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エミュールの賭け
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夜になると寒さが身に染みる季節。エミュールは今、ドイルのテントに入れられている。
「まあ、警戒するなよ。俺はお前の【聖女】としての力にしか興味がないから、女としては魅力を感じない」
その言葉にムカッとしている。冷静に考えればホッとする所なのだが、エミュールはそう言った言葉をずっと聞かされていたから、余計に敏感なのだ。
「それは良かったわ。私も貴方の事なんて好みでもないから」
「ははは、お前、結構気が強いんだな。安心しろ、お前の相手は俺じゃあない。俺の兄貴達のどちらかだ。まあ、お前を孕ませて女の子を産ませれば用無しだ。その後、一生幽閉されるかも。もしくはその気の強さで兄貴達に嬲られるかもな。どっちにしろ粋がっていられるのも今だけだ」
「な…やっぱり貴方の国は野蛮なのね。話し合いで解決しようとは思わないの?」
「それを拒絶されたから、戦争になったんだろう。俺達だって戦争なんてしたくはないさ」
「なら、平和的に解決できるのなら、和平を結べるの?」
「まあ、お前の国の対応次第だな。どちらにしろ、お前を本国に送り届けるのが俺の役目だ」
ドイルにそう言われ、エミュールはどうすればこの危機を乗り越えられるのか考えていた。ガルーダ王国にとって、この戦争は本当は国を更に追い込むだけで、利益がある訳でもない。それでも戦争をしてでも【聖女】に拘るのは、それほど危機に瀕しているのだ。
エミュールは一か八かの賭けに出る事にした。
「貴方にお願いがあるの。私の国の兵士をここに置いて行って欲しいの。連れて行けば兵糧が減って、貴方の部下が苦しむだけよ。それに、私だけなら身軽でしょう。きっと我が国の兵が明日この辺りを捜索に来るから、彼らを置いて行けば足止めになる。一石二鳥だわ」
「はは、それで、お前は自分の居場所を兵士に連絡させるつもりか?俺はそこまで間抜けではないぞ!」
ドイルの目の色が変わったが、エミュールの策はこれからだった。目の前の『血の王子』を前にしても臆することなく話を続けた。
「なら、いい方法があるわ。貴方達は私が【聖女】の力を持っていると仮定して動いているわよね。もし違っていたらどうするの?こんなに犠牲を払ってまで戦争したのに、何の利益も得られない。私を王都に連れて行っても貴方は良い笑い者よ」
「なんだと、お前がエミュール・シュトラウスだという事は解っている。貢女の孫だという事もな」
「そうだとしても本当かどうか確かめもしないで連れて行くの?」
「……」
ドイルは暫く考えて、
「なら、試してやる。この近くに古い神殿がある。そこでお前が本当に力を持って持っているのか試そうではないか。もし、間違いならお前をその場で殺して神に還してやる。そうすれば加護が戻るかもしれない」
エミュールの案に不敵な笑みを浮かべながら、神殿に行くことを了承した。
──どうか上手くいきますように
エミュールは心の中で祈りながら、夜を明かしたのだ。
次の日、夜も明けないうちにドイルとエミュールは神殿に向かった。
一方、カーネリアンとランバート達もその後を追う様に神殿に向かうのであった。
「まあ、警戒するなよ。俺はお前の【聖女】としての力にしか興味がないから、女としては魅力を感じない」
その言葉にムカッとしている。冷静に考えればホッとする所なのだが、エミュールはそう言った言葉をずっと聞かされていたから、余計に敏感なのだ。
「それは良かったわ。私も貴方の事なんて好みでもないから」
「ははは、お前、結構気が強いんだな。安心しろ、お前の相手は俺じゃあない。俺の兄貴達のどちらかだ。まあ、お前を孕ませて女の子を産ませれば用無しだ。その後、一生幽閉されるかも。もしくはその気の強さで兄貴達に嬲られるかもな。どっちにしろ粋がっていられるのも今だけだ」
「な…やっぱり貴方の国は野蛮なのね。話し合いで解決しようとは思わないの?」
「それを拒絶されたから、戦争になったんだろう。俺達だって戦争なんてしたくはないさ」
「なら、平和的に解決できるのなら、和平を結べるの?」
「まあ、お前の国の対応次第だな。どちらにしろ、お前を本国に送り届けるのが俺の役目だ」
ドイルにそう言われ、エミュールはどうすればこの危機を乗り越えられるのか考えていた。ガルーダ王国にとって、この戦争は本当は国を更に追い込むだけで、利益がある訳でもない。それでも戦争をしてでも【聖女】に拘るのは、それほど危機に瀕しているのだ。
エミュールは一か八かの賭けに出る事にした。
「貴方にお願いがあるの。私の国の兵士をここに置いて行って欲しいの。連れて行けば兵糧が減って、貴方の部下が苦しむだけよ。それに、私だけなら身軽でしょう。きっと我が国の兵が明日この辺りを捜索に来るから、彼らを置いて行けば足止めになる。一石二鳥だわ」
「はは、それで、お前は自分の居場所を兵士に連絡させるつもりか?俺はそこまで間抜けではないぞ!」
ドイルの目の色が変わったが、エミュールの策はこれからだった。目の前の『血の王子』を前にしても臆することなく話を続けた。
「なら、いい方法があるわ。貴方達は私が【聖女】の力を持っていると仮定して動いているわよね。もし違っていたらどうするの?こんなに犠牲を払ってまで戦争したのに、何の利益も得られない。私を王都に連れて行っても貴方は良い笑い者よ」
「なんだと、お前がエミュール・シュトラウスだという事は解っている。貢女の孫だという事もな」
「そうだとしても本当かどうか確かめもしないで連れて行くの?」
「……」
ドイルは暫く考えて、
「なら、試してやる。この近くに古い神殿がある。そこでお前が本当に力を持って持っているのか試そうではないか。もし、間違いならお前をその場で殺して神に還してやる。そうすれば加護が戻るかもしれない」
エミュールの案に不敵な笑みを浮かべながら、神殿に行くことを了承した。
──どうか上手くいきますように
エミュールは心の中で祈りながら、夜を明かしたのだ。
次の日、夜も明けないうちにドイルとエミュールは神殿に向かった。
一方、カーネリアンとランバート達もその後を追う様に神殿に向かうのであった。
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