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第1章
第11話 定番のアイツ?
しおりを挟む木の上に設置したばかりのテントを収納し、優子には、ぬいぐるみを連れてさらに高い位置に登ってもらう。
高さ的なことを考えるなら、テントを張っていた位置でも安全だとは思うけど、追跡狼よりも大きかった場合や、跳躍力の高い相手だった場合、届いてしまう可能性があるし、葉っぱがそこまで密集している場所でもないから、視線が通ると優子達が標的にされてしまうかもしれない。
出来るだけ不確定要素は減らしておかないとだからね。
ロープで作った落下防止ネットは…
後で張り直すのが面倒だし、これだけなら見つかって攻撃されても問題ない。
だからわざわざ外さずにこのままにしておく。
『情報提示。敵性体が、間も無く視認可能になります。』
ナビさんに言われて、俺は南方向に視線を移す。
葉っぱと枝で視界は良く事もあり、俺の目にはそれらしいものは何も見えない。
『情報提示。数は1体、種族名は豚人族、豚の因子を持つ獣人種です。
雄なので通称は豚男となります。』
獣人?魔物じゃないらしいが、ナビさんは敵だと言っている。
個人的に獣耳は嫌いじゃないんだが、近づいて来るのは豚の獣人…
ファンタジー系の作品に必ずと言っていいほど出てくる、豚っぽい魔物みたいなものだとしたら、獣人でも意思疎通が出来るか微妙なところだな…
(ナビさん、その、豚人族だか豚男だかの特徴は?)
『回答提示。豚人族は、獣人種の中でも獣化率の高い部類の種族になり、殆どが雄の豚男になります。
膂力、嗅覚、繁殖力に優れていて、鉱物以外ほとんどのものを消化できる、非常に強靭な消化器官を持っています。
その反面、知性は他種に比べるとかなり劣るため、意思疎通を図るのは困難です。
種族特性として、残虐性、嗜虐性が非常に高く、他種族の集落を集団又は単独で襲い、雄は雌を、雌は雄に対して凌辱行為を自らの欲求が収まる、若しくは相手が壊れるまで長期間繰り返し行い、その後は同種以外の全て殺して食料としてしまいます。
また、一定の場所に定住することはあまりなく、森、平地、荒地、湿地…様々な場所を転々と放浪する種族です。』
…うん、聞く限りではほぼ豚の魔物だな。
俺の目には、まだその姿がはっきりとは見えない距離だが、さっきからこちらに向かって来ているのだけは分かっている。
このままいくと確実に接敵することになるだろう。
見た目が人に近いと、忌避感があるかも知れないが…敵なら倒すしかない。
躊躇することで、俺や俺の家族が傷付けられたり死ぬのなんて、絶対に避けないといけないからな。
「…よし!優子、もう少しで敵が近くに来るみたいだ!絶対に降りて来るなよ!いいな!?」
「分かったー!ぼんも気をつけてねー!」
「マメのことはオレに任せて!」
「ぼんさん!気をつけてー!」
「おう!」
俺は気合を入れ直し、優子達に見送られて木から降りる。
ここからは時間との勝負だ。
まずは、快速蜘蛛の動きを止めるのに使った毒蔦の塊と、作業用に革手袋をストレージリングから取り出したておく。
毒蔦には、大小様々な大きさの鋭い棘が無数に生えていて、強めに掴んでしまうと、革手袋をしていても手に刺さって結構痛い…
この棘を敵に踏ませられれば、撒菱みたいな感じで足止めになるんじゃないかと考えて取り出したんだ。
ワサワサと絡まっている毒蔦の塊をほぐしながら、木の周りの地面に出来るだけ遠くまで広げていった。
薄く広く広げることで、罠としての視認性を下げる効果があるし、範囲が広ければそれだけ安全な距離を増やすことが出来るからだ。
上手くいけば、相手の行動を阻害する空間が出来上がるし、少しでもこちらが優位に立ち回れるようにして、生存率を上げていく。
毒蔦の罠を設置し終えたら、魔石を分離した快速蜘蛛の死骸を、木の真下に置いておく。
これは豚男の注意を引くための仕掛けでもあるが、適当に毒で苦しんだみたいなポーズをとらせておくことで、少しでも知性があるなら近づくのを諦めてくれないかなって期待もあった。
本音は、豚男が腹を減らしているなら、餌と認識して毒蔦地帯に無警戒に飛び込んでくるだろうから、その後押しにしてやろうと思っただけなんだけどね。
最悪、警戒して動きが鈍ってくれるだけでいいと思ってる。
「さて…どう動くかね…」
ストレージリングから旋棍を取り出し、木から少し離れた藪の中に身を潜ませて、俺は豚男の到着を待つ。
…数分後…
FUGO…FUGO…
(きた!)
姿を現した豚男は、豚のように鼻を鳴らしながら、優子達の登っている木に一直線に向かっていく。
見た目は、大柄で太ったブヨブヨの中年の体に、見た目醜悪な豚の頭が乗っているもので、ホラー映画の殺人鬼に、似たような豚のマスクを被ったやつがいたことを思い出してしまう。
現実で目の前にいる豚男は、その何倍も気色の悪い見た目をしているけどね。
服と呼べるのかも怪しいが、体にはボロボロの獣の毛皮のようなものを腰回りに巻きつけただけで、靴の様なものは履いていない。
手には、武器のつもりなのか木を削っただけの棍棒のようなものを持っている…
豚頭の原始人とでも言えばいいだろうか?
「コノチカク…ニオイスル…」
豚男は、片言ながら言葉を解しているらしい、独り言にしては大きな声で呟きながら、鼻を鳴らして周囲を確認し始める。
あんな見た目でも人の亜種である獣人らしく、耳障りな濁声で発した言葉が、きちんと聞き取れてしまった。
それが更に気持ちが悪さを増加させる。
「ン?アレ、クモ?」
足元の毒蔦に気が付いて警戒したのだろうか?
豚男は木に近づくことなく、俺の設置した毒蔦地帯の手前をウロついていたのだが、快速蜘蛛の死骸に気がついたことで、意識がそれに向いてしまったようだ。
「ブホォホォ!クイモノ!」
それまで警戒していたのかと思ったが、蜘蛛を見つけた後の行動を見た後だと、たまたま警戒していた様に見えただけなのが分かった。
豚男は毒蔦地帯に足を踏み出し、鋭い棘を素足で踏み抜いてしまう。
「ピギー!!ナニコレ!!」
豚男は、棘が足に突き刺さり、その痛みに飛び上がる。
が、毒蔦の棘は、一度刺さると簡単には抜けないように返しが付いた構造になっているため、豚男は足裏に棘が刺さったまま飛び上がってしまい、そのまま着地することで更に深く棘が足裏に食い込んでしまった。
「ピギャー!!イタ!ピギャー!!」
棘が深く刺さった痛みに豚男は、バランスを崩して地面に手をついてしまう。
当然、周囲には毒蔦が隙間なく配置されているため、豚男は更なる痛みに悲鳴をあげることになる。
「ピギャ!ピギー!!ナ、ピギャー!!」
痛みに耐えられずに地面を転がってしまった豚男には、動く度に新たな棘が身体のどこかに突き刺さる。
豚男はその痛みで、悲鳴を上げて更に地面を…
そんな拷問じみた光景が暫く続いて、豚男の悲鳴が殆ど聞こえなくなった所で、俺は藪の陰から顔を覗かせる。
全身に毒蔦の棘が刺さり、簀巻き状態になっている豚男の生死を確認するためだ。
「ピ…ピギー…」
俺の姿が視界に入ったことで、豚男は弱々しく鳴き声を上げる。
まだ生きているだろうとは思っていたが、地面に血だまりを作るほど出血しているのに、意識があることに少しだけ驚いた。
身動ぐことすら出来ないほどに弱ったように見える豚男に、「少しやり過ぎたか?」と若干の哀れさを感じていたが、それも直ぐに思い違いだと気付かされる。
「お前は何しにここへ来たんだ?敵対しないなら治りょ…」
「ピギー…ヒト…オンナ…ヨコセー!ピギャー!!」
俺の問いに答えることなく、豚男は血走った目を見開いて、口から血の混じった泡を飛ばしながら叫ぶ。
無理に動いたことで、毒蔦の棘が更に皮膚を切り裂いてしまい、周りに鮮血を飛び散らせ、悲鳴なのか威嚇なのかよく分からない声をあげる豚男。
頭が悪いらしいから、状況を把握して考えるってことを知らないんだろうな。
「そうか…お前らはオークみたいなものなんだな…」
ゲームや小説に出てくるオークは、人やエルフの女性を陵辱している描写が多くみられるが、こっちの世界だと豚男達、豚人族がそれに近いんじゃないかと思えてきた。
豚男は獣人らしいが、ナビさんの言っていた通り、オークと同じ性質の害獣なんだろう。
(ナビさん。最後に確認だ、こいつは敵でいいんだよな?)
『回答提示。明らかな害意を持ってこちらに近づいて来たのは事実です。』
豚男が少し大人しくなったのを確認し、ナビさんに最後の確認を行った。
敵だと断言しないまでも、こちらを襲うつもりで近づいてきたのは、さっきの言葉で分かってはいた…残念ながら、こいつは敵で間違いないらしい。
この星では、獣人とは仲良くなれないのだろうか…
ケモナー気味な自分としては、少しだけ残念な気分になっていると、豚男がまた口を開く。
「ピギギ…オマエコロス!ギギ!コロスー!!」
膂力に優れるとナビさんが言っていた通り、豚男は毒蔦を引きちぎろうと咆哮を上げて力を込め始める。
ブチブチと何本も蔦の切れる音が聞こえるが、俺はまだまだ結構余裕だったりした。
今まで豚男を拘束していたのは、昨夜快速蜘蛛を捕まえるのに使った、言うなれば残り物。
敷き詰めた毒蔦で狙ったのは、「足を怪我して動きが鈍ってくれるといいな」程度のことだし、本命は動きが鈍った相手への追加魔法攻撃だったりするからだ。
もっとも、馬鹿みたいに転がるから、これで想像以上の効果が出たのは嬉しい誤算だったけどね。
「ピギャー!コロス!コロスー!」
まぁ、豚男のダミ声は、そろそろ聞くに耐えないレベルだし、このまま時間を与えていて、万が一反撃されても面白くない。
ってわけで…
「いい加減うっさいから黙れ。彼者を縛れ毒蔦縛!」
BUMOOOOoo……
豚男の断末魔にも似た咆哮は、魔法で新たに生成された毒蔦が成長する程に小さくなっていき、そのうち聞こえなくなった。
ーーーー
作者です。
なんだかんだで、気がつくとあっさり戦闘になってしまいます。
主人公の性格上、正面戦闘はあまりしないからですけど、そのうち王道バトルは出来るのでしょうか?
感想その他、お時間あれば是非。
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