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ケイトリーン=ローゼ②
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私への縁談はほとんどなかったのだが、ごく稀に打診があった。
けれどそれは侯爵家の娘という肩書欲しさの弱小貴族ばかりだった。
それでも、練習になるからと顔合わせに行ったこともあるが、私を野蛮人や珍獣を見るかのような眼差しを向けられ不快感だけが残った。
お母様はそんな私を気遣ってくださったようで、変な噂が深まらないように丁重に断りを入れてくださっていた。
貴族・女・男・ルール・振る舞い…
考えても考えても何の答えも出ない。
そんなくだらない鬱々とした時間を過ごすなら体を鍛え上げる方が有意義だと思い、私は更に訓練に励む日々を送った。
気が付くと、進学を迫られる歳になっていた。
答えが決まっている課題や、覚えるだけで良い教科は難なくこなせる。
相手の裏の気持ち察する、周囲の空気を読む、場に合わせた振る舞いといったセンスを問われる事はずっと苦手だ。
と言う事で、
学業と武術を両立できる研究職につける進路を模索していたのだが侯爵令嬢である身分がそれを許してはもらえなかった。
伝統と礼儀を重んじる高位貴族しか通えない女学院への進学を強制的に決められたのである。
数年間の寮生活は必須だった。
伝統と礼儀であれば武術も共通するところなのだろうが、そこはただの女の園だった。
運が悪いことに同じ学年に王族である公爵令嬢も同時に入学したのだが、その令嬢に事あるごとに恥をかかされ、嫌がらせを受けていた。
私が毎回成績上位であること、王族になびかない軍をお父様が率いていることが気に食わなかったのだろう。
堂々と拳を合わせるのであればお互いを分かち合えるのに、彼女は常に陰湿な方法で私を不愉快にさせる。
そんな息苦しい生活もやっと終わりが見えてきた卒業前、お父様に懇願し魔獣退治の訓練に同行させてもらった事があった。
森の奥に魔獣が住んでいる岩場があり、数匹退治した後、更に森奥に進む事となった。
私は軍人ではないのでそれ以上軍の同行は出来ず、退治した魔獣と共に岩場の傍で負傷した軍人と二人で待機するよう言われた。
そして、そこに居るはずのないドラゴン級の魔獣が姿を現したのだ。
勝算はあった。
私の戦闘能力であれば僅差だが私の方が強い。
お父様たちに気づいてもらえるよう狼煙を上げ、魔獣との戦闘に挑んだ。
あれほどお父様から慢心を許さず謙虚であれと言われていたのに…。
気が付けば、私は集中治療室のベッドで寝かされていた。
意識が戻り、お父様からあの日の顛末を教えていただいた。
私は徐々に魔獣に押され、体力が削られていき魔獣からの攻撃を避けきれずに意識を失ったそうだ。
負傷兵が何とか私を引き寄せ、装備していた魔道具と自身の魔力でシールドを張ってお父様たちの応援が来るまで持ちこたえたらしい。
そして、魔獣からの攻撃を左足にもろに受けてしまった私の身体は今までのように自由に動かすことが出来なくなっていた。
リハビリも含めて武術を再開しても短時間の戦闘で足が動かなくなってしまうのだ。
今までの動き方が通用しなくなっていた。
私から武道を取ると何も残らない。
ただ、センスが悪く空気が読めない冴えない女だ。
お父様のお力で女学園を何とか卒業させてもらえたが、私の心は抜け殻だった。
何をしたらいいのか分からない。
ふとした瞬間にあの魔獣との戦闘場面が蘇る。
普段から訓練できていない自分の身体を過信していたから負けたのだ。
自分の力に謙虚であれば他の装備を持って行っていたはずだ。
負傷兵を逃がして応援を呼びに行けばよかったのだ。
負傷兵がかばってくれなかったら今頃どうなっていた?
色々な考えがぼこぼこと沸き上がっては整理できず思考が止まってしまう。
その繰り返しで一日が終わってしまう。
そんな毎日で心が蝕まれていった。
こんな娘が侯爵家に居るなんて恥だ。
どこかに嫁ぐことも出来ないごく潰しだ…。
けれどそれは侯爵家の娘という肩書欲しさの弱小貴族ばかりだった。
それでも、練習になるからと顔合わせに行ったこともあるが、私を野蛮人や珍獣を見るかのような眼差しを向けられ不快感だけが残った。
お母様はそんな私を気遣ってくださったようで、変な噂が深まらないように丁重に断りを入れてくださっていた。
貴族・女・男・ルール・振る舞い…
考えても考えても何の答えも出ない。
そんなくだらない鬱々とした時間を過ごすなら体を鍛え上げる方が有意義だと思い、私は更に訓練に励む日々を送った。
気が付くと、進学を迫られる歳になっていた。
答えが決まっている課題や、覚えるだけで良い教科は難なくこなせる。
相手の裏の気持ち察する、周囲の空気を読む、場に合わせた振る舞いといったセンスを問われる事はずっと苦手だ。
と言う事で、
学業と武術を両立できる研究職につける進路を模索していたのだが侯爵令嬢である身分がそれを許してはもらえなかった。
伝統と礼儀を重んじる高位貴族しか通えない女学院への進学を強制的に決められたのである。
数年間の寮生活は必須だった。
伝統と礼儀であれば武術も共通するところなのだろうが、そこはただの女の園だった。
運が悪いことに同じ学年に王族である公爵令嬢も同時に入学したのだが、その令嬢に事あるごとに恥をかかされ、嫌がらせを受けていた。
私が毎回成績上位であること、王族になびかない軍をお父様が率いていることが気に食わなかったのだろう。
堂々と拳を合わせるのであればお互いを分かち合えるのに、彼女は常に陰湿な方法で私を不愉快にさせる。
そんな息苦しい生活もやっと終わりが見えてきた卒業前、お父様に懇願し魔獣退治の訓練に同行させてもらった事があった。
森の奥に魔獣が住んでいる岩場があり、数匹退治した後、更に森奥に進む事となった。
私は軍人ではないのでそれ以上軍の同行は出来ず、退治した魔獣と共に岩場の傍で負傷した軍人と二人で待機するよう言われた。
そして、そこに居るはずのないドラゴン級の魔獣が姿を現したのだ。
勝算はあった。
私の戦闘能力であれば僅差だが私の方が強い。
お父様たちに気づいてもらえるよう狼煙を上げ、魔獣との戦闘に挑んだ。
あれほどお父様から慢心を許さず謙虚であれと言われていたのに…。
気が付けば、私は集中治療室のベッドで寝かされていた。
意識が戻り、お父様からあの日の顛末を教えていただいた。
私は徐々に魔獣に押され、体力が削られていき魔獣からの攻撃を避けきれずに意識を失ったそうだ。
負傷兵が何とか私を引き寄せ、装備していた魔道具と自身の魔力でシールドを張ってお父様たちの応援が来るまで持ちこたえたらしい。
そして、魔獣からの攻撃を左足にもろに受けてしまった私の身体は今までのように自由に動かすことが出来なくなっていた。
リハビリも含めて武術を再開しても短時間の戦闘で足が動かなくなってしまうのだ。
今までの動き方が通用しなくなっていた。
私から武道を取ると何も残らない。
ただ、センスが悪く空気が読めない冴えない女だ。
お父様のお力で女学園を何とか卒業させてもらえたが、私の心は抜け殻だった。
何をしたらいいのか分からない。
ふとした瞬間にあの魔獣との戦闘場面が蘇る。
普段から訓練できていない自分の身体を過信していたから負けたのだ。
自分の力に謙虚であれば他の装備を持って行っていたはずだ。
負傷兵を逃がして応援を呼びに行けばよかったのだ。
負傷兵がかばってくれなかったら今頃どうなっていた?
色々な考えがぼこぼこと沸き上がっては整理できず思考が止まってしまう。
その繰り返しで一日が終わってしまう。
そんな毎日で心が蝕まれていった。
こんな娘が侯爵家に居るなんて恥だ。
どこかに嫁ぐことも出来ないごく潰しだ…。
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よろしくお願い致します!
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