6 / 6
第一部 転生者
第5話 Dead & Zombies
しおりを挟む
…
…
…不意に目が覚めた…
…
…
…ん?
…
…
…なんだ…夢か…
…
…
…まだ暗いな…夜なのか?
変な時間に起きちゃったな…
バリベリバリ!!
うつ伏せになって寝ていたようで、体を起こそうとすると張り付いていた何かが、音を立てて剥がれていくのが分かる。
「なんだこれ…気持ち悪…変な夢も見るし…目覚め最悪だよ…」
灯りの無い真っ暗な室内では、それが何かは見えず、指で触った感触で、何か液体が乾いたようなモノであることだけしか分からない…
しかも、起き上がろうとついていた手に伝わる感触は、柔らかい布団のそれではなく、硬い床の感触…
…なんで床で寝てるんだ…?
何故か布団ではなく、床の上で寝ていたらしい…寝ぼけてんの…かな?
「コホ…」
それにしても喉が渇いた…とりあえず水でも飲もう…
なぜか開いていた扉を抜けて、フラフラと廊下に出る。
誰もまだ起きていないのか、廊下は暗く物音はしない。
まだ半分眠ったような状態で廊下を進み、台所の隅っこに置いてある水瓶の前まで行くと、蓋をあける。そこには井戸から汲んだ水が満たされていた。
今まで感じたことの無い渇き…その渇きを早く癒そうと、柄杓で汲んだ水を一気に飲んだ。
「グヘ!ゴホゴホ!な…」
あり得ない程に不味い…しかも変な匂いが口いっぱいに広がっている…
「なんだこれ…腐ってんのか…?」
鼻を近づけて匂いを嗅ぐが、水瓶からはなんの匂いもしてこない。
おかしい…
「どうなってるんだ…?」
…何かがおかしい…水のこともそうだが…何より静かすぎる…
クロのイビキなら、台所に居たって聞こえるだろうに…起きてから今まで、なんの音も聞こえた気がしない…
『……ャ……』
外から何かの音が聞こえた気がした。
「クロ?まだ日も昇ってないってのに…寝れなくて何かしてんのかな?」
クロも俺と同じように、変な時間に起きたんだろう。それならイビキが聞こえなくても納得がいく。
しかし…何をしてるんだ?
外に続く扉にゆっくりと近づくと、そっと扉を開いていく…
扉の隙間から漏れてきたのは赤い炎の光と、パチパチと何かが爆ぜる音だった…
「焚火?おいおい、シスターに怒ら…れ……嘘…だろ…?」
流石に勝手に火を使うのはまずいと思い、注意しようと思っていたが、目に飛び込んできたのは、想像していたのとは違う光景だった…
ボロボロの服を着た、人の様な生き物が焚火の周りで眠っていたのだ。
火に照らされたそいつらの体は、緑色…明らかに人では無いことが見て取れる。
「な…ゴブリン…?そんな…なんで…」
その姿はゲームで何度も見たものと同じで、それこそ何匹も殺して喰らってきた相手、DWZなら序盤に食料にしていた下級の魔物だ…
…なんでこんな奴らがここにいる?
扉の隙間から見えるだけでも4匹のゴブリンが寝ている。
「みんなを逃がさないと…」
武器があれば戦える…その自信はあった。
あの世界なら爪と牙で戦いもした。
一歩二歩…ゆっくりと後ろに下がっていくと、ヌチャっと何かを踏んだ感覚が足に伝わる…
「…なん…!!!」
足下を見ると、そこには腕が落ちていた。
踏んだのは腕から流れ出た血の海だったようだ…
「…だ…な…」
あまりのことに、うまく声が出せない…
「旨そうだな…」
!!!
俺は何を思っている?誰かの腕、人間の腕だぞ?何を考えてい…る…?
「渇いた…そうだ…俺は…喉が渇いてるんだ…」
…
…
…
ピチャ…
…
…
無意識に腕を拾い上げた俺は、その断面に舌をつけていた。
全身に血が巡るような感覚、今まで味わったことのない甘美な味が舌の上に広がっていく。
「美味い…」
心が叫ぶ…
もっと飲みたい…喰いたい…
「そうだ…食べないと…」
…ガツ…ブチブチ…グチャ…バリ…
気がついた時には、手に持っていた誰かの腕は、僅かに手についた血を残して消えていた…
口の中に残る味の余韻…
手の血を舐めとりながら思う。
足りない…もっと…
渇きは治まった…でも、まだ足りない…
「外に肉がいたな…奴等…を?
俺は何を…ゴブリンを食うだと…?
これじゃまるで…」
嫌な想像が頭をよぎる。
そして、一つの単語が頭に浮かぶ…
…
…ゾンビ症…
…
DWZを長時間やっていると、ゲームをやめた後も生き物が美味そうに見えてしまい、腹が減って仕方なくなることがあった。
ゲームユーザーの間では、ゲーム世界の延長として広く認知されていた現象だったが、あくまでゲーム終了後の短時間、それも数分で治る症状であったため、暫くの間は世間的にもあまり問題視されておらず、むしろ多くのプレイヤーはその状態を楽しんでもいたのだが…
他のダイブ型ゲームにも言えることだが、あまりにリアルなゲームを長時間プレイすることによって、現実との区別がつかない状態に陥るどうしようもないプレイヤーが続出していた。
ほとんどのゲームにおいては、それほど影響が出ることはなかったが、DWZは違った。
生肉食、倫理観のない世界、他のプレイヤーとの意思疎通のできない状況。
そんな負の要素が重なった末に、1人の少年が現実世界で事件を起こしてしまう。
リアルゾンビ事件と報道されたそれは、DWZを学校も行かずにプレイしていた少年に対して、家族が腹を立て、ゲーム中に無理矢理ギアを外したことで引き起こされてしまった事件だった。
自分の意思とは関係なく、現実世界に引き戻された少年は、母親に対して激しい怒りをぶつけることになる。
夕方、帰宅した父親が見たのは、ほとんど骨だけになった自分の妻らしき残骸と、飛び散った血の海で惚けた様に立ち尽くす息子の姿だった。
近所の人が、父親の悲鳴を聞いて通報したため、程なく警察によって少年は取り押さえられたが、そこで事件は終わらなかった。
留置所に入れられた後、同房の人間にちょっかいを出された少年が、その人間を殺傷、首に噛みつき喉笛を喰い千切ったのだ。
留置所内も血の海にした少年は、殺した男を喰らっていたという…
「まさか…俺は死…!」
【Learning 人語理解を取得】
脳に直接響くように、聞き慣れた声が聞こえた気がした。
【Healing 5】
聞き間違いじゃ…ない…
「人工音声…なのか?」
前の世界では、ネット配信やゲーム内のシステム音声なんかで多く使われていたため、耳にすることも多かったが…
「…なぜ今になって…」
【Buff 腕力上昇 Level1を取得】
【Debuff 火炎耐性低下 Level1を取得】
「やっぱりDWZのシステムと同じだ…
…は…はは…俺が…ゾンビ…?」
薄ぼんやりとした記憶が、徐々に蘇ってくる…
首だけになった友の最期が…
「嘘だ…あいつが…」
部屋に響く悲鳴と、俺を刺した醜悪なゴブリンが、シスターを連れて行く光景が…
「シスター…そうだ…助けないと…」
自然と涙が溢れてきた…
「…ギャ?」
「!」
聞き慣れない不快な声が聞こえた…
「ゴブ…リン…」
無意識に立ち上がり、扉から入ってきたゴブリンに向き直る。
ゲームで見慣れたゴブリンの顔、醜悪なその顔を正面から見据えた時、心の中で何かが叫ぶ。
殺せ!
醜い…潰れた猿のような顔を見ていると、黒い感情が湧き出して止まらなくなる…
「クロを…シスターを!」
殺せ!!
感情のままに一歩踏み出し、そいつの胸に右腕を突き立てる。
ドシュ…
軽々と手首まで突き刺さり、指先に心臓の鼓動が伝わってくる。
「気持ち悪い…」
こんな奴らにクロやシスターが殺されたなんて…
「ふざけるな…」
そうだ…あっていいはずが…ない!
やりきれない怒りを、目の前のゴブリンにぶつけるように睨みつける。
未だに現状を理解できていないであろうゴブリンの視線は、俺の顔と腕を何度も往復していたが、やがて状況を理解したらしいゴブリンが騒ぎ始めた。
「ギャ?グギャ!」
言葉は分からないが、やめろとでも言いたいのだろうか?
ふざけるな…クロを皆んなを殺したくせに…
指先に鼓動の元が触れる。
腕をグッと押し込むと、それをしっかり握ることができた…
「ギャギャ…ギギャギ!」
手のひらに収まる心臓は、昔爺さんの家で持った、熟し過ぎた柿のような感触に似ていた。
バタバタと暴れ続けるゴブリンは、俺の腕を掴み、どうにか外そうとしているようにも感じた。
「うぜぇ…」
ブチャ…
少し力を入れると、ゴブリンの心臓は簡単に潰れてしまった…
「ギャ…ギギ…」
ゴブリンは目を見開きブルブルと痙攣したが、直ぐに白目をむいて動かなくなる。
息絶えたゴブリンは、力が抜けたようで、俺の腕に体重が伝わってくる。
ズ…ミチミチ…ブチ…ドサッ…
心臓を掴んだまま、手を引き抜くと、ビクビクとまだ小さく動いている心臓が引き出され、ゴブリンの体は床に崩れ落ちた。
小刻みに動く心臓を見ていると、これがゴブリンのものだということを忘れてしまいそうになる…
うまそうだ…
ガツ…ブチブチ…クチャクチャ…
頭では、おかしなことをしているのは分かっている…
ガツ…ブチブチ…クチャクチャ…
だが止まらない…どうしようもないくらい美味いんだ…
ガツ…クチャ…クチャ…ゴク…
たった3口でゴブリンの心臓を食い尽くしてしまった…
口の中に残る余韻、芳醇な香りと深みのある味わい…
「足りない…」
足元に死んでいるゴブリンを見下ろすが、心臓を見たときのような食欲は湧いて来ず、まるで美味そうには思えなかった。
【Learning 亜人語理解 Type ゴブリンを取得】
【Healing 30 規定値超過により、肉体再生を開始】
背中から、ミチミチと音が聞こえてくる。
意識を失う前にゴブリンに背中を刺されていたことを思い出した、あの時の傷が回復するということは、刺される前に既に死んでいたんだと気付かされる…
これもDWZの仕様と同じだ、食べ物によるHealing値が一定量を超えると、傷ついた肉体が再生する。それが例え手足がなくなる様な肉体的欠損だとしても、トカゲの尻尾の様に復元されるが、死因になった傷だけは再生することはない…
【Buff 腕力上昇 Level+1を取得】
【Debuff 思考低下 Level1を取得】
「…ぬぐ…はぁ~…」
かなりの数刺されていたらしく、背中に感じる、痛みとは違うが味わった事のない不思議な感覚に、思わず声が出てしまう。
落ち着いた所で背中に手を回すと、何箇所も破れたような穴が開いているのが分かった。
「喰って再生…DWZの世界と同じだな…ちっ…何だよ、今更こんな力…」
遅すぎる…もっと早く…!!
「……ゃ……」
微かに人の声が聞こえた気がした…まだ誰か生きているのか?
外から聞こえた声に誘われるように、フラフラと扉を出る。
焚火の周りにはゴブリンが2体先ほどの騒ぎが聞こえていなかったように寝ていたが、数が合わない。
さっき見た時は4体居て、1体は俺が…
「いや…」
井戸の方から声が…誰だ。
薄暗くて見づらいが、誰かがいることは分かった。
「イイカラダ…キヒヒ!」
「もう…やめ…きゃ!」
聞き覚えのある声…これは…
「シスター!」
声はシスターのものだ、聞き間違えるはずがない!シスターは生きてたんだ!
俺は反射的に呼びかけ走った。
井戸までそう距離はないため、直ぐにたどり着くことができ…
…
…ナンダ…コレハ…
…
そこには服を剥ぎ取られ、全裸の状態で腕を井戸の柱に縛られたシスターがいた。
焚火の薄明かりに照らされた白い肌は、ほんのりと赤く輝き…なんとも言えない色香を振りまいている…
…
…ドウイウ…コトダ…
…
ほんの一瞬、シスターの裸に見惚れてしまい、不覚にもその横に立つゴブリンのことを忘れていた。
「ナンダオマエ!」
不快な声が聞こえる…
ゴブリンは、あろうことかシスターの髪を掴んでいて、威嚇するようにこちらに牙を剥いた…
…
…ナニヲ…シテイル…
…
シスターの髪を更に乱暴に持ち上げると、そいつは不快な声で喚き散らす。
「オレノダ!ジャマスルナ!」
…
オレノ…?
ジャマ…?ナニ…ヲ…!!!
よく見るとそいつは、今まで見た他のゴブリンとは違い、腰蓑のようなボロ布を外している。
体格に見合わない大きなアレをいきり立たせて…
…思考が止まる…
何もかもが嫌になる…考えたくない
何が起きていたのかなんて知りたくもない…
信じたくない…シンジタクナイ…シンジナイ…
「し…」
「シロ君!逃げなさい!きゃ!」
「ダマレ!メス!」
ゴブリンがシスターの顔を殴った…殴った?
…はぁ!?
「ざけるな!!」
怒りでなのか、目の前が白く点滅する…抑えられない怒りのままに飛びかかり、ゴブリンの顔目掛けて全力で腕を振り抜く。
ゴブリンの顔に拳が当たると、グジャっと潰れるような音と共に、醜悪な頭が吹き飛んで行った。
頭を無くしたゴブリンの体は、そのまま地面に崩れ落ちるが、途中でブジュルと嫌な音を立てて、首から噴水のように血を吹き出す。
至近距離で赤黒い血が吹き出し、体にかかる事はなかったものの、むせかえるような血の匂いに意識が少しだけ遠くなる…
『殺せ…殺せ…』
頭の中に声が響く…その声はだんだん大きくなっていく…
『全員殺せ!』
「…オイ…ダレダオマエ?」
寝ていたゴブリン達も、騒ぎで起きてきたようで、不快な金切声がまた増えた…
…
…ダマレ…
…
そこからはただの殺戮だった…
殺意と敵意…そんな負の感情で、俺は我を失っていたんだと思う…
最初に立ち上がったゴブリンに飛びかかると、その首筋に食らいつき、引きちぎる。
ブシャー!!
筋張って硬そうに見えた皮膚は、想像以上に簡単に牙が食い込んだ。
首に通る太い血管諸共喰いちぎったようで、傷口から赤黒い血が大量に吹き出し俺の顔を濡らす。
垂れてきた血が口に入り、噛みちぎった肉と共に咀嚼し飲み込む…
苦い…
その肉は、今まで食べたものに比べ数段味は落ちたように感じた。
白目をむいて痙攣するゴブリンの頭を掴み、微妙にまずかったことに対する苛立ちもあったんだろう…思い切り地面に向かって押しつぶすと、ゴチュ!っと嫌な音を立てて頭が胴体に食い込んでしまった。
もう1体のゴブリンが、起き上がりながら何かを叫ぼうとしていたようだが、耳障りなこいつらの声をこれ以上聞きたくない…
…
…ダマレ…
…
掴んでいた半分潰れた頭を、グチャリと音を立てて持ち上げると、全力で最後のゴブリンに向けて投げつけた。
頭同士がバカンと凄い速度でぶつかり、どちらも弾け飛んで肉片に変わってしまった。
頭を吹き飛ばされたゴブリンが倒れると共に、細かく砕けた骨や肉片、脳漿が後方に撒き散らされた。
…気がつくと、周りで動くものは俺とシスターだけになっていた…
「はは…あはは!くぁははは!!」
圧倒的な力…俺はその力に少しだけ酔っていた…
笑いが止まらない…
全能感と優越感が頭を支配する…俺は狂ってしまったんだろうか?
足元に転がるゴブリンの腕を特に考えなく掴んで持ち上げてみる…
グ~…
腹が鳴った…
気がつくと頭がめり込み赤い肉が露出するゴブリンの体に、腕を入れて引き裂いていた。
ミシミシ…ベキブチブチ!
片手が腕を掴んでいたため、肩口の皮膚が裂け、筋を無理矢理引きちぎっていく。
ゴブリンは、皮膚こそ緑で不味そうだが、肉の色は赤く、そこまで不味そうには見えない。
ガチュ…
露出していた肉の部分に口をつけてみる…
「はは…ゴブリンのくせに普通にうまいでやんの。」
胴体から手を離し、ゴブリンの腕から不味そうな皮膚を剥がすと、その肉に顔を近づけ牙を立てる。
ブシュ…プチプチ…
口の中に血の味が広がり、その味にほおが緩むが、生肉の独特の食感には苦戦した…
「うへ…味は悪くないのに、食感が悪い…」
【Learning 金切声を取得】
「はっ、そんなもん何に使うんだよ…」
【Healing 2】
【Buff 腕力上昇 Level+1を取得、同一Buffの取得Levelが規定値を超過、Passive skillを取得します。】
【Skill 小亜人腕力を取得。】
【Debuff 思考低下 Level+2を取得、同一Debuffの取得Levelが規定値に達したため、短時間の状態異常、錯乱となります。】
「な…」
視界がグニャリ曲がる…
…
…
どれだけの時間が過ぎたのだろう…ボンヤリとした意識の中、気がつくと俺は縛られたままのシスターに跨り、腰を振っていた…
「や…あ…シロ…く…ん…」
「シスター…あぁ…シスター!」
これは夢なのか?いや…もう、全てがどうでもいい…考えるのが面倒だ…今はただ、目の前の女を抱いて…
「あ…ダメ…あぁ…シロ…」
獣の様に本能の赴くまま、快楽に身を委ね、腰を振り続けるうちに、限界が近づいてきた。
「シスター!シスター!」
「ダメ…ダメです!あぁ!」
「あぁー!!」
シスターの中で果てると同時に、全身の力がズルリと抜け、重なるように倒れ込んだ。
錯乱の効果時間が切れたのだろうか?少しだけ冷静な自分が戻ってくる。
「…俺は…何を…?」
無理やりシスターを襲って…夢だとしてもなんてことをしてしまったんだ…
後悔で自己嫌悪になっていると、耳元でシスターが囁く…
「ふふ…私を襲うなんて、シロ君は悪い子ですね。」
いつの間にか縄を解いていたシスターは、スルリと俺の下から抜け出すと、妖艶な笑みを浮かべて立ち上がった。
「え?シスター?」
シスターは自分の股に指を這わせると、滴る精液を掬い取り、その指をペロリと舐める。
「あは、混じってるみたいだけど、やっぱり人間のが一番美味しいわ。」
「そんな…シスター…?」
立ち上がったシスターの腰の辺りから、蝙蝠のような羽が生えて広がり、禍々しいオーラがシスターの体を包んでいく。
「ふふ…そうね、もう誤魔化しても仕方ないし、気持ちよかったから教えてあげる。」
よく知る優しい顔で笑い、笑顔のまま言葉を続ける。
「私、淫魔と人の混血なの。
興奮すると淫魔の面が強く出ちゃうから、男っ気の無いこんなところに住んでいたのだけれど…」
足元に転がる頭の無いゴブリンの死体を蹴り飛ばすと、憎々しげに続ける。
「こんなのがやって来たせいで、その生活もお終い。本当に腹立たしいわ!
こいつらただ腰振るだけで、全然気持ち良くもないし!
折角成長した君達と、ゆっくり楽しめると思っていたのに…こんなことになって、本当に残念に思っているのよ?」
シスターが魔物?それも淫魔?なんの冗談だよ…
なんとか起き上がろうともがいていたが、どれだけやっても体に力が入らず、仰向けに転がった所で力尽きてしまった。
「でも、そうね…」
唇を舐めたシスターが前屈みになり、顔を寄せてくる…
魔物だと聞いても、そんなことがどうでもよくなる程の美しい女性が、目の前に裸で立っている。
柔らかそうな胸が目の前に迫り、先ほどとは違う高揚感で、頭がクラクラしてきた。
手を動かそうにも力が入らず、見ているだけだというのに、頭がボーっとしてくる。
「ふふ…物欲しそうに見てるわね。いいのよ?触っても。」
俺に見せつける様に、シスターは自分の胸を揉みしだき、甘い吐息を漏らし出す。
「あ…ん…ふふ…まだ時間はあるわよね…もう少しくらい、楽しんでもいいと思わない?」
動かない体がもどかしい…体にまるで力が入らない…
俺の体を跨いだシスターは、ゆっくり見せつけるように腰を下げていく。
「ふふ…久しぶりなんだから、たっぷり楽しませてもらうわね。」
2人の秘部が触れ合う…先ほど錯乱状態とはいえシスターを襲ってしまった時とは、何もかもが違う…下腹部に、あり得ないほどの快感が与えられ、脳を痺れさせる。
シスターは、そこからゆっくりと焦らす様に、ズブズブといやらしく音を立てながら腰を落としていく。
脳に直接響いて、全身に痺れが走る様な快感に、思わず声が出てしまう。
「かっ…うぁ…」
「ふふ…かわいい声。もっと聞かせ…て。」
言いながら一気に腰を沈めたシスター…俺の全てを飲み込んだ彼女は、今まで見たことのない妖艶な表情をしていた。
「…はい…った~…ふふ、さぁ…私を満足させてね?」
倒れる様に体を前屈させ、耳元で囁かれる…柔らかな胸が押し当てられ、下腹部だけでなく全身でシスターを感じる…
魔物だと言われても、変わらず美しい顔が目の前に迫る…
ゆっくりと唇が重ねられる…
「ん…あむ…んん…」
触れる箇所全てが気持ちいい…溶けるような甘い痺れに、何も考えられなくなる…
「シ…ん…スター…」
「ん…はぁ…カレンでいいわよ…ん…」
舌が絡み合い…脳が溶ける…
「カレ…ン…くはっ…あ…」
クチュクチュと音を立てながら、俺に抱きついたまま、カレンが腰を動かし始める…
「あ…ん…いい…シロ…あ!」
耳元にカレンの甘い声が囁かれる…
動きたい…
しかし体に力が戻ることはなく、かつて味わったことのない快感を、ただただ与えられ続けることになる。
…
…
…それからは、何度も何度もカレンの中に出し続けた。
淫魔の魔法か能力を使われていたんだと思うが、俺のアレは何度出しても萎えることは無く、彼女の気が済み解放されるまでの数時間、ただひたすらにヤられ続けたようだ…
…というのも、途絶えることのない快感と、全てを絞り尽くされる様な喪失感とが、何度も何度も繰り返し与えられ続けたため…5度目の射精から先は、残念ながら覚えていない…
…
…
…
そして朝…いつの間にか気絶していた俺は、煩い烏の鳴き声で目を覚ます。
下腹部へ残る痺れのような余韻と、耳に残るカレンの淫靡な声…
夢だったのだろうか…
体をゆっくりと起こすと、ヌチャリと音を立てた自分の体に少しだけ苦笑が漏れた…
「はは…夢であってくれよ…」
目覚めたのが部屋の外…2人の体液が混じり合いグチャグチャになった自分の体…嫌でも夢ではなかったんだと実感させられた。
うまく力の入らない体を起こして、周りを見てみる…
既にカレンの姿はどこにもなく、俺が殺したゴブリンの死体が無造作に地面に転がっているだけだった…
「…ふ…ふは…あはは…なんだよこれ…」
なんとも言えない無力感と、全てを失った絶望感が広がる…
楽しい訳じゃない…
何も面白いわけじゃない…
それなのに、乾いた笑いが自然と出てくる…
「なんなんだよ…はは…こんなの…俺の…なんだよ…」
苛立ちなのか悔しさなのか…自分でもよく分からない感情が膨れ上がり、頬を幾筋もの涙が伝う。
地面を殴ると、土が抉れてへこみが出来た…
「クソ…クソ!クソ!クソー!!」
何度も地面に拳を振り下ろす、その度に地面は抉れるが、痛みはない…
俺は立ち上がる気になれず、そのまま地面に突っ伏すと、声を上げて泣き続けた…
…
…不意に目が覚めた…
…
…
…ん?
…
…
…なんだ…夢か…
…
…
…まだ暗いな…夜なのか?
変な時間に起きちゃったな…
バリベリバリ!!
うつ伏せになって寝ていたようで、体を起こそうとすると張り付いていた何かが、音を立てて剥がれていくのが分かる。
「なんだこれ…気持ち悪…変な夢も見るし…目覚め最悪だよ…」
灯りの無い真っ暗な室内では、それが何かは見えず、指で触った感触で、何か液体が乾いたようなモノであることだけしか分からない…
しかも、起き上がろうとついていた手に伝わる感触は、柔らかい布団のそれではなく、硬い床の感触…
…なんで床で寝てるんだ…?
何故か布団ではなく、床の上で寝ていたらしい…寝ぼけてんの…かな?
「コホ…」
それにしても喉が渇いた…とりあえず水でも飲もう…
なぜか開いていた扉を抜けて、フラフラと廊下に出る。
誰もまだ起きていないのか、廊下は暗く物音はしない。
まだ半分眠ったような状態で廊下を進み、台所の隅っこに置いてある水瓶の前まで行くと、蓋をあける。そこには井戸から汲んだ水が満たされていた。
今まで感じたことの無い渇き…その渇きを早く癒そうと、柄杓で汲んだ水を一気に飲んだ。
「グヘ!ゴホゴホ!な…」
あり得ない程に不味い…しかも変な匂いが口いっぱいに広がっている…
「なんだこれ…腐ってんのか…?」
鼻を近づけて匂いを嗅ぐが、水瓶からはなんの匂いもしてこない。
おかしい…
「どうなってるんだ…?」
…何かがおかしい…水のこともそうだが…何より静かすぎる…
クロのイビキなら、台所に居たって聞こえるだろうに…起きてから今まで、なんの音も聞こえた気がしない…
『……ャ……』
外から何かの音が聞こえた気がした。
「クロ?まだ日も昇ってないってのに…寝れなくて何かしてんのかな?」
クロも俺と同じように、変な時間に起きたんだろう。それならイビキが聞こえなくても納得がいく。
しかし…何をしてるんだ?
外に続く扉にゆっくりと近づくと、そっと扉を開いていく…
扉の隙間から漏れてきたのは赤い炎の光と、パチパチと何かが爆ぜる音だった…
「焚火?おいおい、シスターに怒ら…れ……嘘…だろ…?」
流石に勝手に火を使うのはまずいと思い、注意しようと思っていたが、目に飛び込んできたのは、想像していたのとは違う光景だった…
ボロボロの服を着た、人の様な生き物が焚火の周りで眠っていたのだ。
火に照らされたそいつらの体は、緑色…明らかに人では無いことが見て取れる。
「な…ゴブリン…?そんな…なんで…」
その姿はゲームで何度も見たものと同じで、それこそ何匹も殺して喰らってきた相手、DWZなら序盤に食料にしていた下級の魔物だ…
…なんでこんな奴らがここにいる?
扉の隙間から見えるだけでも4匹のゴブリンが寝ている。
「みんなを逃がさないと…」
武器があれば戦える…その自信はあった。
あの世界なら爪と牙で戦いもした。
一歩二歩…ゆっくりと後ろに下がっていくと、ヌチャっと何かを踏んだ感覚が足に伝わる…
「…なん…!!!」
足下を見ると、そこには腕が落ちていた。
踏んだのは腕から流れ出た血の海だったようだ…
「…だ…な…」
あまりのことに、うまく声が出せない…
「旨そうだな…」
!!!
俺は何を思っている?誰かの腕、人間の腕だぞ?何を考えてい…る…?
「渇いた…そうだ…俺は…喉が渇いてるんだ…」
…
…
…
ピチャ…
…
…
無意識に腕を拾い上げた俺は、その断面に舌をつけていた。
全身に血が巡るような感覚、今まで味わったことのない甘美な味が舌の上に広がっていく。
「美味い…」
心が叫ぶ…
もっと飲みたい…喰いたい…
「そうだ…食べないと…」
…ガツ…ブチブチ…グチャ…バリ…
気がついた時には、手に持っていた誰かの腕は、僅かに手についた血を残して消えていた…
口の中に残る味の余韻…
手の血を舐めとりながら思う。
足りない…もっと…
渇きは治まった…でも、まだ足りない…
「外に肉がいたな…奴等…を?
俺は何を…ゴブリンを食うだと…?
これじゃまるで…」
嫌な想像が頭をよぎる。
そして、一つの単語が頭に浮かぶ…
…
…ゾンビ症…
…
DWZを長時間やっていると、ゲームをやめた後も生き物が美味そうに見えてしまい、腹が減って仕方なくなることがあった。
ゲームユーザーの間では、ゲーム世界の延長として広く認知されていた現象だったが、あくまでゲーム終了後の短時間、それも数分で治る症状であったため、暫くの間は世間的にもあまり問題視されておらず、むしろ多くのプレイヤーはその状態を楽しんでもいたのだが…
他のダイブ型ゲームにも言えることだが、あまりにリアルなゲームを長時間プレイすることによって、現実との区別がつかない状態に陥るどうしようもないプレイヤーが続出していた。
ほとんどのゲームにおいては、それほど影響が出ることはなかったが、DWZは違った。
生肉食、倫理観のない世界、他のプレイヤーとの意思疎通のできない状況。
そんな負の要素が重なった末に、1人の少年が現実世界で事件を起こしてしまう。
リアルゾンビ事件と報道されたそれは、DWZを学校も行かずにプレイしていた少年に対して、家族が腹を立て、ゲーム中に無理矢理ギアを外したことで引き起こされてしまった事件だった。
自分の意思とは関係なく、現実世界に引き戻された少年は、母親に対して激しい怒りをぶつけることになる。
夕方、帰宅した父親が見たのは、ほとんど骨だけになった自分の妻らしき残骸と、飛び散った血の海で惚けた様に立ち尽くす息子の姿だった。
近所の人が、父親の悲鳴を聞いて通報したため、程なく警察によって少年は取り押さえられたが、そこで事件は終わらなかった。
留置所に入れられた後、同房の人間にちょっかいを出された少年が、その人間を殺傷、首に噛みつき喉笛を喰い千切ったのだ。
留置所内も血の海にした少年は、殺した男を喰らっていたという…
「まさか…俺は死…!」
【Learning 人語理解を取得】
脳に直接響くように、聞き慣れた声が聞こえた気がした。
【Healing 5】
聞き間違いじゃ…ない…
「人工音声…なのか?」
前の世界では、ネット配信やゲーム内のシステム音声なんかで多く使われていたため、耳にすることも多かったが…
「…なぜ今になって…」
【Buff 腕力上昇 Level1を取得】
【Debuff 火炎耐性低下 Level1を取得】
「やっぱりDWZのシステムと同じだ…
…は…はは…俺が…ゾンビ…?」
薄ぼんやりとした記憶が、徐々に蘇ってくる…
首だけになった友の最期が…
「嘘だ…あいつが…」
部屋に響く悲鳴と、俺を刺した醜悪なゴブリンが、シスターを連れて行く光景が…
「シスター…そうだ…助けないと…」
自然と涙が溢れてきた…
「…ギャ?」
「!」
聞き慣れない不快な声が聞こえた…
「ゴブ…リン…」
無意識に立ち上がり、扉から入ってきたゴブリンに向き直る。
ゲームで見慣れたゴブリンの顔、醜悪なその顔を正面から見据えた時、心の中で何かが叫ぶ。
殺せ!
醜い…潰れた猿のような顔を見ていると、黒い感情が湧き出して止まらなくなる…
「クロを…シスターを!」
殺せ!!
感情のままに一歩踏み出し、そいつの胸に右腕を突き立てる。
ドシュ…
軽々と手首まで突き刺さり、指先に心臓の鼓動が伝わってくる。
「気持ち悪い…」
こんな奴らにクロやシスターが殺されたなんて…
「ふざけるな…」
そうだ…あっていいはずが…ない!
やりきれない怒りを、目の前のゴブリンにぶつけるように睨みつける。
未だに現状を理解できていないであろうゴブリンの視線は、俺の顔と腕を何度も往復していたが、やがて状況を理解したらしいゴブリンが騒ぎ始めた。
「ギャ?グギャ!」
言葉は分からないが、やめろとでも言いたいのだろうか?
ふざけるな…クロを皆んなを殺したくせに…
指先に鼓動の元が触れる。
腕をグッと押し込むと、それをしっかり握ることができた…
「ギャギャ…ギギャギ!」
手のひらに収まる心臓は、昔爺さんの家で持った、熟し過ぎた柿のような感触に似ていた。
バタバタと暴れ続けるゴブリンは、俺の腕を掴み、どうにか外そうとしているようにも感じた。
「うぜぇ…」
ブチャ…
少し力を入れると、ゴブリンの心臓は簡単に潰れてしまった…
「ギャ…ギギ…」
ゴブリンは目を見開きブルブルと痙攣したが、直ぐに白目をむいて動かなくなる。
息絶えたゴブリンは、力が抜けたようで、俺の腕に体重が伝わってくる。
ズ…ミチミチ…ブチ…ドサッ…
心臓を掴んだまま、手を引き抜くと、ビクビクとまだ小さく動いている心臓が引き出され、ゴブリンの体は床に崩れ落ちた。
小刻みに動く心臓を見ていると、これがゴブリンのものだということを忘れてしまいそうになる…
うまそうだ…
ガツ…ブチブチ…クチャクチャ…
頭では、おかしなことをしているのは分かっている…
ガツ…ブチブチ…クチャクチャ…
だが止まらない…どうしようもないくらい美味いんだ…
ガツ…クチャ…クチャ…ゴク…
たった3口でゴブリンの心臓を食い尽くしてしまった…
口の中に残る余韻、芳醇な香りと深みのある味わい…
「足りない…」
足元に死んでいるゴブリンを見下ろすが、心臓を見たときのような食欲は湧いて来ず、まるで美味そうには思えなかった。
【Learning 亜人語理解 Type ゴブリンを取得】
【Healing 30 規定値超過により、肉体再生を開始】
背中から、ミチミチと音が聞こえてくる。
意識を失う前にゴブリンに背中を刺されていたことを思い出した、あの時の傷が回復するということは、刺される前に既に死んでいたんだと気付かされる…
これもDWZの仕様と同じだ、食べ物によるHealing値が一定量を超えると、傷ついた肉体が再生する。それが例え手足がなくなる様な肉体的欠損だとしても、トカゲの尻尾の様に復元されるが、死因になった傷だけは再生することはない…
【Buff 腕力上昇 Level+1を取得】
【Debuff 思考低下 Level1を取得】
「…ぬぐ…はぁ~…」
かなりの数刺されていたらしく、背中に感じる、痛みとは違うが味わった事のない不思議な感覚に、思わず声が出てしまう。
落ち着いた所で背中に手を回すと、何箇所も破れたような穴が開いているのが分かった。
「喰って再生…DWZの世界と同じだな…ちっ…何だよ、今更こんな力…」
遅すぎる…もっと早く…!!
「……ゃ……」
微かに人の声が聞こえた気がした…まだ誰か生きているのか?
外から聞こえた声に誘われるように、フラフラと扉を出る。
焚火の周りにはゴブリンが2体先ほどの騒ぎが聞こえていなかったように寝ていたが、数が合わない。
さっき見た時は4体居て、1体は俺が…
「いや…」
井戸の方から声が…誰だ。
薄暗くて見づらいが、誰かがいることは分かった。
「イイカラダ…キヒヒ!」
「もう…やめ…きゃ!」
聞き覚えのある声…これは…
「シスター!」
声はシスターのものだ、聞き間違えるはずがない!シスターは生きてたんだ!
俺は反射的に呼びかけ走った。
井戸までそう距離はないため、直ぐにたどり着くことができ…
…
…ナンダ…コレハ…
…
そこには服を剥ぎ取られ、全裸の状態で腕を井戸の柱に縛られたシスターがいた。
焚火の薄明かりに照らされた白い肌は、ほんのりと赤く輝き…なんとも言えない色香を振りまいている…
…
…ドウイウ…コトダ…
…
ほんの一瞬、シスターの裸に見惚れてしまい、不覚にもその横に立つゴブリンのことを忘れていた。
「ナンダオマエ!」
不快な声が聞こえる…
ゴブリンは、あろうことかシスターの髪を掴んでいて、威嚇するようにこちらに牙を剥いた…
…
…ナニヲ…シテイル…
…
シスターの髪を更に乱暴に持ち上げると、そいつは不快な声で喚き散らす。
「オレノダ!ジャマスルナ!」
…
オレノ…?
ジャマ…?ナニ…ヲ…!!!
よく見るとそいつは、今まで見た他のゴブリンとは違い、腰蓑のようなボロ布を外している。
体格に見合わない大きなアレをいきり立たせて…
…思考が止まる…
何もかもが嫌になる…考えたくない
何が起きていたのかなんて知りたくもない…
信じたくない…シンジタクナイ…シンジナイ…
「し…」
「シロ君!逃げなさい!きゃ!」
「ダマレ!メス!」
ゴブリンがシスターの顔を殴った…殴った?
…はぁ!?
「ざけるな!!」
怒りでなのか、目の前が白く点滅する…抑えられない怒りのままに飛びかかり、ゴブリンの顔目掛けて全力で腕を振り抜く。
ゴブリンの顔に拳が当たると、グジャっと潰れるような音と共に、醜悪な頭が吹き飛んで行った。
頭を無くしたゴブリンの体は、そのまま地面に崩れ落ちるが、途中でブジュルと嫌な音を立てて、首から噴水のように血を吹き出す。
至近距離で赤黒い血が吹き出し、体にかかる事はなかったものの、むせかえるような血の匂いに意識が少しだけ遠くなる…
『殺せ…殺せ…』
頭の中に声が響く…その声はだんだん大きくなっていく…
『全員殺せ!』
「…オイ…ダレダオマエ?」
寝ていたゴブリン達も、騒ぎで起きてきたようで、不快な金切声がまた増えた…
…
…ダマレ…
…
そこからはただの殺戮だった…
殺意と敵意…そんな負の感情で、俺は我を失っていたんだと思う…
最初に立ち上がったゴブリンに飛びかかると、その首筋に食らいつき、引きちぎる。
ブシャー!!
筋張って硬そうに見えた皮膚は、想像以上に簡単に牙が食い込んだ。
首に通る太い血管諸共喰いちぎったようで、傷口から赤黒い血が大量に吹き出し俺の顔を濡らす。
垂れてきた血が口に入り、噛みちぎった肉と共に咀嚼し飲み込む…
苦い…
その肉は、今まで食べたものに比べ数段味は落ちたように感じた。
白目をむいて痙攣するゴブリンの頭を掴み、微妙にまずかったことに対する苛立ちもあったんだろう…思い切り地面に向かって押しつぶすと、ゴチュ!っと嫌な音を立てて頭が胴体に食い込んでしまった。
もう1体のゴブリンが、起き上がりながら何かを叫ぼうとしていたようだが、耳障りなこいつらの声をこれ以上聞きたくない…
…
…ダマレ…
…
掴んでいた半分潰れた頭を、グチャリと音を立てて持ち上げると、全力で最後のゴブリンに向けて投げつけた。
頭同士がバカンと凄い速度でぶつかり、どちらも弾け飛んで肉片に変わってしまった。
頭を吹き飛ばされたゴブリンが倒れると共に、細かく砕けた骨や肉片、脳漿が後方に撒き散らされた。
…気がつくと、周りで動くものは俺とシスターだけになっていた…
「はは…あはは!くぁははは!!」
圧倒的な力…俺はその力に少しだけ酔っていた…
笑いが止まらない…
全能感と優越感が頭を支配する…俺は狂ってしまったんだろうか?
足元に転がるゴブリンの腕を特に考えなく掴んで持ち上げてみる…
グ~…
腹が鳴った…
気がつくと頭がめり込み赤い肉が露出するゴブリンの体に、腕を入れて引き裂いていた。
ミシミシ…ベキブチブチ!
片手が腕を掴んでいたため、肩口の皮膚が裂け、筋を無理矢理引きちぎっていく。
ゴブリンは、皮膚こそ緑で不味そうだが、肉の色は赤く、そこまで不味そうには見えない。
ガチュ…
露出していた肉の部分に口をつけてみる…
「はは…ゴブリンのくせに普通にうまいでやんの。」
胴体から手を離し、ゴブリンの腕から不味そうな皮膚を剥がすと、その肉に顔を近づけ牙を立てる。
ブシュ…プチプチ…
口の中に血の味が広がり、その味にほおが緩むが、生肉の独特の食感には苦戦した…
「うへ…味は悪くないのに、食感が悪い…」
【Learning 金切声を取得】
「はっ、そんなもん何に使うんだよ…」
【Healing 2】
【Buff 腕力上昇 Level+1を取得、同一Buffの取得Levelが規定値を超過、Passive skillを取得します。】
【Skill 小亜人腕力を取得。】
【Debuff 思考低下 Level+2を取得、同一Debuffの取得Levelが規定値に達したため、短時間の状態異常、錯乱となります。】
「な…」
視界がグニャリ曲がる…
…
…
どれだけの時間が過ぎたのだろう…ボンヤリとした意識の中、気がつくと俺は縛られたままのシスターに跨り、腰を振っていた…
「や…あ…シロ…く…ん…」
「シスター…あぁ…シスター!」
これは夢なのか?いや…もう、全てがどうでもいい…考えるのが面倒だ…今はただ、目の前の女を抱いて…
「あ…ダメ…あぁ…シロ…」
獣の様に本能の赴くまま、快楽に身を委ね、腰を振り続けるうちに、限界が近づいてきた。
「シスター!シスター!」
「ダメ…ダメです!あぁ!」
「あぁー!!」
シスターの中で果てると同時に、全身の力がズルリと抜け、重なるように倒れ込んだ。
錯乱の効果時間が切れたのだろうか?少しだけ冷静な自分が戻ってくる。
「…俺は…何を…?」
無理やりシスターを襲って…夢だとしてもなんてことをしてしまったんだ…
後悔で自己嫌悪になっていると、耳元でシスターが囁く…
「ふふ…私を襲うなんて、シロ君は悪い子ですね。」
いつの間にか縄を解いていたシスターは、スルリと俺の下から抜け出すと、妖艶な笑みを浮かべて立ち上がった。
「え?シスター?」
シスターは自分の股に指を這わせると、滴る精液を掬い取り、その指をペロリと舐める。
「あは、混じってるみたいだけど、やっぱり人間のが一番美味しいわ。」
「そんな…シスター…?」
立ち上がったシスターの腰の辺りから、蝙蝠のような羽が生えて広がり、禍々しいオーラがシスターの体を包んでいく。
「ふふ…そうね、もう誤魔化しても仕方ないし、気持ちよかったから教えてあげる。」
よく知る優しい顔で笑い、笑顔のまま言葉を続ける。
「私、淫魔と人の混血なの。
興奮すると淫魔の面が強く出ちゃうから、男っ気の無いこんなところに住んでいたのだけれど…」
足元に転がる頭の無いゴブリンの死体を蹴り飛ばすと、憎々しげに続ける。
「こんなのがやって来たせいで、その生活もお終い。本当に腹立たしいわ!
こいつらただ腰振るだけで、全然気持ち良くもないし!
折角成長した君達と、ゆっくり楽しめると思っていたのに…こんなことになって、本当に残念に思っているのよ?」
シスターが魔物?それも淫魔?なんの冗談だよ…
なんとか起き上がろうともがいていたが、どれだけやっても体に力が入らず、仰向けに転がった所で力尽きてしまった。
「でも、そうね…」
唇を舐めたシスターが前屈みになり、顔を寄せてくる…
魔物だと聞いても、そんなことがどうでもよくなる程の美しい女性が、目の前に裸で立っている。
柔らかそうな胸が目の前に迫り、先ほどとは違う高揚感で、頭がクラクラしてきた。
手を動かそうにも力が入らず、見ているだけだというのに、頭がボーっとしてくる。
「ふふ…物欲しそうに見てるわね。いいのよ?触っても。」
俺に見せつける様に、シスターは自分の胸を揉みしだき、甘い吐息を漏らし出す。
「あ…ん…ふふ…まだ時間はあるわよね…もう少しくらい、楽しんでもいいと思わない?」
動かない体がもどかしい…体にまるで力が入らない…
俺の体を跨いだシスターは、ゆっくり見せつけるように腰を下げていく。
「ふふ…久しぶりなんだから、たっぷり楽しませてもらうわね。」
2人の秘部が触れ合う…先ほど錯乱状態とはいえシスターを襲ってしまった時とは、何もかもが違う…下腹部に、あり得ないほどの快感が与えられ、脳を痺れさせる。
シスターは、そこからゆっくりと焦らす様に、ズブズブといやらしく音を立てながら腰を落としていく。
脳に直接響いて、全身に痺れが走る様な快感に、思わず声が出てしまう。
「かっ…うぁ…」
「ふふ…かわいい声。もっと聞かせ…て。」
言いながら一気に腰を沈めたシスター…俺の全てを飲み込んだ彼女は、今まで見たことのない妖艶な表情をしていた。
「…はい…った~…ふふ、さぁ…私を満足させてね?」
倒れる様に体を前屈させ、耳元で囁かれる…柔らかな胸が押し当てられ、下腹部だけでなく全身でシスターを感じる…
魔物だと言われても、変わらず美しい顔が目の前に迫る…
ゆっくりと唇が重ねられる…
「ん…あむ…んん…」
触れる箇所全てが気持ちいい…溶けるような甘い痺れに、何も考えられなくなる…
「シ…ん…スター…」
「ん…はぁ…カレンでいいわよ…ん…」
舌が絡み合い…脳が溶ける…
「カレ…ン…くはっ…あ…」
クチュクチュと音を立てながら、俺に抱きついたまま、カレンが腰を動かし始める…
「あ…ん…いい…シロ…あ!」
耳元にカレンの甘い声が囁かれる…
動きたい…
しかし体に力が戻ることはなく、かつて味わったことのない快感を、ただただ与えられ続けることになる。
…
…
…それからは、何度も何度もカレンの中に出し続けた。
淫魔の魔法か能力を使われていたんだと思うが、俺のアレは何度出しても萎えることは無く、彼女の気が済み解放されるまでの数時間、ただひたすらにヤられ続けたようだ…
…というのも、途絶えることのない快感と、全てを絞り尽くされる様な喪失感とが、何度も何度も繰り返し与えられ続けたため…5度目の射精から先は、残念ながら覚えていない…
…
…
…
そして朝…いつの間にか気絶していた俺は、煩い烏の鳴き声で目を覚ます。
下腹部へ残る痺れのような余韻と、耳に残るカレンの淫靡な声…
夢だったのだろうか…
体をゆっくりと起こすと、ヌチャリと音を立てた自分の体に少しだけ苦笑が漏れた…
「はは…夢であってくれよ…」
目覚めたのが部屋の外…2人の体液が混じり合いグチャグチャになった自分の体…嫌でも夢ではなかったんだと実感させられた。
うまく力の入らない体を起こして、周りを見てみる…
既にカレンの姿はどこにもなく、俺が殺したゴブリンの死体が無造作に地面に転がっているだけだった…
「…ふ…ふは…あはは…なんだよこれ…」
なんとも言えない無力感と、全てを失った絶望感が広がる…
楽しい訳じゃない…
何も面白いわけじゃない…
それなのに、乾いた笑いが自然と出てくる…
「なんなんだよ…はは…こんなの…俺の…なんだよ…」
苛立ちなのか悔しさなのか…自分でもよく分からない感情が膨れ上がり、頬を幾筋もの涙が伝う。
地面を殴ると、土が抉れてへこみが出来た…
「クソ…クソ!クソ!クソー!!」
何度も地面に拳を振り下ろす、その度に地面は抉れるが、痛みはない…
俺は立ち上がる気になれず、そのまま地面に突っ伏すと、声を上げて泣き続けた…
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる