婚約者を取り替えたいと言ったのは貴方でしょう。今更元に戻りたいなんてもう遅いですよ

春野オカリナ

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朽ち果てた神殿

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 森の中ほどの所に古い朽ち果てた神殿があった。そこはかつて女神を祀っていた神殿で、ガルーダ王国の祭事の中心でもあった。今は廃墟となって誰も見向きもしなくなっている。

 「ここが、昔の神殿跡だ。もし、お前が【聖女】の能力を持っているなら、こんな神殿でも効果はあるだろう」

 やってみろと言わんばかりにエミュールの方を見た。だが、エミュールには解っている。自分一人・・・・では【聖女】の役割は果たせない事を──

 今までも、奇跡的な事をやってのけた時には誰が・・傍にいたのか?それ以外の時は、女神の加護を上手くこなせていない気がする。

 エミュールは過去を思い出した時に、何が自分に足りていないのか解っていた。だから、まだ完全ではない。待たなければならない。奇跡を起こすのは何時だってがいたからだ。

 「今は無理よ。でも方法は解っているわ。この国を助ける事も出来ると思う」

 「ならば、やってみろ。でなければお前を攫って来た意味がない」

 ドイルは焦っていた。今も大勢の国民が飢えと戦ている。一刻も早くそれを解消したい。王子としての責務だとドイルは考えていたのだ。その為にこんなくだらない戦争を起こしたのに、肝心のエミュールが渋っている。誰かをじっと待っているその姿に苛立ちさえ覚えた。

 「いい加減、早くしろ!お前は一体何を待ているんだ」

 怒鳴りながら、剣先をエミュールに向けると。エミュールは、口角を上げて嗤った。

 「結構、短気ね。いいわ。教えてあげる。確かに私は女神の加護を持っている。でもそれは半分よ。もう一人いるのよ。加護を受けている人間が、だから待っているの。その人が来るのを…」

 「出鱈目を言うな!未だかつて加護を二人の人間に与えた事など聞いた事もないぞ!しかも半分だとこれ以上は待てない」

 そう言ってドイルはエミュールの髪を一房切り取った。そしてそれを神殿の女神像の足元に置いたが、何も起こらなかった。

 「そ…そんな…。お前は偽物だ!殺して神の供物にしてやる!!」

 ドイルは血走った目をギラリと光らせ、エミュールに向けて剣を振り下ろした時、外が騒がしくなっていた。

 「敵襲です。早くお逃げください!殿下」

 味方の兵の声にドイルは、剣を持ったままエミュールの腕を掴んで引っ張ったが、エミュールは

 「ここから動かない。何処にも行かないわ!」

 と声を張り上げて抵抗した。

 きっと、私の声を聞いたら、誰かが助けてくれる。ここにいると分かってくれる。

 ドイルは、不敵な笑みを浮かべながら

 「ふん、なら腕を一本切り落としてやる。死ななければいいんだからな」

 剣を振り上げエミュールに振り下ろした瞬間、鮮血が飛び散った。だが、エミュールの物でもなければドイルの物でもなかった。

 それは、誰かがエミュールを庇って、代わりに剣をその身に受けたのだ。

 「う…ううっ」
 
 瀕死の兵は蹲りながら倒れた。兵が被っていた兜が取れてその姿が浮き彫りにされたのだ。

 ──アトラス殿下

 エミュールを庇ったのは逃亡中のアトラスだったのだ。ドイルの剣からはアトラスの血が滴り落ちていた。
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