13 / 15
オースティン
しおりを挟む
かの国は行商人が多く、他国との交易によって国を栄えさせてきた。
オースティンは、自身の治療を受けながら、商人として身を立てることにした。
消息が途絶えて、最早生きていないと判断したルドヴィックは、オースティンが死亡した事を一年後、国中に知らせた。
この瞬間からオースティンは、国王ではなく平民となったのだ。
そんなことはどうでも良かった。
オースティンには確固たる目標があったからだ。
それはエレオノーラとの約束を守ること。
助けてもらった商人の店で、下働きとして雇ってもらい、初めて人に頭を下げ教えを請い、商いを学んでいった。
オースティンは貪欲に学び、確実にものすごい速さで身につけていった。
今までは侍女や侍従たちに囲まれて、身支度一つ出来なかったが、頭を打って記憶喪失を装い、親切な商人らと平民としての暮らしに慣れていく内に、一月あればある程度のことは出来るようになっていた。
もともと外国語や読み書き、計算等の能力はある。
商会で重宝される様になると、今度は自分で商会を立ち上げて、自身で交易を始めた。
それは偶然、行商人時代に隣国のハーメリックが襲撃に合っている所に出くわしてしまい、オースティンの運命が変わっていくことになる。
旧友の窮地に見て見ぬ振りも出来ないオースティンは、結局、その手に再び剣を握って応戦した。
結果、襲撃者らを取り押さえられたが、褒賞を与えると言われて、ハーメリックの御前に召されたのが運の尽き、ハーメリックは、
『おや?行方不明の死者殿が、こんな所にいるとは驚きだ』
そう言って、以降オースティンを何かと宮中に呼び出すものだから、当然、隣国の貴族は訝しむ。
そんな事などお構いなしに、ハーメリックは強引にオースティンに爵位を与えて、囲い込むことにした。
オースティンもエレオノーラとの将来に爵位は何れ必要になるだろう。そう考えて了承したのだ。まあ、しつこいハーメリックの勧誘に負けてしまったという点は否めない。
こうして、オースティンは隣国で男爵から侯爵までのし上がっていった。
そんな時、母国の噂話が舞い込んで来たのは……。
弟王ルドヴィックの愚行を耳にした時には、頭の血がキレそうになるほど怒りが湧いて、今すぐにルドヴィックを殴り倒してエレオノーラを救い出したかった。
しかし、彼女からの合図はない。
どうすることも出来ないまま時だけが過ぎていったある日、母国の式典に参加する事になったハーメリックは、従僕の一人としてオースティンを伴った。
『気になる彼女の様子を見に行けばいい』
ハーメリックは面白そうにオースティンにそう告げたのだ。
何でも器用に熟すハーメリックにとって、オースティンの存在は退屈を紛らわせる娯楽の様なものだったのかもしれない。
ともあれ、オースティンはハーメリックに勧められるままに、従僕の一人となって母国に秘密裏に帰国したのだ。
神殿での式典で久々に見たエレオノーラの変わり果てた姿に驚いた。
彼女の幸せを願っていたのに……。
こんな痩せ細って顔色の悪い痛々しい彼女を見るくらいなら、父王に逆らってでも連れて逃げれば良かったのかとオースティンは後悔した。
そして、最後に神殿の祭壇にエレオノーラが捧げた花は黒いセントロゼリアだった。
オースティンにはその花が今のエレオノーラの境遇を示しているように見えたのだ。
───誰か私をここから出して……。
誰もいなくなった神殿の祭壇の捧げられた花を見て、オースティンは言葉にできないエレオノーラの心の内を知った気がした。
その夜、密かに公爵邸を訪ねたオースティンは、公爵にエレオノーラを隣国に連れて行く計画を話す。だが、オルドレインには話さない事を公爵に約束させられた。
親として将来ある息子を巻き込むことを躊躇ってのことだった。
次の日エレオノーラは予定通り、王宮を去り、久々に公爵邸に帰ってきた。その日が家族として最後の夜になるとも知らないで、エレオノーラもオルドレインも家族揃っての団欒を楽しんでいた。
翌日、エレオノーラは公爵領に向けて馬車を走らせていた。
その背後に魔の手が潜んんでいることも知らずに、馬車はゆっくりと森を抜け、山岳地帯の細い道に差し掛かった時にそれは現れた。
覆面姿の男達と一緒に破落戸の様な風体をした男達に馬車は囲まれてしまったのだ。
オースティンは、自身の治療を受けながら、商人として身を立てることにした。
消息が途絶えて、最早生きていないと判断したルドヴィックは、オースティンが死亡した事を一年後、国中に知らせた。
この瞬間からオースティンは、国王ではなく平民となったのだ。
そんなことはどうでも良かった。
オースティンには確固たる目標があったからだ。
それはエレオノーラとの約束を守ること。
助けてもらった商人の店で、下働きとして雇ってもらい、初めて人に頭を下げ教えを請い、商いを学んでいった。
オースティンは貪欲に学び、確実にものすごい速さで身につけていった。
今までは侍女や侍従たちに囲まれて、身支度一つ出来なかったが、頭を打って記憶喪失を装い、親切な商人らと平民としての暮らしに慣れていく内に、一月あればある程度のことは出来るようになっていた。
もともと外国語や読み書き、計算等の能力はある。
商会で重宝される様になると、今度は自分で商会を立ち上げて、自身で交易を始めた。
それは偶然、行商人時代に隣国のハーメリックが襲撃に合っている所に出くわしてしまい、オースティンの運命が変わっていくことになる。
旧友の窮地に見て見ぬ振りも出来ないオースティンは、結局、その手に再び剣を握って応戦した。
結果、襲撃者らを取り押さえられたが、褒賞を与えると言われて、ハーメリックの御前に召されたのが運の尽き、ハーメリックは、
『おや?行方不明の死者殿が、こんな所にいるとは驚きだ』
そう言って、以降オースティンを何かと宮中に呼び出すものだから、当然、隣国の貴族は訝しむ。
そんな事などお構いなしに、ハーメリックは強引にオースティンに爵位を与えて、囲い込むことにした。
オースティンもエレオノーラとの将来に爵位は何れ必要になるだろう。そう考えて了承したのだ。まあ、しつこいハーメリックの勧誘に負けてしまったという点は否めない。
こうして、オースティンは隣国で男爵から侯爵までのし上がっていった。
そんな時、母国の噂話が舞い込んで来たのは……。
弟王ルドヴィックの愚行を耳にした時には、頭の血がキレそうになるほど怒りが湧いて、今すぐにルドヴィックを殴り倒してエレオノーラを救い出したかった。
しかし、彼女からの合図はない。
どうすることも出来ないまま時だけが過ぎていったある日、母国の式典に参加する事になったハーメリックは、従僕の一人としてオースティンを伴った。
『気になる彼女の様子を見に行けばいい』
ハーメリックは面白そうにオースティンにそう告げたのだ。
何でも器用に熟すハーメリックにとって、オースティンの存在は退屈を紛らわせる娯楽の様なものだったのかもしれない。
ともあれ、オースティンはハーメリックに勧められるままに、従僕の一人となって母国に秘密裏に帰国したのだ。
神殿での式典で久々に見たエレオノーラの変わり果てた姿に驚いた。
彼女の幸せを願っていたのに……。
こんな痩せ細って顔色の悪い痛々しい彼女を見るくらいなら、父王に逆らってでも連れて逃げれば良かったのかとオースティンは後悔した。
そして、最後に神殿の祭壇にエレオノーラが捧げた花は黒いセントロゼリアだった。
オースティンにはその花が今のエレオノーラの境遇を示しているように見えたのだ。
───誰か私をここから出して……。
誰もいなくなった神殿の祭壇の捧げられた花を見て、オースティンは言葉にできないエレオノーラの心の内を知った気がした。
その夜、密かに公爵邸を訪ねたオースティンは、公爵にエレオノーラを隣国に連れて行く計画を話す。だが、オルドレインには話さない事を公爵に約束させられた。
親として将来ある息子を巻き込むことを躊躇ってのことだった。
次の日エレオノーラは予定通り、王宮を去り、久々に公爵邸に帰ってきた。その日が家族として最後の夜になるとも知らないで、エレオノーラもオルドレインも家族揃っての団欒を楽しんでいた。
翌日、エレオノーラは公爵領に向けて馬車を走らせていた。
その背後に魔の手が潜んんでいることも知らずに、馬車はゆっくりと森を抜け、山岳地帯の細い道に差し掛かった時にそれは現れた。
覆面姿の男達と一緒に破落戸の様な風体をした男達に馬車は囲まれてしまったのだ。
321
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をしておけば
あんど もあ
ファンタジー
王太子アントワーヌの婚約者のレアリゼは、アントワーヌに嫌われていた。男を立てぬ女らしくないレアリゼが悪い、と皆に思われて孤立無援なレアリゼ。彼女は報われぬままひたすら国のために働いた……と思われていたが実は……。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』
ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、
偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢
シャウ・エッセン。
「君はもう必要ない」
そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。
――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。
王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。
だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。
奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、
一人に負担を押し付けない仕組みへ――
それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。
元婚約者はようやく理解し、
偽ヒロインは役割を降り、
世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。
復讐も断罪もない。
あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。
これは、
選ばれなかった令嬢が、
誰の期待にも縛られず、
名もなき日々を生きることを選ぶ物語。
嘘の誓いは、あなたの隣で
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。
けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。
噂、沈黙、そして冷たい背中。
そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、
一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。
――愛を信じたのは、誰だったのか。
カルバンが本当の想いに気づいた時には、
もうミッシェルは別の光のもとにいた。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる