパトリック王子には嫁がせたくない。
それがオルドレインの本音なのだ。
メディアの産んだパトリック王子は傲慢で癇癪持ちだった。その所為で、多くの貴族子息や令嬢から倦厭されている。
些細な事で怒り出したり、気に食わない者は直ぐに排除する。今や貴族の間でもその素行が問題になっていた所だった。
そこに降って湧いたような大公家のパトリックを王太子に据えるという案は、他の貴族にとって喜ばしい事なのだ。
未来の暴君になる可能性の高い、メディアのパトリックよりも正当な血筋のパトリックが玉座に着くことを皆願っっている。
オルドレインはそんな事を考えながら、皆が集まっている食堂の扉に手を掛けた。
扉を開けたオルドレインの目には、温かく賑やかな家族の団欒が広がっていた。
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