前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな?

ミミリン

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我慢は良くないわ

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やっと馬車乗り場まで着いた。


すぐそこまでの距離なのに、ディランがずっと私の腰に手を回しているので緊張ですごく長い時間に感じた。


馬車の中では流石に腰に手を回されることはなかったけど、隣にいるディランはずっと私の手を握り続けていた。


若くてイケメンな男性に半密室空間で触ってもらっている私…。

この時間に料金は発生しないよね。

やだよ、あとでぼったくりの請求とか来ないよね。


いやいや、ディランはホストじゃないから。


関西人らしくひとり突っ込みを脳内で繰り広げている。





それは置いておいて、ディランがこれだけ甘えてくるのは、よっぽど勤務と訓練が辛いんだろうな…。


癒してくれるお姉さんが居るお店も行ってないようだし、手短なところで私に甘えてるのかな。

男はずっと子供で甘えん坊って昔キャバ嬢時代にお客さんが言ってた。


ディランもそう言う事なんだろうな。

全く…ちゃんと男の人とお付き合いしたことないのに何でこんな知識だけあるのかね私は。



「ルキア、疲れていないか?」


「あ、大丈夫。変な顔してた?」


「いや、時々遠くを見てるルキアは寂しそうに見えるから、過去に帰りたくなっているんじゃないかって不安になるんだ。」


「え~、そんなことないわよ。変な心配ね。」



ディラン、私は今キャバ嬢時代のお客さんの馬鹿な男のロマン講座を思い出していただけなの。

しょうもない事ばっかり思い出しててごめんね。


自分があほ過ぎて苦笑すると、ディランの方が切なそうに私の手を握る力を込めていた。







屋敷に着くと、雪はもうやんでいて屋敷の庭はうっすら雪化粧になっていた。


「明日には解けるんだろうね。
室内に入る前にちょっと触っておこうかな。」



「好きにすればいい。
雪が好きなのか?」


「関西の田舎に住んでいた時は割と雪が降る地域だったから、
積もった日はみんなで雪合戦とかして遊んでいたのよ。
雪を見ると色々懐かしい思い出が出てくるものなのね。」

そう言いながら冷たい雪を触る。


「ふふふふ。冷たい。
当り前か…。」

懐かしい感覚。


みんな元気してるかな…。


空を見上げると、今日は新月みたいで月は形を成していなかった。


「こんな寒い日がこの世界にもあるんだね。
息もまだ白いや…。」


空に向かって息を吐くとフワフワと白い湯気のように舞い上がる。


この冷たくてひんやりする空気。

家から閉め出されてた時は寒くて凍えてたけど、おかーはんからもらった温かい部屋で過ごせるようになってからは嫌いじゃなくなってたな。


月はないけど、星は綺麗だ。


違う世界なのに星はあるし月もあるんだよね。



不思議だなあ…。



ディランがじっと私の事を眺めていることに気が付いた。



「さ、もう部屋に入ろうか。
ディランも付き合ってもらってごめんね。
ずっと外で待ってたから体の芯まで寒いでしょう。」



「もう、良いのか?
まだ雪を触っていたいんじゃないか?」


「もう大丈夫。
これ以上触ってたら色々思い出して少し感傷的になりそうだからこの位がいいわ。
行きましょう…おっとっととと。」


足を上手く踏み込めずに履いていたヒールがつるッと滑ってしまった。

ああ、これは尻もちつく体勢だ。

体のバランスが崩れたことは分かったけど、もうどうすることも出来ない。


次に来る衝撃に備えて体をこわばらせ目は勝手に閉じられた。



「ルキア!」


自分の名前を呼ばれたかと思うと、がしっと抱き留められた。



あれ?


地面に叩きつけられる衝撃が来ない…。




ああ、ディランが助けてくれたんだ。



恐る恐る目を開けるとディランの熱い胸板に顔が埋まっている事に気が付く。



この滑りやすい地面で私を抱きかかえて倒れずにいるって、やっぱり軍人さんはすごいな…。



「ディラン、ありがとう。
こんなヒールで雪遊びなんかするからこうなるのよね。
子供じゃないのにね。
さあ、もう大丈夫だから離してくれる?」



軍人と言えど、成人女性を足場の悪い場所で支えるのはしんどいだろう。


申し訳ないなあ。


けど、ディランは離す気配がない。



「えっと、ディラン、もう大丈夫だから…。」


「ルキア…。
君が空を見上げるたびに、過去の世界に帰りたいのではないかと心配になると言ったことがあるな。」


「ん?ああ、そんな話してたかな?」


「俺は嫌だ。
頼む、突然俺のそばから居なくならないでくれ。
ルキアは俺の幸運の女神だ。
突然、過去の世界に帰ったりしないでくれ。」


「過去の世界?ああ、大丈夫でしょ。
戻り方も分からないし、日本のルキアはきっともう死んるわ。
生き返る事も出来ないだろうから心配しなくて大丈夫よ。
中途半端な状態でこの屋敷から何も言わず出ていく不義理な事はしないわ、安心して。」



ディランの立場からすればこれからマックレーン家を復興させるために軍人になったところだもの、突然私に出ていかれたら困るのは当たり前だわ。


いつか、ディランが私を必要なくなるまで、ディランにいい人が出来るまではこの家とも付き合いが出来ればいいんだけどね。



「…。ルキアは俺の気持ちあまり理解しきれていない気がする。」


「ディランの気持ち?」


「そう、俺はルキアが思っている以上に君を…。」


「私を…何かしら?」


ディランがどんな顔をしているのか覗いてみる。


何とも難しそうな顔だ。


眉間にしわを寄せ、口をぎゅっと堅く結んでいる。


はっきり言ってハッピーとは言い難い表情だ。



ディラン、何か色々無理してるのかもしれないな。


突然妻として私がこの家に乗り込んで好き勝手に動いて心配させて…。

ディランはずっと不安定な生活だったわよね。


家については以前より盛り立てているけど、まだ綱渡り状態だもの。



今私の機嫌を損ねてどこかに行かれたら損益は免れないわ。


私が妻という立場にいるから気になる人が居てもそちらには行けないし、女遊びも軍人としてまだ下の階級だからバレたときに出世に響くものね。



色々窮屈な思いをしているのかも。



「ディラン、あまり無理しなくても良いよ。」

あまりにも辛そうな顔をしているからディランの顔をそっと撫でる。


「無理を…無理をしなくていいとはどういう意味だ?」


「色々我慢してるんでしょう?
とても辛そうよ。」



「我慢…。
しているな、色々と。
抑圧していないと驚かせてしまうだろうから。」


「そっか。
あの、私の事はそこまで気にしなくても良いのよ?
デイビット様との生活でお飾りの妻をしていたから、同じ立ち位置になってもそんなにダメージはないわ。
まあ、クロエがいるし世間体は悪いから派手な事はしない方が良いけど。
でも、ディランが心を病むくらいなら息抜きは必要だと思うわ。」



「ルキア?何の話だ?
何故今、父上の名前が出てくるんだ?」


「え?えっと…だから。
まどろっこしく言えないからこんな表現になるけど…。
つまり女性に癒されたり、楽しめる関係を持つ機会を私が居ることで作れないって話よね。
すごく我慢してるでしょう?」



「ルキア、君は何を言ってるんだ?」

ディランの顔が目に見えて青ざめている。


あ~せっかちだからダイレクトな表現しちゃったよね。

もっと良い言い回しがあったよね。

無礼だ!って怒られちゃいそうだ。




「君は、本当に何も分かっていなかったんだな…。」


何か、辛そうな顔から物悲しい顔になっている。


え、ディランちょっと泣きそうになってる?

目が潤んでるけど。

私ダイレクトに伝えて傷ついちゃった的な?

でも、女遊びしたいんでしょ?

までは言ってないんだけどな~。

まあ、ディランからしたら十分言い過ぎだったのかも。



「ごめん、言い過ぎた。表現がダイレクト過ぎたよね。
責める気は一切ないの、男の人なんだもん色々あるよね。
人間誰しも時には思い切ることも大切だし、息抜きも必要だわ。
だから私の存在は気にしなくても良いって言いたかったの。」



途中で誰をフォローしているのか、何が言いたいのか分からないコメントになった。




「もう、いい…。
今日は、もういい。もう休もう。」


ディランは力なく私をそっと地面に下ろしてくれた。



「う、うん。そうだね。
帰って休みましょう。」


先に歩くディランはふらふら、とぼとぼと屋敷に向かっていた。



元気出して、ディラン。



私前世の商売柄、人間の欲求に批判をしたりしないよ。



大切な人を悲しませるのは良くないけどね。


私であればそこまで気にしないから。

あ、既婚者の女性とラブロマンスとかはNGだけど。



そう考えたら、おかーはんはどんな気持ちであの父親の事を思ってたんやろう。


また空を見上げてぼんやり考える。

答えは出ないんだけど。



「ルキア、ほら、風邪をひくぞ。
もう屋敷に入れ。」



「あ、はい。すぐ行きます。」



ディランはちょっと不機嫌そうだが、私を気にかけてくれていた。
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