婚約者を取り替えたいと言ったのは貴方でしょう。今更元に戻りたいなんてもう遅いですよ

春野オカリナ

文字の大きさ
28 / 93

王子達の沈黙

しおりを挟む
 僕は兄に何を言われているのか理解出来なかった。

 「種付けって、馬や牛じゃあないでしょう。しかもエミュールが彼女が彼女じゃない様な言い方は…」

 失礼だと言おうとしたら、鋭い目線で黙らせられた。

 ランバート兄上は本気だ。

 でも、僕の記憶では、二人の兄達に彼女との接点なんて無かった様な気がする。

 僕が記憶を辿っても間違いなく親しい間柄だとは思えなかった。

 そうしている内に稲妻が走った。

 ガラガラ、ドーン、ピシャッ

 雷鳴の音で体がビクリと反応した。

 「ミュウは雷が苦手だった。大丈夫だろうか」

 (えっ、ミュウ?エミュールの事なのか?)

 ランバート兄上から発せられた言葉に耳を疑った。

 「近いな、何処で落ちた様だな」

 オーガスト兄上が続いた。

 するとランバート兄上の影から黒い蝶が現れた。

 兄上の『お使い』だ。

 「…」

 「…」

 何やら伝言を受け取って、二人の兄上達は無言の会話をした。

 こういう時は僕は何だか除け者にされた様な気分になる。

 「ランバート、後始末は俺様がするから行ってこい」

 「ありがとございます。王太子殿下」

 臣下の礼をすると踵を返して、その場から消えた。

 消えた兄上の方を呆然と見ていると

 「アトラス、ソファーに掛けろ。この後の計画を話す。だが全てが終わったら、エミュール・シュトラウス公爵令嬢は消える。そして、ランバートのエミュールとして残りの人生を歩ませる。お前に問う、エミュールを選ぶか俺様を選ぶかどっちにする?」

 オーガスト兄上の威圧的な態度に僕は狼に狙われている兎の様な気分だった。

 兄が言っている意味が良く解っていた。

 『生か死か』

 その問いに

 「御心のままに王太子殿下」

 臣下の礼を取った僕は所詮、この兄上達の傀儡にしか無かった。

 傀儡は傀儡らしく、兄上達の道具としての役割を果たすのみだ。

 「いい子だ。アトラス英断だよ。誰だって命は惜しいだろう」

 兄上は嘲笑う様な冷たい笑みを見せていた。

 「さて、何から話してやろうか。今から聞くことは他言無用だ。解っているな」

 「はい」

 「お前は『魔女』を覚えているか?」

 突拍子のない質問に僕は戸惑った。

 何故なら『魔女』とは、僕らの叔母上、カーネリアンの母であるメアリージェーン王女の事なのだから。

 あの人と一体どんな関係があるんだろう?

 兄の質問の意図が解らず只、困惑している僕を見ながら、オーガスト兄上はランバート兄上の過去を語っていった。




 「お前、カーネリアン・ドガーズと対等に渡り合えるのか?
あの、化け物と」

 それはナターシャが僕を嵌めた事実を知った時、

 「もう一度、エミュールとやり直したい」

 そうオーガスト兄上に頼んだ時に言われた言葉だった。

 その言葉の意味をまさかこんな事で知ろうとは思ってもいなかった。
 

 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...