婚約者を取り替えたいと言ったのは貴方でしょう。今更元に戻りたいなんてもう遅いですよ

春野オカリナ

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神に見捨てられた国

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 エミュールが今対峙しているのはガルーダ王国第三王子ドイル。

 血の気が多く気に入らなければ殺す事で傍若無人の『血の王子』そう呼ばれている。

 彼はガルーダ王国の将軍の地位に着いていて、黒い髪を無数の三つ編みにし、褐色の肌に赤い血の様な瞳。獣の皮を頭から被った様は、蛮族と呼ばれる姿をそのまま表しているようだった。目の下には朱色の染料で両横に一筋の太い線を描くのは王国の戦士の証なのだ。

 エミュールは国外へ出たことはなかったが、かの国の報告は聞いていた。

 聞いていた通りだわ

 初めて見る王国の人間に息を呑む。

 「私に何の用?」

 「拐かされても随分と強気なんだな。自分の置かれれている状況が分からないのか?」

 「分かっているわ。でも何故、拐う必要がある」

 「ふははは、お前はマルスの加護を持っているらしいが、俺の目的はお前の【聖女】の力だ」

 何故知っているのだろう?【聖女】の加護は国でも一部の人間しか知らないのに…

 東にガルーダ王国、西にドルトン国、北にルーテシア神聖国に囲まれて我が国ロキシニア王国がある。

 ガルーダ王国は『神に見捨てられた国』として有名だ。

 その訳は、かつて神の加護を持った【聖女】がガルーダ王国に実りを授けにやって来た。国王はその【聖女】の清らかさに引かれて、彼女を我が物にし凌辱した。【聖女】は神に使える清らかな身を汚されて自害した。神は自分の神子を死なせた国を赦さなかった。王国を砂漠に変え、必要最低限の実りしか赦さなくなり、王国は痩せた土地に僅かな実りを頼りに細々と暮らしている。

 前の戦争の時の貢女が【聖女】の子孫だと知らなかった王国は、何度も自国に【聖女】の血を持つ者を返す様に要求した。

 それは、王子とシュトラウス公爵家の縁談だが、今更、向こうが勝手に送り込んだ【聖女】の血筋を元に戻せと言われても遅い。

 しかもシュトラウス公爵家はロキシニアでも大切なマルスの加護を持つ家、そう簡単に手放せる訳がない。結局、折り合いが付かず、ガルーダは戦争という手段で【聖女】を取り替えそうとしているのだ。

 そのくらいガルーダの国は疲弊している。

 国民が飢えと渇きに苦しんでいるのは、先々代の国王が【聖女】をよく調べもしないで、他国へ貢女として送り込んだ為、又もや神の怒りを買ってしまい、ここ何年も実りが更に少ない。だから

ーー神に見捨てられた国ーー

 そう呼ばれる所以なのだ。

 どうやら、エミュールを国に連れ帰る事が目的のようだが、巻き込まれた兵士達の命の保証はない。

 エミュールに絶体絶命の危機が訪れていた。
 





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