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ディランからの提案
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ディランに手を引かれ歩いている。
「どこに行くの?」
ディランはパーティ会場とは逆の方向に歩いている。
あっちは馬車の乗り場だ。
私たちが帰りに予約した馬車が見えた。
でも奥の方に待機しているようで、すぐには発車できない感じになっている。
「もう、このまま帰るぞ。」
ディランは何だか怒っている顔で不機嫌そうに言った。
「ええ?まだ挨拶が済んでいない人結構いるんだけど。
ディランだって軍関係の人に挨拶全部終わってないでしょ?
顔を覚えてもらった方が良いんじゃないの?」
「そんなことをしている間に、またルキアがどこかに行ってしまうだろう。」
「まあ、そうかもしれないけど…良いの?
出世が絡んでくるんじゃないの?」
本当は私も妻として挨拶に回るべきなんだけど、私の方はあまり顔を覚えてもらいたくない。
別の女性がディランの妻になった時ややこしいし、女性もディランも好機の目に見られたり、いらぬ同情を買ってしまうからだ。
となると、ディラン1人で挨拶に回ってもらう必要がある。
という事は私も必然的に一人単独行動になる。
別に、私は一人で良いんだけどな。
けど、今日の恰好はまためんどくさいのに絡まれる率が高いからしんどいか…。
「何で、俺がこんなに出世したかったか分かるか?」
モヤモヤ考えていると、ディランは私に質問してきた。
さっきまで怒っていたみたいだけど、今は思いつめた顔だ。
「えっと、マックレーン家のためだよね。
家の格を下げないようにって言う理由だと思ってる。」
「それもある。
だが、もっと重要な事がある。」
「もっと重要な事?」
「俺は、ルキアにふさわしい男になるために軍隊に入った。
それが一番の理由だ。」
「わたしに、ふさわしい?」
「そうだ、今までの最低な男のままだったらルキアの隣に並ぶのはふさわしくなかった。
自信を持ってルキアの傍に居させてもらう資格が欲しかったんだ。
世間から認められ、ルキアにも許される資格を。」
「私に、許される?」
「俺はルキアにひどい振る舞いをした。
君の事を疑い、本当の姿を見ようともせず間違った感情を君にぶつけ続けてしまった。」
「まあ、あの噂も私は自分で正さなかったしそれでいいと思ってたから。
これはデイビット様と私の中で決まった契約でもあったもの。
ディランがそこまで気にする事じゃないわ。
ごめんね、何か色々悩ませちゃってたみたいで。
ディランは今立派な男性よ。
すごくカッコいいし、優しい紳士だわ。
私の事は気にせずもっと自信もってよ。」
もう、そんな過去の事気にしてたなんてびっくりじゃん。
私の許しとか、堅苦しいこと考えずに今のスペックを堂々と自慢すればいいのに。
許すも何もそんな次元の話私は考えてないだけど。
私はディランの懺悔を軽く受け流した。
私の事は取るに足らない些細な事と分かって欲しかったからだ。
けど、ディランはまだ辛そうな顔が続いている。
何で?
もっとライトに行こうよ。
「ルキアは…分かっていない。
俺の気持ちを軽々しく考えているだろう?」
え?ライトに行こうって考え読み取られてた?
「えっと、どうだろう?」
うん、そうだよって言える雰囲気ではない。
「俺との関係はいつも父上との契約だとか、恩返しとなどと言う言葉で片付けているじゃないか。
いつもそうだ。」
「えっと…。」
まあ、確かにそう言われると反論できない。
ディランの立場からしたら、私の恩返しごっこに付き合わせられているって思ってもおかしくない。
そうだよね…。
ディランの気持ちちゃんとくみ取れてなかった。
「ディラン、ごめんね。
私調子に乗ってたかもしれない。
私が不快なら早めにあの屋敷を出ていくことも出来るわ。
ちょうどレイズ君もそんな話していたし。
今途中の仕事を早めに切り上げれば…。」
「何でそこにレイズの話が出てくるんだ。
そうじゃない。そうじゃないんだ…。」
「そうじゃない、とは?」
「ルキアは鈍感すぎる!」
ディランは切ない顔をして私をぎゅっと抱きしめた。
え?何で今抱きしめられるの?
「そうじゃないっていうのは、俺はルキアに触れたくて仕方がないって事だ。
不快に思うはずがないだろう。
指輪を渡したらちゃんと伝えようと思ってた。
これからは、俺の事を父上関係なく、一人の男として見て欲しいんだ。」
「一人の…男性として?」
耳元で喋られると非常に恥ずかしいんだけど…。
「最近ずっとルキアに触れたり、抱きしめたり距離が近かっただろう?」
「う、うん。そだね。」
「ルキアは俺の距離をクロエの愛情表現と同じように思っているだろうが、それは違う。
そんな癒しや安らぎのために触れていたのではない。
俺はルキアを一人の魅力的な女性として触れていた。
これからも一人の男としてルキアに触れたい。
いや、触れるだけでは満足できない。
ルキアと熱を交わしたいんだ。
…今の俺ではダメか?」
何か、今、情報処理できないくらいの情報量だったんだけど…。
ええええ~っと、癒しとかじゃなくて…私と熱を交わす?
つ、つまり、私とエッチな事がしたいって事?
でぃ、ディランが?
私と?
意味が分かると一気に顔が赤くなってしまった。
「ルキア、その様子ならやっと俺の伝えたこと理解してもらたようだな。
俺は父上と違って妻であるルキアに欲情する。
だが、ルキアの事だからこれまで俺をそんな目で見たことがないだろう?
…強引に君の純潔を奪う事はしない。
けど、真剣に考えて欲しいんだ。」
ディランが私から体を離し、顔を覗き込むように視線を合わす。
よ、欲情って言いました?
そんな清廉な身なりをしてエロい単語を出さないで欲しい。
ギャップでくらくらしてしまう…。
私の事をディランがそんな目で見ていたなんて。
信じられ…いや、思い起こせば確かにスキンシップは濃厚だった。
手や髪にキスされたり、でこチューもされてた。
よく抱き着かれて、修道院では注意までされた。
え、私って鈍感なの?
いや、でも、私から触るときはすごい速さで避けたり、困ってたよね。じゃあ、あれは何だったの?
「で、でも、ディランは私が触ると困ってたよね。
嫌だったんじゃないの?」
「ああ、それか。ルキアは不意打ちで距離を詰める時があるだろう。
こちらが意図してないときに触れられると我慢というか、制御が出来なくなるんだ。
親切心で俺に応じてくれているのは分かっている分、己の欲をむき出しにすれば君は逃げ出してしまうと思ったんだよ。」
「お、己の、欲?」
「手や髪だけじゃなくて、君の身体色んな所に口づけを落としたい、それ以上の事をしたいって言う欲の事だ。」
「…。」
ダイレクトに言われて言葉が返せなくなった。
その時、馬車を引く音が近づいてきた。
「マックレーン家の方々ですね、お待たせしました。
予約時よりも早くご帰宅されるという事で馬車を出すのに手こずりましてな。
どうぞ、お乗りください。」
人のよさそうな御車がぺこりと頭を下げた。
「ああ、急に予定変更になったんだ。
すまないな。さあ、ルキア、帰ろうか。」
言葉が出ず、必死に頷くことしかできない。
何でディランはあの会話の後涼しい顔が出来るの?
馬車では、二人並んで座ることになった。
というか、強制的に座らされた。
あんな話の後だから、緊張するし、妙な距離感を保ってしまう。
だって、無茶苦茶意識しちゃうじゃん。
しばらく無言の時間が過ぎる。
ディランは窓から外を眺めているだけだ。
ううう、何か話すにもどの話題をセレクトすればいいのか頭が働かない…。
このままだんまりで屋敷に着くのが一番いい感じか?
「送った指輪だけど。」
「へ?えっと、指輪?」
ディランを意識しすぎて声が裏返ってしまった。
情けない。
いつも気丈でありたいのに。
「声、裏返ってる。」
ディランがそれはそれは綺麗な顔でふわりと笑う。
やめてくれ、心臓がもたんのよ。
処女をからかうな。
というか、さっきディランは私の事を純潔と言ってた。
デイビット様ってば、そんなこともディランの手紙に書いてたって事か。
そこ、息子に伝える必要ある?
未経験で致したことのない女とバレちゃってるのはもうどうしようもない。
けど、いたずらにからかわれるのはいただけません。
「ごめん、からかったわけじゃない。
いつも冷静なルキアが可愛かったから、つい。
この指輪の事、ちゃんと知っていて欲しいと思って。」
そう言いながら、ディランは私の左手をそっと優しく包んだ。
「この指輪、魔力を封じ込める時、相手への思いが強くないと上手く注入できないんだ。
ルキアへの気持ちは、遊びではない。
指輪の色が俺の魔力の色に反映されているだろう?
これが証拠だ。」
たしかに、左手の薬指にはめてもらった指輪はディランの綺麗な瞳と同じ色をしている。
ミントブルーがしっかり発色していてとても綺麗だ。
デイビット様からもらった指輪は濃い深緑で重厚感があったけど、この指輪はすごく鮮やかで心が軽やかになる色だ。
「だから、先ほどの話を真剣に考えて欲しい。
俺がルキアともっと深い関係になると言う事を。」
「わ、分かりました。ちゃんと検討します。」
何故か敬語になってしまう。
その後、ディランはまた窓の外を眺めていた。
けど、手はずっと握られたままだ。
ディランの男らしい大きくて厚みのある手の感触がずっと伝わってくる。
お互い、無言だった。
手を握られ、馬車に揺られながら色々考える。
こう言う話は先延ばしにしても解決しない。
早く決断すべきだ。
ダメならダメと早く伝えなければ失礼に当たる。
私も、ずっと悩み続けるのは性に合わない。
ディランと、男女の関係になる…。
私は嫌なのだろうか?
いや、では、ない。
出会った頃のディランなら絶対拒否していたとは思う。
嫌味で傲慢で自分勝手で悪趣味極まりない最低な男だったからもの。
デイビット様の恩返しがなければ確実に関わっていなかった人種だ。
けど、今のディランは違う。
本当に変わった。
今のディランであれば、断る理由は特にないともう分かってる。
そして、もう一つの考えが私の思考を占領している。
それは、私がこの先ディランと離縁してレイズ君の領地に行くなり、どこか別の国にいくなりどんな選択をしても、私が女である限り女性としての尊厳を傷つけられるリスクはついて回ると言う事だ。
この世界は日本以上に男性社会だ。
以前、ザック子爵にひどい事をされたが、ディランやエルヴィス、イリスのおかげであの程度で済んだ。
みんなが居なければ無事ではいられなかっただろう。
1人で生きていくうえで、こんな幸運が続くとは限らない。
なら、せめて初めての相手は後悔のない人でありたい。
ディランであれば、私を乱暴に扱う事はないと思う。
むしろ、あそこまでのイケメンに初めてをお願いするなら料金が発生しそうなレベルだ。
別にシスターを目指している訳じゃないし、純潔を守るポリシーも特にない。
人生は経験がものを言うし…ディランがここまで言ってくれているのなら…1回だけでもトライしてみよう。
そうだ、前世で通ってたスナックのママも言ってた
『物理的にはシンプルな行為なのよ。男女の身体はパズルのピースみたいなもの。
ぱちっとはまれば完成って事!』
って飲みながら絶叫してたのを思い出した。
そうだ、パズルのピースと思えばいいんだ。
重く考えない。
私の決意は決まった。
「どこに行くの?」
ディランはパーティ会場とは逆の方向に歩いている。
あっちは馬車の乗り場だ。
私たちが帰りに予約した馬車が見えた。
でも奥の方に待機しているようで、すぐには発車できない感じになっている。
「もう、このまま帰るぞ。」
ディランは何だか怒っている顔で不機嫌そうに言った。
「ええ?まだ挨拶が済んでいない人結構いるんだけど。
ディランだって軍関係の人に挨拶全部終わってないでしょ?
顔を覚えてもらった方が良いんじゃないの?」
「そんなことをしている間に、またルキアがどこかに行ってしまうだろう。」
「まあ、そうかもしれないけど…良いの?
出世が絡んでくるんじゃないの?」
本当は私も妻として挨拶に回るべきなんだけど、私の方はあまり顔を覚えてもらいたくない。
別の女性がディランの妻になった時ややこしいし、女性もディランも好機の目に見られたり、いらぬ同情を買ってしまうからだ。
となると、ディラン1人で挨拶に回ってもらう必要がある。
という事は私も必然的に一人単独行動になる。
別に、私は一人で良いんだけどな。
けど、今日の恰好はまためんどくさいのに絡まれる率が高いからしんどいか…。
「何で、俺がこんなに出世したかったか分かるか?」
モヤモヤ考えていると、ディランは私に質問してきた。
さっきまで怒っていたみたいだけど、今は思いつめた顔だ。
「えっと、マックレーン家のためだよね。
家の格を下げないようにって言う理由だと思ってる。」
「それもある。
だが、もっと重要な事がある。」
「もっと重要な事?」
「俺は、ルキアにふさわしい男になるために軍隊に入った。
それが一番の理由だ。」
「わたしに、ふさわしい?」
「そうだ、今までの最低な男のままだったらルキアの隣に並ぶのはふさわしくなかった。
自信を持ってルキアの傍に居させてもらう資格が欲しかったんだ。
世間から認められ、ルキアにも許される資格を。」
「私に、許される?」
「俺はルキアにひどい振る舞いをした。
君の事を疑い、本当の姿を見ようともせず間違った感情を君にぶつけ続けてしまった。」
「まあ、あの噂も私は自分で正さなかったしそれでいいと思ってたから。
これはデイビット様と私の中で決まった契約でもあったもの。
ディランがそこまで気にする事じゃないわ。
ごめんね、何か色々悩ませちゃってたみたいで。
ディランは今立派な男性よ。
すごくカッコいいし、優しい紳士だわ。
私の事は気にせずもっと自信もってよ。」
もう、そんな過去の事気にしてたなんてびっくりじゃん。
私の許しとか、堅苦しいこと考えずに今のスペックを堂々と自慢すればいいのに。
許すも何もそんな次元の話私は考えてないだけど。
私はディランの懺悔を軽く受け流した。
私の事は取るに足らない些細な事と分かって欲しかったからだ。
けど、ディランはまだ辛そうな顔が続いている。
何で?
もっとライトに行こうよ。
「ルキアは…分かっていない。
俺の気持ちを軽々しく考えているだろう?」
え?ライトに行こうって考え読み取られてた?
「えっと、どうだろう?」
うん、そうだよって言える雰囲気ではない。
「俺との関係はいつも父上との契約だとか、恩返しとなどと言う言葉で片付けているじゃないか。
いつもそうだ。」
「えっと…。」
まあ、確かにそう言われると反論できない。
ディランの立場からしたら、私の恩返しごっこに付き合わせられているって思ってもおかしくない。
そうだよね…。
ディランの気持ちちゃんとくみ取れてなかった。
「ディラン、ごめんね。
私調子に乗ってたかもしれない。
私が不快なら早めにあの屋敷を出ていくことも出来るわ。
ちょうどレイズ君もそんな話していたし。
今途中の仕事を早めに切り上げれば…。」
「何でそこにレイズの話が出てくるんだ。
そうじゃない。そうじゃないんだ…。」
「そうじゃない、とは?」
「ルキアは鈍感すぎる!」
ディランは切ない顔をして私をぎゅっと抱きしめた。
え?何で今抱きしめられるの?
「そうじゃないっていうのは、俺はルキアに触れたくて仕方がないって事だ。
不快に思うはずがないだろう。
指輪を渡したらちゃんと伝えようと思ってた。
これからは、俺の事を父上関係なく、一人の男として見て欲しいんだ。」
「一人の…男性として?」
耳元で喋られると非常に恥ずかしいんだけど…。
「最近ずっとルキアに触れたり、抱きしめたり距離が近かっただろう?」
「う、うん。そだね。」
「ルキアは俺の距離をクロエの愛情表現と同じように思っているだろうが、それは違う。
そんな癒しや安らぎのために触れていたのではない。
俺はルキアを一人の魅力的な女性として触れていた。
これからも一人の男としてルキアに触れたい。
いや、触れるだけでは満足できない。
ルキアと熱を交わしたいんだ。
…今の俺ではダメか?」
何か、今、情報処理できないくらいの情報量だったんだけど…。
ええええ~っと、癒しとかじゃなくて…私と熱を交わす?
つ、つまり、私とエッチな事がしたいって事?
でぃ、ディランが?
私と?
意味が分かると一気に顔が赤くなってしまった。
「ルキア、その様子ならやっと俺の伝えたこと理解してもらたようだな。
俺は父上と違って妻であるルキアに欲情する。
だが、ルキアの事だからこれまで俺をそんな目で見たことがないだろう?
…強引に君の純潔を奪う事はしない。
けど、真剣に考えて欲しいんだ。」
ディランが私から体を離し、顔を覗き込むように視線を合わす。
よ、欲情って言いました?
そんな清廉な身なりをしてエロい単語を出さないで欲しい。
ギャップでくらくらしてしまう…。
私の事をディランがそんな目で見ていたなんて。
信じられ…いや、思い起こせば確かにスキンシップは濃厚だった。
手や髪にキスされたり、でこチューもされてた。
よく抱き着かれて、修道院では注意までされた。
え、私って鈍感なの?
いや、でも、私から触るときはすごい速さで避けたり、困ってたよね。じゃあ、あれは何だったの?
「で、でも、ディランは私が触ると困ってたよね。
嫌だったんじゃないの?」
「ああ、それか。ルキアは不意打ちで距離を詰める時があるだろう。
こちらが意図してないときに触れられると我慢というか、制御が出来なくなるんだ。
親切心で俺に応じてくれているのは分かっている分、己の欲をむき出しにすれば君は逃げ出してしまうと思ったんだよ。」
「お、己の、欲?」
「手や髪だけじゃなくて、君の身体色んな所に口づけを落としたい、それ以上の事をしたいって言う欲の事だ。」
「…。」
ダイレクトに言われて言葉が返せなくなった。
その時、馬車を引く音が近づいてきた。
「マックレーン家の方々ですね、お待たせしました。
予約時よりも早くご帰宅されるという事で馬車を出すのに手こずりましてな。
どうぞ、お乗りください。」
人のよさそうな御車がぺこりと頭を下げた。
「ああ、急に予定変更になったんだ。
すまないな。さあ、ルキア、帰ろうか。」
言葉が出ず、必死に頷くことしかできない。
何でディランはあの会話の後涼しい顔が出来るの?
馬車では、二人並んで座ることになった。
というか、強制的に座らされた。
あんな話の後だから、緊張するし、妙な距離感を保ってしまう。
だって、無茶苦茶意識しちゃうじゃん。
しばらく無言の時間が過ぎる。
ディランは窓から外を眺めているだけだ。
ううう、何か話すにもどの話題をセレクトすればいいのか頭が働かない…。
このままだんまりで屋敷に着くのが一番いい感じか?
「送った指輪だけど。」
「へ?えっと、指輪?」
ディランを意識しすぎて声が裏返ってしまった。
情けない。
いつも気丈でありたいのに。
「声、裏返ってる。」
ディランがそれはそれは綺麗な顔でふわりと笑う。
やめてくれ、心臓がもたんのよ。
処女をからかうな。
というか、さっきディランは私の事を純潔と言ってた。
デイビット様ってば、そんなこともディランの手紙に書いてたって事か。
そこ、息子に伝える必要ある?
未経験で致したことのない女とバレちゃってるのはもうどうしようもない。
けど、いたずらにからかわれるのはいただけません。
「ごめん、からかったわけじゃない。
いつも冷静なルキアが可愛かったから、つい。
この指輪の事、ちゃんと知っていて欲しいと思って。」
そう言いながら、ディランは私の左手をそっと優しく包んだ。
「この指輪、魔力を封じ込める時、相手への思いが強くないと上手く注入できないんだ。
ルキアへの気持ちは、遊びではない。
指輪の色が俺の魔力の色に反映されているだろう?
これが証拠だ。」
たしかに、左手の薬指にはめてもらった指輪はディランの綺麗な瞳と同じ色をしている。
ミントブルーがしっかり発色していてとても綺麗だ。
デイビット様からもらった指輪は濃い深緑で重厚感があったけど、この指輪はすごく鮮やかで心が軽やかになる色だ。
「だから、先ほどの話を真剣に考えて欲しい。
俺がルキアともっと深い関係になると言う事を。」
「わ、分かりました。ちゃんと検討します。」
何故か敬語になってしまう。
その後、ディランはまた窓の外を眺めていた。
けど、手はずっと握られたままだ。
ディランの男らしい大きくて厚みのある手の感触がずっと伝わってくる。
お互い、無言だった。
手を握られ、馬車に揺られながら色々考える。
こう言う話は先延ばしにしても解決しない。
早く決断すべきだ。
ダメならダメと早く伝えなければ失礼に当たる。
私も、ずっと悩み続けるのは性に合わない。
ディランと、男女の関係になる…。
私は嫌なのだろうか?
いや、では、ない。
出会った頃のディランなら絶対拒否していたとは思う。
嫌味で傲慢で自分勝手で悪趣味極まりない最低な男だったからもの。
デイビット様の恩返しがなければ確実に関わっていなかった人種だ。
けど、今のディランは違う。
本当に変わった。
今のディランであれば、断る理由は特にないともう分かってる。
そして、もう一つの考えが私の思考を占領している。
それは、私がこの先ディランと離縁してレイズ君の領地に行くなり、どこか別の国にいくなりどんな選択をしても、私が女である限り女性としての尊厳を傷つけられるリスクはついて回ると言う事だ。
この世界は日本以上に男性社会だ。
以前、ザック子爵にひどい事をされたが、ディランやエルヴィス、イリスのおかげであの程度で済んだ。
みんなが居なければ無事ではいられなかっただろう。
1人で生きていくうえで、こんな幸運が続くとは限らない。
なら、せめて初めての相手は後悔のない人でありたい。
ディランであれば、私を乱暴に扱う事はないと思う。
むしろ、あそこまでのイケメンに初めてをお願いするなら料金が発生しそうなレベルだ。
別にシスターを目指している訳じゃないし、純潔を守るポリシーも特にない。
人生は経験がものを言うし…ディランがここまで言ってくれているのなら…1回だけでもトライしてみよう。
そうだ、前世で通ってたスナックのママも言ってた
『物理的にはシンプルな行為なのよ。男女の身体はパズルのピースみたいなもの。
ぱちっとはまれば完成って事!』
って飲みながら絶叫してたのを思い出した。
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重く考えない。
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