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エレオノーラの行方
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馬車の外でキーンと剣と剣が交わっている音が聞こえてくる。
段々とその音が激しさを増して、遂にはピタリと止んだ。
静まり返った外から一人の男の声がエレオノーラの耳朶を打つ。
懐かしいその声にエレオノーラは歓喜した。
「オースティン陛下…」
その呟きに呼応するように、
「エレオノーラ約束通り迎えに来たよ」
馬車の扉が開き、そこにはエレオノーラが長い間待っていた人物が手を差しだしている。
エレオノーラはその手に自分の手を兼ねた瞬間。
掴んでグイッと体を力強く引き寄せられた。
「ああ…会いたかった。長かった。この数年が永年の様に感じられたよ」
「わたくしも…」
オースティンの言葉にエレオノーラも頷いた。
二人は暫し、離れ離れになった長い月日を埋めるかのように見つめ合っていた。
傍に控えていた護衛から声を掛けられると、オースティンは直ぐに指示を出した。
公爵家から連れてきた侍女や護衛は別の馬車で領地に行かせ、エレオノーラが乗ってきた馬車を崖から落とした。
その際に襲ってきた破落戸の死体も一緒に落としたのだ。
勿論、侍女の予備の服や護衛の服も一緒に。
こうして、エレオノーラは行方しれずとなった。
オースティンはエレオノーラを自分の屋敷に連れ帰ったが、途中意識を手放してしまった。
急いで、医師を呼んで診察させる。
「ご婦人は、身籠っておいでの様です。心当たりはおありですか?」
そう聞かれ、オースティンは静かに頷いた。
この間まで、エレオノーラは弟の妻だった。閨事もあるだろうとは予測していた。が、実際に懐妊したエレオノーラを目の当たりにすると、心の奥がツキンと痛む。
オースティンは、本音を隠して妊娠初期のエレオノーラに出来るだけ優しい言葉を選んだ。今の自分にはそうするしかなかったからだ。
もっと早くにエレオノーラを連れ出せていたら、今、彼女のお腹の子は自分の子だったかもしれない。
そう考えると複雑な心境だった。
それでも、生きて再び彼女と再会出来た事の方が何倍も嬉しい。
オースティンは気持ちを切り替えて、もう一度エレオノーラに告げる。
「誰の子だろうと構わない。これからも変わらず君を愛し続ける。だから、これから残りの人生を俺にくれないか」
エレオノーラもオースティンの必死さは握られた手の強さで理解できた。
オースティンの顔をじっと見つめて微笑んだ。
「わたくしでよければ…」
「他の誰でもない。君だからいいんだ」
オースティンは、寝台に横たわるエレオノーラをゆっくりと着実に優しく抱きしめた。お腹の子が苦しまないように配慮したのだ。
その後、二人は隣国で挙式を挙げた。エレオノーラの顔は既に知られていたが、ハーメリックは特に咎めなかった。
離婚した他国の元王妃が何処で誰と住もうが彼にとってはどうでもいいことで、むしろ自国に優秀な人間が増えた事の方が喜ばしいことなのだ。
エレオノーラは、月足らずで女の子を出産した。
色々な事が重なって、エレオノーラ自身も分かっていない程、心と体が疲弊していたのだろうと医師から言われた。
それでも生まれた娘はすくすくと元気に育っていく。その姿はエレオノーラによく似ていた。
子供の本当の父親が誰であれ、エレオノーラとオースティンにはどうでもよかったのだ。
ようやく、離れ離れになった二つの思いが重なったのだから。
二人は、初めての娘を愛しんで育てた。
オースティンも自分の娘だと思いながら。
初めての子育てを楽しいでいた。
そして、更なる喜びが二人を待っていた。
本当の二人の子供がエレオノーラの腹に宿ったのである。
姉になることを喜ぶ娘。
本当の父となる喜び、再び可愛い赤子を楽しみに待つ日々は3人にとって、幸せな毎日だったのだ。
やがて月満ちて生まれた赤子は、父親に似ていた。
そして、別れた元夫にも似ているのだ。
複雑な想いを胸にエレオノーラは、どうかこの子たちが幸せになれますようにと祈る。
そんな願いも空しく、エレオノーラはまた、母国に足を踏み入れることになった。
段々とその音が激しさを増して、遂にはピタリと止んだ。
静まり返った外から一人の男の声がエレオノーラの耳朶を打つ。
懐かしいその声にエレオノーラは歓喜した。
「オースティン陛下…」
その呟きに呼応するように、
「エレオノーラ約束通り迎えに来たよ」
馬車の扉が開き、そこにはエレオノーラが長い間待っていた人物が手を差しだしている。
エレオノーラはその手に自分の手を兼ねた瞬間。
掴んでグイッと体を力強く引き寄せられた。
「ああ…会いたかった。長かった。この数年が永年の様に感じられたよ」
「わたくしも…」
オースティンの言葉にエレオノーラも頷いた。
二人は暫し、離れ離れになった長い月日を埋めるかのように見つめ合っていた。
傍に控えていた護衛から声を掛けられると、オースティンは直ぐに指示を出した。
公爵家から連れてきた侍女や護衛は別の馬車で領地に行かせ、エレオノーラが乗ってきた馬車を崖から落とした。
その際に襲ってきた破落戸の死体も一緒に落としたのだ。
勿論、侍女の予備の服や護衛の服も一緒に。
こうして、エレオノーラは行方しれずとなった。
オースティンはエレオノーラを自分の屋敷に連れ帰ったが、途中意識を手放してしまった。
急いで、医師を呼んで診察させる。
「ご婦人は、身籠っておいでの様です。心当たりはおありですか?」
そう聞かれ、オースティンは静かに頷いた。
この間まで、エレオノーラは弟の妻だった。閨事もあるだろうとは予測していた。が、実際に懐妊したエレオノーラを目の当たりにすると、心の奥がツキンと痛む。
オースティンは、本音を隠して妊娠初期のエレオノーラに出来るだけ優しい言葉を選んだ。今の自分にはそうするしかなかったからだ。
もっと早くにエレオノーラを連れ出せていたら、今、彼女のお腹の子は自分の子だったかもしれない。
そう考えると複雑な心境だった。
それでも、生きて再び彼女と再会出来た事の方が何倍も嬉しい。
オースティンは気持ちを切り替えて、もう一度エレオノーラに告げる。
「誰の子だろうと構わない。これからも変わらず君を愛し続ける。だから、これから残りの人生を俺にくれないか」
エレオノーラもオースティンの必死さは握られた手の強さで理解できた。
オースティンの顔をじっと見つめて微笑んだ。
「わたくしでよければ…」
「他の誰でもない。君だからいいんだ」
オースティンは、寝台に横たわるエレオノーラをゆっくりと着実に優しく抱きしめた。お腹の子が苦しまないように配慮したのだ。
その後、二人は隣国で挙式を挙げた。エレオノーラの顔は既に知られていたが、ハーメリックは特に咎めなかった。
離婚した他国の元王妃が何処で誰と住もうが彼にとってはどうでもいいことで、むしろ自国に優秀な人間が増えた事の方が喜ばしいことなのだ。
エレオノーラは、月足らずで女の子を出産した。
色々な事が重なって、エレオノーラ自身も分かっていない程、心と体が疲弊していたのだろうと医師から言われた。
それでも生まれた娘はすくすくと元気に育っていく。その姿はエレオノーラによく似ていた。
子供の本当の父親が誰であれ、エレオノーラとオースティンにはどうでもよかったのだ。
ようやく、離れ離れになった二つの思いが重なったのだから。
二人は、初めての娘を愛しんで育てた。
オースティンも自分の娘だと思いながら。
初めての子育てを楽しいでいた。
そして、更なる喜びが二人を待っていた。
本当の二人の子供がエレオノーラの腹に宿ったのである。
姉になることを喜ぶ娘。
本当の父となる喜び、再び可愛い赤子を楽しみに待つ日々は3人にとって、幸せな毎日だったのだ。
やがて月満ちて生まれた赤子は、父親に似ていた。
そして、別れた元夫にも似ているのだ。
複雑な想いを胸にエレオノーラは、どうかこの子たちが幸せになれますようにと祈る。
そんな願いも空しく、エレオノーラはまた、母国に足を踏み入れることになった。
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