【完結】色欲の悪魔は学園生活に憧れる

なかじ

文字の大きさ
18 / 60
第一部

18

しおりを挟む

「有、来たか」
「静海くん。おはよう」

 朝、学校の玄関前で俺は春樹と夏に待ち伏せをされていた。
 二人のまわりにいる生徒達はチラチラこちらを見ながら靴を変え、そそくさと玄関から逃げていく。俺の顔はギリギリ笑ってはいるものの、心の中ではどうしたものかと困っていた。

「おはよう。夏、前にも言ったが出迎えはいらんぞ」
「俺が好きでやってんだから良いだろ」
「いや、出迎えられる側がわりと困っとるんだが……」

 屋上で夏を抱いてから、夏は今まで以上に俺にご執心だ。
 ここ一週間、夏は朝や休み時間のたび俺の元へやって来る。このままではトイレにまで付いてきそうだったので、俺がそれとなく張り付かれるのは困ると伝えてみたのだが、夏がしれっと『俺はお前のものだろ』と言い出したせいで、教室は阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。
 あの時の悲鳴と歓声が混ざった大声は思い出すだけで耳が痛くなる。秋名が上手くフォローしてくれなければ騒ぎは治まらず、俺の鼓膜は裂けていたに違いない。

「春樹も無理せずとも良いぞ」
「え? 無理なんて一切してないけど?」
「顔が青い。具合が悪い時はきちんと病院に行け」
「うん。その時は静海くんを拉致して連れて行くね。抜け駆けされるのは嫌だし」
「俺に支障しかないな……俺ではなく、夏を連れて行け」
「え、嫌」
「……」

 そして『俺はお前のもの騒動』を聞きつけたらしく、春樹まで俺の傍から離れなくなってしまった。まるで少女漫画のヒロインになった気分だ。
 美しいものを侍らすことに悪い気はしないが、目立ってしまうとイウディネが怖い。最近では俺がちょっと何かしただけでお仕置きと言ってイウディネに無体をされる。優位に立ち、俺を翻弄することが楽しくて仕方ないらしい。完璧にSの性癖が覚醒している。

 うっ、その時の情事を思い出しただけで下半身が疼いてきた。俺まで癖になっているんじゃないかこれ……朝もっと強請れば良かった……。

「有、ほら靴変えろ」
「静海くん、今日は朝から体育だよね? グラウンドだったら窓からこっそり応援するね」

 春樹と夏は笑顔で並び合っているが、隣りにいる相手を一切見ようとしない。特に春樹の笑顔は完璧なほど美しいのに、黒いオーラが出ているような幻覚が見えた。

「有、今日の予定はどうなってるんだ?」
「今日は秋名に付き合ってもらってアニメと漫画の店に行った後、予約可能ならコラボカフェにいく予定だな」
「おい待て。コラボのやつは昨日も行ったやつじゃないのか?」
「特典のコースターが全部集まらなかったんだ。何回も行かないと揃わない」
「何か欲しいなら俺が揃えてやるから、その時間を俺に寄越せばいいだろ」
「……」

 何もわかっていない夏に俺は溜息をつく。誰かに、しかも金の力を使ってただ一式揃えてもらうことに意味はないのだ。

 特典のコースターはコラボカフェで食事や飲み物を頼むと一枚ランダムでもらえるもので、可愛いミニキャラが描かれている。ちなみに今回コラボしている俺の好きなゲームはキャラクターが30名も出てくるので、30枚のコースターが存在している。つまり全種類コンプリートするためには最低でも30品食べなければいけない。制限時間は予約制のため一時間。1~2人での参加では一回で30枚揃えるなんてまず無理だ。しかし俺はそれを全て自ら(と秋名の助けにより)手に入れたかった。

 ゲームを愛する人間が必死に胃袋を駆使し、運に頼ってお目当てのものを得る快感を夏は知らない。何と哀れな……。いや、夏が損をしているのではない。その幸せを知っている俺が得をしているのだ。

「ねぇ静海くん、週末の予定はどうなってるの?」
「週末は撮りだめたアニメを見る予定だが?」

 最近忙しすぎて録画しっぱなしだ。早く見ないとHDの容量がパンパンになってしまう。最低でも今期アニメ全てを3話まではチェックして、今期追うアニメを決めなくてはいけない。

「それ僕も見に行って良い?」
「家人がいるのでちと困るな」
「じゃあハードディスクだけ持ってきて、僕の家で見よう?」
「春樹の家か……」
「おい、こいつの家になんて行くな。手が早いから速攻で押し倒されるぞ」
「ナツうるさい」
「ハルは黙ってろ」

 二人の仲は相変わらず悪いままだが、俺と一緒にいようとする二人は自然と顔を合わせることが増えた。そのせいか喧嘩を始めるぐらいには仲が回復している。俺は『ハルが!』『ナツが!』と騒ぐ二人を見て溜息を吐いた。

「仲が良いな……」
「「良くない(ねぇ)よ!」」

 同時に騒ぐ春樹と夏はお互い睨みをきかせ、火花を散らしている。こうなると俺の話など聞いてくれない。それなのにお互いが何か嫌味を言うと絶対に聞き逃さないのだ。そろそろ相思相愛と言っていいレベルに思えるが、言うと怒られるから言わないでおく。

 俺が半ば途方にくれて二人を眺めていると、秋名が校門から手を振ってやって来た。俺を見つけると尻尾のように手がブンブンと大振りになるのが面白い。

「おぉ、秋名、おはよう」
「おはよー! 今日もやってるねぇ~! 一限目は体育だから真っ直ぐ更衣室行こう~!」
「あぁ」
「秋名か。よぉ」
「あぁ、白州くん。おはよう」
「はよはよ~! 二人共朝から元気だよね~」
「バスケ中毒患者と一緒にしないで欲しいな」
「こっちの台詞だ。虚弱もやし」

 ついにお互いを悪口で呼び合い始めた。
 小学生かお前達は……。

「夏、春樹、仲良しなところ悪いが、俺達はもう更衣室に行く。またな」
「「仲良しじゃない(ねぇ)!!」」

 またハモった。
 フンとそっぽを向きながら教室へと踵を返す二人は、相手より先に歩こうと早歩きをし始める。春樹が追い越そうとすれば夏がスピードを上げ、二人は物凄い速さで足並み揃えて階段を駆け上がっていた。
 傍目から見たら物凄い仲良しである。そのうち俺はカムフラージュで、二人が付き合っているという噂が流れそうだ。もし聞かれることがあったら肯定しておこう。その方が多分面白い。

「会長大丈夫かなー。あんな早歩きして」
「多分この後早退するだろうな」
「無茶するなぁ……。毎日よく飽きないよね。俺だったら一週間もしないうちに罵り言葉のレパートリーがなくなる自信ある」
「面倒になると馬鹿アホ間抜けと言い出すぞ」
「小学生かよ」

 全く寸分違わず同感である。

 一限目に体育がある日はまず更衣室に向かい、ジャージを着てから朝礼に出る。その方が効率が良いと俺と秋名の中でお決まりのパターンとなっていた。
 更衣室に行く道中、俺と秋名は廊下で会う全ての生徒達からすれ違いざまに挨拶をされる。以前だったら名を呼ばれるのは秋名だけだったが、俺も呼んでもらえるようになった。認知度が上がったのは夏達や体力測定のせいだろう。しかし、こうやって名を呼ばれると学園の一員になれたように感じられて嬉しかった。

「あの、静海先輩……」
「うむ?」

 俺は名前を呼ばれて立ち止まる。
 そこには緑のネクタイを締めた三人の男子生徒が立っていた。声の主は栗色の髪の、まだあどけない顔つきの少年だ。彼は俺に近付くと金色の紙袋を差し出す。はて、何だろうか?




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...