前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな?

ミミリン

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俺は一体何がしたいんだろう

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あの女は男狂いで、父の死期が迫っていても男を呼びつけいかがわしい事を平気でやってのける女のはずだ。


けばけばしい化粧を施して体の線を露に見せつけ、妖艶な視線で男を虜にすることだけに長けた遇者であるはずだ。


なのに、今俺の屋敷に住んでいるあの女はこうも違うんだ?


優雅なピアノの音がする。

今日はメイドの彼女が居なかった。

と言う事はやはりあの女が弾いてるのだろう。

メイドの時は恭しく演奏していたが、今日は迫力のある音だ。

けれど乱暴ではない。
やはり彼女と同じように奥行きのある演奏だ。


エルヴィスがこの屋敷に来たとき、何故あの女にあそこまで冷遇するのか聞かれた。



君自身は彼女から何かをされたわけではないだろうと。


確かに、あの女がここに来て俺に何か不利益が生じたかと言われれば全くない。


あの女があのメイドであれば、クロエを支えてもらい、むしろ俺にとっては大切な家族を守ってもらい利益となっている。


奴隷のイリスの件も、自分が奴隷になっても構わないような方法でイリスを助け出していた。


てきぱきと食事を作り、裁縫をたしなみ、楽器を演奏する。

人を助け文句も言わない。


それに、美しカーテシーを披露し、耳の聞こえないクロエに言葉を教えている。


あの女が悪女であれば俺の振る舞いが許されたのに、どう考えてもあの女のやっていることは悪女とは程遠いではないか。


…俺は一体何をやってるんだろう…。




疲れた。

今日はこのピアノの音色を聞きながら早く寝よう。

そう思い、目を閉じた。






朝起きると、あの女はすでに朝食の用意をしていた。

化粧は朝からけばけばしい。

派手な化粧だが、よく見ると厚ぼったい訳ではない。

透き通るような肌でまつ毛も一本一本綺麗に上に伸びている。

これは何と表現したらいいのか難しい化粧だ。



「あ…旦那様、おはようございます。」


女は俺に気が付いたようだ。

今まで勘違いをしていた俺の事を馬鹿にするかと身構えていたが、女の方からは何も言ってこない。


「き、昨日は…。…。」

言葉が出てこない。
自分でも何が言いたいのか分からない。



「クロエがあなたと筆談で話がしたいと言ってましたよ。
最近、言葉を沢山覚えて頑張っています。
会話をしてあげてください。」



「クロエが?会話を?」

そう言えば昨日俺に言葉を書いて知らせてきた。

あれはクロエが書いた文字なのか?



「字もとても綺麗です。旦那様も見てあげてください。
本人も喜びます。」


「わ、分かった。」


今日も美味しそうな匂いがする。


「本日、エルヴィス様が来られるのでしたら今茹でているクランベリーのベーグルをお渡ししましょうか?」


「…。」

俺も食べてみたいと思ってしまった。



「あ…けど、やめておきましょう。
素人の料理を旦那様のお友達に振舞うなんてはしたないですね。
さ、クロエとイリスが起きてきます。
騒がしくなるので旦那様はそろそろお出かけになった方が良いですわ。
失礼します。」




俺がまた彼女の皮肉や中傷を言うと思ったのだろ言う

向こうから提案を取りやめてそそくさと場を離れて行った。



今までひどい言葉を一方的に投げつけてきた。

そりゃ俺の顔も見たくないだろうな。



考え込んでいるとエルヴィスが入ってきた。



「エレちゃん、おっはよ~。いい匂いだね~。
この前の料理とデザートものすごく美味しかったよ。
あっ今日はベーグル?なにこれクランベリーが入ってる。
僕の分もあるよね。欲しいなあ。」


彼女は明らかに困った顔をしている。



「すまないが、友がこう言っているから包んでやってくれないか?」

俺が初めて彼女に頼みごと言葉にした。


「え…、あ、はい。じゃあ…。」

彼女は困惑しながらもてきぱきとベーグルを包んでくれた。


「多めに包みました。食べきれなかったら鳥の餌にでもしてください。」

彼女はエルヴィスに少し照れ笑いをしながらベーグルを渡した。

こんな顔をするのか。



能面のような顔と思っていたがそうではなかったんだ。



「行ってらっしゃいませ、旦那様。」

そう俺に言った顔は感情が『無』だった。



いや、俺そのものが彼女の中で『無』なんだろう。


あれだけの事をしたんだ。

俺を見ているようで全く眼中に入っていない事くらい俺にも分かる。



「ああ~このベーグル、中にクリームチーズ入ってる~。
めちゃくちゃうまい…。
良いなあ料理上手の奥方…。」



馬車内で隣に座っているエルヴィスはパクパクとベーグルを口に放り込んでいる。



「おい、もっと味わって食べろ。一つよこせ。」



「ええ~やだよ、ディルはエレちゃんの料理いらないんでしょ?
この前、あんな女の料理なんか食べられるかって怒ってたじゃん。
これは全部僕が食べるんだよ。」





馬車の中で格闘して半分だけエルヴィスからベーグルを奪い取った。




ベーグルはとてつもなく美味かった。


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